第17話内外での激闘

昨日イグニスのスカウトを拒絶した俺は、今日試合会場に来ていた。

今日は日本VSケニアの試合、ちなみにイグニスにスカウトされた件については岩井にだけ話してある。

「竜也、よく断った!あんなとこに入会したら、反則行為をさせられて選手じゃなくなっていたところだ。もしイグニスがまたお前をスカウトしに来たら、俺がイグニスに引導を渡してやる。」

岩井はこう言っていたが、イグニスが俺をスカウトすることは今後ないだろう。

一回戦は目白VSガーラ、体格差はガーラの方が上だが、勝利したのは目白だった。

二回戦は松井VSショー、この試合は互いに激闘が続き、なんとダブルノックアウトで終わった。

俺は目白と一緒に松井をタンカに乗せた、そして三回戦へ挑んだ。

『赤コーナ、愛知の巨竜・タイラント城ケ崎!!』

『青コーナ、マサイの格闘王・ニキラ!!』

ニキラは顔に奇妙な模様をつけていた、おそらくマサイ族独特のものだろう。

『レディー・・・ファイト!!』

ゴングが鳴った、俺はニキラに先制ジャブをきめた。

しかしニキラはフットワークを上手く使って、俺の攻撃をかわしながら攻撃をしてくる。

『さあ、まずはお互いに相手をけん制しあっています。お互いに一歩も引かずに戦っております。これが総合格闘技の醍醐味といったところ!!さあここからどんな展開が、待っているのでしょうか?』

するとニキラが俺をグランドに倒してアンクルホールドをした。

「ぐっ・・・、くそ・・・!!」

足を封じられて上手く動けない、しかし俺はこんな時でも拳をふった。

そしてニキラの脇腹に俺の拳がヒットした、ニキラは痛みに耐えかねて封じ込める力を緩めた、この隙に俺は起き上がった。

『竜也選手、見事に立ち上がりました!!さあここからどのように攻めていくのでしょうか、ここでブレイクタイムです。』

レフェリーからの指示を受けた俺は、ネットに寄りかかって休んだ。

「ニキラ・・・、やるじゃないか。」

すると俺に向かってヤジが飛んできた。

「竜也、負けろ!!」

「ドラゴンは潰されろ!!ドラゴンは負けろ!!」

「竜也はリングから降りろ!!」

俺を罵倒しているのは、黒人の集団。日本に来た外国人というところだ。

「おい!!なんなんだ、お前らは!!今すぐにそのうるさい合唱をやめろ!!」

岩井が黒人の集団に向かって叫んだ、しかし黒人の集団は罵倒をやめない。

「あいつら・・・うるせえなあ・・・。」

罵倒なら幼い頃から浴び続けられてきたので、特に苦しいことはない。

レフェリーから試合再開の合図がかかった、俺は再び試合に戻っていった。

『おっと、今会場内に侵入者が入ってきたという知らせが入ってきました。ただいま警備員が追い出しにかかっております。』

しかし俺は闘いを続けた、このニキラがお前らにとってどれだけ素晴らしい選手なのかは、わからない。

だが格闘技の試合以前に、どんなに素晴らしい選手でも試合で負けることがある。それがわからない人に応援されたら、俺は不快な気分になる。

俺はニキラとグランドに倒れてカーフスライサーをきめた。

『おーっと、竜也選手!!カーフスライサーだ!!ニキラのふくらはぎを潰しにかかります、ニキラ選手はかなりの重傷を負う予感がします。さあ、竜也選手はこのままニキラを抑え込むのか!!』

俺は全身に力をこめてニキラを抑え込んだ。

「竜也、ニキラから離れろ!!」

「竜也、消えろ!!」

「消えろ、消えろ、消えろ!!」

そしてあいつらは俺に向かって石を投げた、体に衝撃が走る。

「くっ・・・、あいつら・・・!!」

俺は態勢を崩すまいと必死にこらえた、しかし石は容赦なく投げられる。

「おい、てめえら!!選手たちに何てことしているんだ、今すぐに石投げを止めろ!!」

岩井が物凄く怒っている、それは俺も同じだった。

どんな状況に置かれても俺は闘う、しかし派手な演出のために相手選手に石を投げるなど言語道断だ。

「あたっ・・・、ヤメテ・・・。」

俺はニキラがかすかな声を上げたのを聴いた。

「イタイ・・・、コンナノ…試合ジャナイ・・・、イダト、ヤメテ・・・。」

俺はそのかすれた声に嘆きの心を感じた・・・、正々堂々と試合をしてこその選手なのに、ルールを無視する一方的な力で理不尽な目に遭っている。

「やめろおおおおおーーーーっ!!」

俺は怒りのままに叫んだ、石を投げた連中は驚いた表情で石を投げるのをやめて、俺を凝視した。

俺はこいつらに向かって叫んだ。

「さっきから石を投げつけやがって、お前らは最低だ!!お前らが何も考えずに石を投げるから、ニキラにも石が当たっているぞ!!お前らがどういうつもりで石を投げているかは知らないが、これ以上試合を妨害するならお前らを全員ぶん殴ってやるぞ!」

そしてリングの上にドラゴンが現れた、ドラゴンは宙に浮かんだまま怒りの表情で俺たちを見下ろしている。

『これはどうなっているのでしょうか、突如ドラゴンが現れました!!こんなCGがあることは聞いていません、という事はこれは本物のドラゴンということでしょうか!!』

『竜也、こいつらは試合を侮辱した。私がこいつらを何とかする、竜也は試合を続けるんだ。』

ドラゴンが言った、しかし黒人の集団はドラゴンの威圧感で動けなくなっている。

しかしここでゴングが鳴った、そこで試合中だったことを思い出した。

『おーっと、ただいまニキラ選手から降参が出ました。よって勝者は、タイラント城ケ崎選手です!!そしてここで例の黒人集団は、駆けつけた警備員によって全員会場から出たようです。これで一件落着、それでは次回の試合で会いましょう。』

試合が終わり、俺はリングから降りた。









帰り支度を終えて俺が出口に向かおうとすると、ニキラが俺に話しかけてきた。

「リュウヤ・・・、ホントウニゴメンナサイ!!」

ニキラは片言の日本語で言った。

「・・・気にするな。」

「デモ、チャントアヤマリタイ。ミンナガアンナコトシテシマッタノハ、ボクノセイナンダ。」

面倒だが誠意のある奴だ、俺はニキラに言った。

「俺はお前から謝罪を聞こうとは思わない、だがお前が俺に言いたいことがどうしてもあるというのなら、俺はその話だけを聞いてやる。」

俺の真剣な視線にニキラは頷いた。

そしてあの黒人の集団の正体について語った。

それはイダトを中心とした「カンヤーオレン」という会社の者たちだった。

「カンヤーオレン」はマサイの言葉で愛してるという意味の言葉、それを名にした会社の社長がイダトで、ケニアで生産された物品をフェアトレード商品として日本で売りさばくことを仕事としていた。

イダトとニキラは親友で、ニキラが総合格闘技の選手になるとイダトはニキラのサポーターとして、ニキラを全面的にバックアップしていた。

そしてニキラが全世界格闘技フロンティアに出場することになると、イダトは会社の知名度アップもかねてよりニキラをサポートするようになった。

しかしケニア代表の成績は悪く、優勝の可能性は無いにしても「カンヤーオレン」の知名度アップにはならず、フェアトレード商品の売り上げは落ちる一方だった。

そんな時にニキラは「マッチ・クリエイター」の一員からこう言われた。

『お前の親友が営んでいる会社の商品を高額な値段で購入してやる、そのかわりに親友の力を借りれるように口を利いてくれないか?』

最初はこの話を無視していたニキラだったが、ふとイダトに話してみたところイダトは「その話をした人に会わせてほしい」と乗り気で言った。

親友の頼みを断れずに、ニキラはイダトに「マッチ・クリエイター」の一員を紹介した。

マッチ・クリエイターの一員がイダトに言ったのは、先ほどの試合で俺を罵倒し妨害することだった。この話に乗れば、商品の高額購入だけでなく「カンヤーオレン」の宣伝もするということだった。

話を聞いていたニキラは「こんな卑怯な話に乗るな」とイダトを止めたが、イダトは「この話を逃せばお前と俺の会社が有名になれない、少しでも知名度アップをするためにやらせてほしい」と真剣な顔で言われた。

ニキラはイダトを止められなかった・・・、そして当日、ニキラは志願した会社員三十人と一緒に試合会場に突撃して試合を妨害したということだった。

「ボクトニキラハ、フルサトノタメニイキテキタ・・・、ダケドソノタメニ、キミヲキズツケ、ヒキョウナコトヲシタ・・・。ダカラツミヲツグナワセテホシイ。」

「そんなこと、どうでもいい。だからニキラのとこに行け、そして彼との付き合いについて自分で決めろ。」

そして俺は土下座するニキラを残して、合宿所へと向かった。










その翌日、アーサーが取材にやってきた。

取材の話を終えた後、俺はニキラとイダトの件をアーサーに話した。

「あの事件にそんな裏があったなんて・・・、ニキラには同情するけどイダトのしたことは最低の行為だよ。」

ちなみにアーサーによると、イダトはその後社員達とまとめて警察に逮捕され、取り調べで「あいつに騙された、ニキラの言う事を聞けばよかった」と後悔しているらしい。これで「カンヤーオレン」の倒産は確定だろう。

「それにしてもあんな手までして、試合を妨害するなんて・・・。イグニスは何を世界に発信しようとしているんだ?」

「彼はただ純粋な闘いを見せようとしているんだ・・・、まあイグニスの思想としての話だけどね。スポーツを見ている僕や選手として参加している君は、不快に感じてしまうが、人々の中にはそういうのを熱狂的に好む人もいる。」

アーサーは暗い顔をした・・・。

「実は全世界スポーツ連盟がこの全世界格闘技フロンティアを無くそうとしているんだ、それでここからは原則他人に言ってはいけないんだけど・・・、君になら話してもいいかな?」

「あ?一体、どういう話だ?」

「僕は全世界スポーツ連盟から来た、特別調査員なんだ。普段からスポーツジャーナリストとして、スポーツ大会の健全な開催に務めている。今回は全世界格闘技フロンティアの調査としてやって来たんだ、イグニスは『不正と暴力によるスポーツ精神の破壊行為をしている』として目を付けていたんだ。」

俺と同様、狙われているのにも関わらず全世界格闘技フロンティアについて取材するのは、このためだったのか・・・。

「そうだったんだ・・・、アメリカに帰ってからお前は凄い人になったんだな。」

「あははは・・・、君がそこまで驚くなんて思わなかったよ。それじゃあ、僕の過去の続きを話すとしよう。」

アーサーが過去の話をしていたことを思い出した、確か父親が事故で死んだとこからだったな・・・。

そしてアーサーは語り始めた。

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