第15話ドラゴンの我流

アーサーから全世界格闘技フロンティアの闇を聞かされた俺は、胸糞悪い気分を抱えながらトレーニングをしていた。

みんなはスポーツで反則行為をしたら、どんな気分になるだろうか?

まともな選手なら罪悪感を抱えるだろうが、勝利を至上主義とする選手なら反則行為くらいどうということはないと思っていることだろう。

しかしもし全てのスポーツからルールが消滅したら、それは全てのスポーツがこの世界から消滅したのと同じことだ。

それはスポーツ選手という存在の価値を下げることだ、ルールの範囲内でどうパフォーマンスするかで、スポーツ選手の存在価値が光るのだと俺は思う。

『竜也、私に提案がある。話を聞いてくれないか?』

ドラゴンから何か話があるようだ、俺はトレーニングをしながら耳を傾けた。

『竜也に私の力をより強く使用するために、我が必殺技を伝授しようと思う。受けるつもりはあるか?』

ドラゴンの必殺技・・・、それは口から炎とか吹雪を出したりする「ブレス」と呼ばれるものだろうか?もしそれなら、ルール違反になるのでお断りだ。

「格闘技に使えるものなのか?」

『もちろんだ。恥ずかしい話だが、我はドラゴンでありながらブレスはあまり得意じゃないんだ。我の戦いは物理的な攻撃ばかり、でもそれをお前の体で使いこなせたらこれまでよりも我の力を引き出せる。そうすれば何時ぞやのジークフリートを宿す黒いマスクの奴にも勝てるかもしれない。』

黒いマスクの男・・・、初めて俺が自分以上の強さを感じた男だ。

そいつが何者でまた出会うのかはわからないが、そいつを倒せば自分自身の限界を越えた証明にはなるだろう。

「わかった・・・、ドラゴンの必殺技をやってみるよ。」

『うむ、さすがは竜也だ。では後刻、修行を始める。』

そう言い残してドラゴンの声は止んだ、果たしてどんな修行が待っているのか?








日をまたいだばかりの午前一時、俺はドラゴンに起こされて修行を始めた。

『我が必殺技、それは「ドラゴンナックル」だ。それは空中に飛び上がって、力を込めた拳で相手に打撃を与える技だ。』

聞いている限り、アニメに出て来そうな感じがする必殺技だ。しかもドラゴンのネーミングセンスがダサいということがわかった。

「説明はいいから、早く始めてくれ。」

『ああ、それでは始めよう。』

それからドラゴンとの特訓が始まった。

まずは拳に力を込める練習だ、ドラゴンの力を拳に溜め続けるのは思ったよりも難しい。

『ああ、それではまだまだ必殺技の完成には程遠いな・・・。これから修行を重ねることが、今のお前には必要だ。』

そんなこと俺でもわかっている、だから必殺技は凄いのだ。

それから俺はドラゴンの力を真に使いこなせるように、特訓を続けた。

今まではピンチの時の最後の手段として利用しているにすぎないドラゴンの力、しかしそれを極めるために改めて向き合っていると奥深さに気づき、それを使いこなすことの難しさを肌で感じることができるのだ。

『竜也、今はまだ上手く使いこなせないがそれはお主の努力次第で変えることができる。諦めればそこまでだが、諦めなければ必ず何かがつかめる。その時が何時になるかはわからないが、必ず見えることは間違いない。』

ドラゴンの言うことに俺は納得した。トレーニングや修行を地道に続けるのは、確かに苦しくて孤独な行為だ。しかしそれを続ければ続けるだけ、自分に力と自信と技術がつく。そしてそのことを信じ抜いてこそ、トレーニングや修行で自分自身を向上させるのだと俺は信じている。

そして俺はドラゴンの力を拳に込めてサンドバッグを殴り続けるうちに、俺はドラゴンの力が右腕全体に染み込んでいくのを感じた。

「何だか、右腕が熱い・・・。右腕だけがドラゴンになったような感じがする・・・。」

『竜也、どうやら我が力が体に馴染んできたようだな。その調子で頑張れば、「ドラゴンナックル」を習得できる。さあ、ここからが正念場だ。』

「あのさ、必殺技の習得に一歩近づいたのはわかった。だが『ドラゴンナックル』という名前は、正直言ってダサい。」

『な、何だと!!我は正直カッコイイと思うがな・・・。』

「あのさ、俺が新しい名前をつけてもいいかな?」

『ふむ・・・、それではお主は何て名前をつけるんだ?』

「そうだな・・・、『スタンピング・タイラント』なんてどうだ?」

『むむむ・・・、悔しいが竜也の名前を受け入れよう。』

俺はこれから『スタンピング・タイラント』を習得するために、修行を続けることにした。











二日後、日本VSブラジルの試合が行われた。

ブラジルは最近になって順位を上げてきた勢いのある代表チームだ。

まずは目白VSブレイ、お互いに拳のぶつけ合いから目白がアッパーカットでクリーンヒットを出して、ブレイをKOで倒した。

そして次は松井VSガニア、これは寝技がメインのバトルになって、結果はガニアの勝利となった。

そして最終戦、俺VSサニーの対決が始まった。

『赤コーナ、愛知の巨竜・タイラント城ケ崎!!』

『青コーナ、ブラジルのボブサップ・サニーレイファ!!』

サニーは挑発的な視線を向けた、しかし俺は目を鋭くして身構える。

『レディー・・・、ファイト!!』

サニーの先制ジャブ、俺はさっとかわす。

そこからサニーの連続パンチ、しかし戦っている俺としては見切れる速さだった。

『さあ、サニー選手の連続パンチが出ていますが、対する竜也選手は完全に見切っている!!これは実力か才能の違いが明らかになっているということでしょう。竜也選手、これは勝ちに行けれるぞ!!』

俺はサニーにキラーパンチをお見舞いした、サニーが一瞬怯んだ隙にサニーの腹部にパンチ。

サニーは腹に手を置いてさすっている、そんなに効いたのか?

「何かサニーが弱く感じるな・・・、何かの予感がする。」

しばらく停滞した試合が続き、レフェリーからブレイクの指示が入った。

お互いにリングのはしにもたれる、岩井が俺に話しかけた。

「竜也、この後は一気に行けよ。長期戦は不利になるからな。」

「ああ、わかった。」

こうしてブレイクタイムが終了し、レフェリーの合図で試合が再開した。

「ん?何か意識が・・・」

突然、強烈な睡魔を感じた。しかも一番眠りが許されないこのタイミングで。

『竜也、しっかりしろ!!相手が攻撃してくるぞ!!』

ドラゴンが言ったが、俺は眠気のせいで攻撃に反応できなかった。

しかもサニーから殴られたというのに、眠気が全くなくならない。

これは一体どういうことだ・・・、まさか連中の罠だというのか・・・。

「竜也、どうした!?シャッキとせんか、試合中だぞ!!」

岩井の怒声が聞こえたが、俺のぼんやりとした意識は元に戻らない。

その間にもニヤリと笑みを浮かべるサニーから連続攻撃を受けた。

『竜也選手!!これはどうしたということでしょうか・・・、サニー選手に一方的に攻められています。序盤で見せたパンチをかわしたあの時の竜也は、どこにいってしまったのでしょうか!!このままでは、タイラント城ケ崎はこの試合で初めての敗北を迎えてしまいます!!』

俺はもうろうとする意識の中でも、必死に相手の攻撃を防御した。

しかし攻めなければ勝てない、このままでは俺が力尽きてしまう・・・。

『竜也、今こそ我が力を使う時だ。眠気なんぞ、我が力で吹き飛ばしてくれる!!』

俺は迷わずにドラゴンの力を借りた、すると強烈な眠気は一気に吹っ飛んで全身に力がみなぎった。

「よし、調子が戻った。これならいける!!」

突然の変わりようにサニーも驚きを隠せない、だが俺はサニーの顔面にキラーパンチをおみまいした。

「よし、竜也!!その調子で行け!!」

岩井も俺の調子が戻ったことで機嫌が良くなった。

俺はドラゴンの力を最大限に使って、サニーに拳を連打した。

『竜也選手、ここでいつもの調子が戻ったようです!!さあ、逆襲の逆鱗モードが始まりました!サニー選手、防戦一方でパンチが出せません!!』

サニーはリングのネットに追い込まれた、俺はこの時を待っていた。

「よし、試しにやってみるか!!」

俺は助走して拳に力を込めて、空高く飛び上がり、サニーに向かって拳を出した。

「スタンピング・タイラント!!」

拳はサニーの顔面にヒットした、サニーはネットに体をバウンスさせてグランドに倒れた。

レフェリーがカウントを始めた・・・・、しかしサニーは立ち上がることはなかった。

ゴングの音がなり、俺の勝利が高らかに告げられた。

『竜也選手、奇跡の大逆転!!しかも最後に見せた最後の拳、あれはまさに巨大な拳がぶつかった衝撃を感じさせました!!まさにタイラント!!まさにギガント!!彼は生きる巨竜です!!あの拳は彼の伝説として多くの人の印象に刻まれることでしょう!!これで彼は全世界格闘技フロンティアのヒーローです、みなさん大きな拍手をしよう!!』

俺はドラゴンの力を使った反動で、リングの端に寄りかかったまま動かなかった。

『竜也、見事だ!!あれがタイラントブローだ!!僅か三日でものにしてしまうとは、やはりお前を選んで正解だった。』

ドラゴンが激励を言った、だから「タイラントブロー」じゃなくて「スタンピング・タイラント」だっつーの。

その後、俺は岩井と目白に肩を持たれてリングを下りた。











そして合宿所を出る途中、俺はアーサーに声をかけられた。

「竜也、今日の試合はこれまでの中で最高だった!!多くの逆転劇を見てきたけど、最後の一撃は最高だ!!あれを出した時、君はどう思ったの?」

いきなりマイクを突きつけられても、そう簡単に答えられない。

「あの時は・・・、何と言うか『自分だけの世界』に入り込んだようなものだ。だからあの時、自分がどうやって攻撃したのか覚えてないんだ。」

「そうか、そうだよね。だって、逆転する時の君は暴走しているように見えるから。」

暴走と言われて、少しへこんだ。

アーサーは俺の耳に口を近づけて言った。

「ねえ、ぶっちゃけあれってさ、ドラゴンの力なの?」

やはりドラゴンが見えるだけのことはある・・・、俺は何も言えなかった。

アーサーは黙っている俺の態度に「正解」を察し、ニヤリとした顔で俺を撮影した。











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