第18話それからアーサーは(3)
父親を交通事故で失ったアーサーは、その悲しみに心を飲まれてしまい、再び引きこもりになってしまった・・・。
この時は引きこもる前に会社に長期の休みを申請していたが、引きこもり中はやはり少年時代のように全く部屋から出なくなった。
そんなある日、引きこもるアーサーのところに親友が訪ねてきた。
アーサーが玄関のドアを開けると、そこには笑顔の親友がいた。
「よお、アーサー!元気にしているか?」
「・・・僕が元気に見えるかい?」
「まあ、そうだよな。今までお前を世話した親父が急に死んでしまったからな、悲しいのは解る・・・。」
そして親友は話しながら玄関を上がっていった。
「おい、勝手に上がってくるなよ。」
「でもさ、お前が悲しみ続けるのを天国の親父が望んでいるのか?お前が元気でいることが、父親の望みじゃないのか?」
「うるさいなあ、父親じゃないのにたいそれたことを言うな!!」
すると親友はアーサーの頬を思いっきりビンタした。
「いい加減に元気出せ、こんなところでめそめそしていても人生暗いだけだろ!?だったら、お前がやりたいことをしろよ」
「僕のやりたいこと・・・、僕のやりたいこと・・・」
アーサーは真剣に考えた・・・、そして一つの答えを見出した。
それは・・・、かつて親友ができた国・・・・日本へ行くことだ。
十歳の頃、ホームステイ先で行った素晴らしい国だった。イジメを受けたという辛いこともあった、しかし日本はそれでも素晴らしい国だった。
そしてまたいつか行ってみたいという気持ちをアーサーは思い出した。
「日本に・・・、日本に行きたい。」
そして日本を思い出した時、アーサーは俺との約束も思い出した。
「そういえばまだ手紙を書いていなかったな・・・・、竜也くん元気にしているかな・・・。」
「竜也くんって誰?」
「日本でできた僕の親友・・・、誰も寄せ付けないほど乱暴な人だったけど、どこかかっこよくて素晴らしい人だよ。そういえば最後に彼と話した時に、彼の背後にドラゴンがいたな・・・、あの時は怖くて逃げてしまったなあ・・・。もしまた竜也君に会ったら、またドラゴンを見せてくれるかな?」
アーサーは無意識に笑顔を取り戻した、そして父親の死による悲しみから抜け出した。
「お前・・・、日本でそんなにいい友達をもっていたのか。どうして俺に教えてくれなかったんだよ。」
「あれ?言っていなかったんだ、ごめんね!あー、久しぶりに君と話していたら元気が出てきたよ。本当にありがとう」
「どういたしまして。そういえば俺、お前に言わなきゃいけない事があって、お前の家に来たんだ。」
「言わなきゃいけないことって何?」
「俺、プロの格闘選手になったんだ。どうだ、凄いだろ?」
「本当に!?よく頑張ったね、凄いよ!!」
「今はまだタイトルを取れていないけど、これから勝ち続けてタイトルを手に入れる。そうなったら、またお前に報告するわ。」
こうしてアーサーは、その日親友との話に明け暮れた。
それからアーサーは仕事に復帰し、スポーツジャーナリストとしての日々を再開した。
そんなある日、同僚から親友が出場している総合格闘技の大会の決勝戦が行われるという話を知り、その決勝戦に親友が出ることを知った。
アーサーは取材と自分を絶望から助けてくれた親友の大一番が見たくて、同僚と一緒にその決勝戦を見に行った。
「本当にここまで来たんだ・・・。」
アーサーは親友の凄さを思い出した。
アーサーと親友の出会いは十四歳の時、何でもない放課の日に親友の方から話しかけられた。
あの頃、再登校したてで母親の不倫による悲しさがまだ心の中に根強く残っていた。
「よお、アーサーか?」
「・・・そうだけど?」
「一緒にカフェテリアへ行こうぜ!!」
この親友からの誘いがきっかけだった。
そのうち自分から親友をカフェテリアへ誘うようになり、無意識のうちに二人は親友になった。
そして日本でホームステイしていたこと、母親が不倫して離婚したことまで話した。
「そうか・・・、お前もいろいろ辛かったんだな。だけどその分、楽しんで過ごしたらいい。そうしたら、辛い話も思い出話になる。」
「・・・そうだね、じゃあ楽しく生きていくにはどうしたらいい?」
「そんなこと考えなくてもいいよ、とにかく毎日生きていればいいだけの話だ。」
こうして二人の関係はあの頃まで続いた。
そう・・・あの決勝戦が、アーサーと親友の絆に亀裂をいれる出来事となった。
「おお!!いいぞ、いいぞ!!落ち着いて・・・。」
アーサーは手に汗握りながら試合を観戦していた。
しかし、試合の結果は残念ながら親友の敗北に終わった。
アーサーは親友の所へ会いにいった。
「あの・・・、お疲れ様。」
「ああ、アーサーか・・・。」
「残念だったね。」
「残念・・・それだけで済んでお前はいいな」
その発言にアーサーは少し困惑した、親友は皮肉めいた笑みを浮かべた。
「俺はこの日まで努力をしてきた・・・、汗と苦しみをたくさん体から流してがんばってきた。」
「うん、そうだよ。選手の辛さは僕にはわからないけど、大変だなあとは感じているんだよ。」
「そんな気休めはいらねえんだよ!!」
アーサーは初めて親友がキレた表情を見た。
「俺は今まで格闘選手のことをどこか甘く見ていた・・・、勝ちを取ることが息をすることと同じぐらい重要だということを、思い知らされた。どんなに努力しても勝利という形を積み重ねていかなかったら、この世界では生きていけない。だから俺は必ず勝つ気で試合に挑んだ・・・。だから敗北すると、よけいに気分が辛くなるんだよ!!」
格闘選手として生きていく現実が親友を変えた、アーサーは親友の言動からそう読み取った。
「そうか・・・、でも生き続ければいつか努力が勝利に変わる事もある。今がつらくてもいつか・・・」
そこまでアーサーが言った時、親友はアーサーをぶん殴った。
「そんなきれいごと、今更遅いんだよ。この世の中は、今の一つ一つが大切なんだよ・・・。お前は気楽な世界で生きているから、俺の気持ちはわからない。もう帰ってくれないか。」
「・・・うん、わかったよ。」
これ以上親友の悲しみを刺激してはいけないと察したアーサーは、静かに親友の元から離れて行った。
そしてこの出来事を機に、アーサーは親友と自然に疎遠になった。
その後、アーサーは長期休暇を取ってホームステイ以来の日本へやってきた。
来日の目的は観光だけではなく、総合格闘技の大会を観戦するためでもあった。
成田空港についたアーサーは、東京の観光スポット巡りをした。
雷門を歩いていた時、一人の女子大生がおっさんに絡まれていた。
「キャーッ!!ヤメテーーー!!」
「ねえねえ、僕のこれ凄いでしょう?」
おっさんはハアハアといやらしくしている、明らかな変態だ。
「おい、嫌がっているだろ!!」
アーサーは女子大生を助けるために、おっさんの間に割って入った。
「おい、邪魔するな!!」
「あんただって、女を泣かせるようなことをするな!!」
「んだと!!外人のくせに!!」
おっさんは逆上してアーサーに襲いかかった、襲われたアーサーは驚いて右足を動かした。
この右足が運よくおっさんの股を直撃して、おっさんはその場に倒れ込んだ。
「あれ・・・?あの、大丈夫ですか?」
おっさんは失神してしまったようだ、その後女子大生の通報により駆けつけた警察が、おっさんを連行した。
「あの、助けて頂いてありがとうございます。ところで外国の方ですか?」
女子大生がアーサーに質問した。
「ああ、アメリカから来たアーサーといいます。」
「かっこいい名前ですね。」
「そうですか・・・、照れるなあ。」
「あの、助けてくれたお礼をさせてくれませんか?」
「ええ、でも特にほしいものなんて無いし・・・。」
「だったら何かおごらせてください、あなたの行きたいお店で構いません。」
それならアーサーは、日本に来たら食べたいと思っていた天丼の美味しい店に女子大生と行った。
その女子大生の名前は
「そうなんだ、ところで将来はどうするの?」
「私、アメリカに留学しようと思います。将来の夢である国際ジャーナリストになるために。」
「そうか。実は僕、スポーツジャーナリストなんだ。今は休暇で日本へ観光しにきているんだ。」
「そうだったんですか、日本は初めてですか?」
「いいや、十歳の頃にホームステイで来たことがあるんだ。」
「ホームステイをしていたんですか!いいなあ、私も子供の頃にやってみたかったなあ・・・。」
桜木は目を輝かせている。
「いや、実際はいいことばかりじゃなかった。」
アーサーはホームステイしていた当時のことを語りだした、桜木の顔は憂いの表情になった。
「そうか、イジメを受けたんだ。私も小学生の頃に酷くからかうイジメを受けたことがあるんだ、両親や先生に言ったけど「大げさにすることじゃない」って言われて、ちゃんと解決してもらえなかった。何とかこらえていたら、イジメは自然に消えたけど、消えるまでは死にたくなるほど苦しかった・・・。」
桜木の苦しみがアーサーには理解できた、特に理由もなく傷つけられる苦しみは、経験者じゃないと理解できない。
「そうか・・・、僕たち似た者同士だね。」
「そうね。私、自分の苦しみを理解してくれる人と出会えて良かった。」
「それは僕だって同じさ。」
その後、桜木は二人分の注文の料金を払うと、アーサーと別れた。
アーサーと桜木がこの後、出会う事になるのだがそれはまた後の話。
東京観光をしてホテルで一泊した、その後アーサーは新幹線で名古屋へ行った。
名古屋に行ったのはそこで開催される総合格闘技の大会を観戦することである。
「さあ、どんな試合が見れるかな・・・。」
アーサーはワクワクしながら席についた。
そしてある試合での時、アーサーは驚愕の表情になった。
「赤コーナ、鹿児島の覇者・
「青コーナ、愛知の巨竜・タイラント城ケ崎!!」
その試合には俺が出場していたからだ。
あの時、「将来の夢なんてない」なんて言っていた竜也君が総合格闘技の選手になっていたなんて、夢にも思わなかった。
試合は竜也君が勝利した、竜也君の勝利に会場から歓声の爆音が響き渡った。
後で観戦に来ていた人に竜也君について訊いてみたところ、彼は「総合格闘技の世界に突如として現れた新星」と呼ばれ、多くの格闘ファンから人気を呼んでいるらしい。
「竜也君・・・、僕と別れてからこんなに凄い人になっていたんだ・・・。」
親友の意外な活躍に驚いたアーサーは、元気がみなぎるのを感じた。
そしてその興奮を脳内に焼きつけたアーサーは、翌日、中部国際空港からアメリカへ帰国した。
そしてそれから三年後、留学でアメリカに来ていた桜木と再会して恋仲になり、今から二年前に国際結婚をした。
ちなみに疎遠になった親友だが、会う事は無いにしてもその活躍を耳にすることは未だに変わらない。
そしてその親友の名は・・・、ガウェインである。
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