第14話初志貫徹の覇道
三日後、全世界格闘技フロンティアに出場する気持ちを新たに固めて、試合に挑んでいった。
今日行われる試合は日本VSインド、インドは最近になって連勝を重ねている勢いのあるチームだ。
「みんな、改めて勝つ気持ちで試合に臨んでいけよ。」
岩井のかけ声に俺・松井・目白の三人が頷いた。
まずは松井VSディーン。激しい激闘の末勝利したのは、悔しながらディーンだった。
「竜也・・・、次の試合いけるか?」
俺は驚いて岩井の方を見た、今までは最終戦でしか出ていなかった俺が、初めて第二回戦に出るのだ。
「いけますが、どうして俺が?」
「インド代表はジーフ選手を出してきた、どうやらこの勝負で決めに行くつもりだ。」
ジーフはインドでは名の知れた選手、これまでの試合でもベストバトルをしたことで有名な選手で、「ハヌマーンの化身」という異名を持っている。
そんな奴をここで出しにきたということは、この勝負に賭ける気でいるようだ。
「わかりました、勝ちに行ってきます。」
そして俺はリングに上がった。
ジーフはハヌマーンの如く顔は猿に似ていて、筋肉はまあまあ隆々である。
『赤コーナ、愛知の巨竜・タイラント城ケ崎!!』
『青コーナ、ハヌマーンの化身・ジーフ!!』
両者戦闘態勢を取って、相手を睨みつけた。
「レディー・・・ファイト!!」
ゴングの音を合図に、互いの拳がとんだ。
フットワークで相手の様子を見ながら、ジャブを放って攻撃をする。
お互いに熟練者同士、まずは様子を見よう。
『さあまずはジャブの打ち合い、お互いに相手の動きをけん制しています。さあ、先に仕掛けるのはどちらだ?』
今のところ、特に卑怯な手を使った様子はない。
ここでジーフはアッパーカットをきめにきた、俺は右にかわしてからジーフにパンチをした。
するとパンチをこらえたジーフは、腰を落として腕をクロスする姿勢をとった。
『変わった構えだな、ふざけているつもりか?』
ドラゴンが言った。
しかしこれはふざけているのではなく、カラリパヤットと言われるインドの伝統的武術である。
カラリパヤットは一時西洋の影響で衰退した時期があったが、二十世紀になりインド独立の気運が高まったことで、息を吹き返した武術だ。
ジーフはそこから蹴りで攻撃をして、今度はネコのポーズになった。
「さあジーフ選手、インドのカラリパヤットをつかっての攻撃だ!ちなみにジーフ選手はテッカンのカラリパヤットを使うそうです。さあ、竜也選手はここからどのように攻めていくのか!?」
俺は柔道・合気道・ムエタイなどと、世間一般に知られている格闘技しか極めていない。正直、インドの伝統的武術を見るのは初めてだ。
ジーフは再び襲いかかった、俺は何とか攻撃をけん制する。
するとその時、リングを照らしていたライトが突然消えた。
『おーっと、これはアクシデント発生!!突然の停電です、試合はまだ続きますが実況はここで一旦止まります。』
俺は厳戒に辺りを見回した、この停電は連中の仕掛けた罠である。
「さあ、何を仕掛ける・・・。」
『どんなことをするのか、お手並み拝見だな。』
すると俺は背後に人の気配を感じた、人の気配は俺の傍にずっととどまっている。
『竜也、あそこだ!!』
「わかっている!!」
俺は背後にいる人の胸ぐらを掴むと、そのままグランドにねじ伏せた。
抑え込まれた者はインド人の男だった、その様子が復旧したライトによってさらけ出された。
その光景にジーフもレフェリーも岩井たちも、目が釘付けになった。
『竜也選手!?これはどういうことだ!?一人の男をねじ伏せているぞ、その男は何者なのか・・・』
ここで実況が止まり、レフェリーからストップが入った。俺がねじ伏せた男は、レフェリーに連れられてリングからおりた。
そして試合が一時中断になって、俺は岩井達と一緒に控室に戻った。
「それにしても、急な停電だったな。」
「なあ、竜也。お前よくあの暗闇で、背後にいる男に気づいたよな。」
目白が俺に言った。
「ああ、直感とまぐれだよ。何か嫌なけはいを感じていたからな。」
「そうか・・・、それにしても試合は一体どうなることやら・・・。」
岩井が頬杖をつきながら言った。
そして控室に入ってから三十分後、レフェリーが控室に入ってきた。
「えーっ、竜也さんが取り押さえていた例の男ですが、インド代表の仲間で竜也さんに妨害行為をしようとしたことを白状しました。結果、インド代表は不正行為により失格、日本代表の勝利ということで日本代表に一点が入ります。」
「てことは、今日の試合は・・・?」
「はい、終了しました」
レフェリーはそれだけ言って控室から出た。
「ふう・・・、今日の試合は何とか終わったな。」
「今日は竜也さんがいち早く気づいて動けたからよかったけど、次の試合でも似たようなことがあるかもしれないと思うと、試合がやりにくいな・・・。」
目白がぼやくように言った。
「そうだな、だけど俺たちは最後まで出場すると決めたんだ。相手がどんなやり方できても、こっちが負けなければ勝ちも同然だ。」
岩井の言うことに、俺たちは頷いた。
翌日、久しぶりにアーサーが取材にやってきた。
「竜也、昨日の試合は大変だったね。まさか暗闇から仕掛けてくるなんて。」
「ああ、俺もあの時はそう思った。連中は一体どうして俺たちに卑怯な手を使って来るんだ?」
「それは僕にもわからない・・・。話は変わるけど、昨日の午前二時三十分に三人の男がこの合宿所に侵入し、岩井コーチを拘束して監禁しようとした。でも偶然起きていた竜也君の活躍で岩井コーチは助け出されて、三人の内の一人・斎藤栄利を捕まえて警察に突き出した・・・、ってことがあったよね?」
アーサーが知っていても無理はない。あの事件は朝の報道番組で速報で報じられ、世間の注目を集めていたのだ。
「ああ。俺がもし起きていなかったら、岩井は監禁され別の奴が監督になっていた。そしてその監督は、連中の息がかかった監督だということだろう。」
「そこまで知っているのなら、話しは早いね。実は君たちに卑劣なことをしている組織の正体がわかったんだ。」
「何だと・・・!?」
俺はアーサーの目を見た、偽りのない気持ちが瞳を光らせている。
「間違いないというのなら、俺に説明してくれ。」
アーサーは頷くと話し始めた。
「まず話を君がバス事故にあった頃まで遡って行こう、あの時のバスの運転手・博末って男だけど、彼に日本代表のバスの運転手の仕事を紹介した人物は
「マッチ・クリエイター・・・、どういった組織なんだ?」
「マッチ・クリエイターはスポーツの開催のサポートを目的に活動しているが、その裏ではドーピングの薬品などを販売したり、レフェリーを買収したりして試合の結果を意図的に操作したりする、スポーツマンシップの欠片もない組織だ。そしてその組織のボスというのが、この全世界格闘技フロンティアの真の主催者・イグニスだ。」
「イグニス・・・。それで博末にはやはり殺される理由があったんだな?」
「ああ、あのバス事故は日本代表全員に重傷を負わせて試合を棄権させるのが目的だった。だから博末は助かっても後々、証拠隠滅のために殺すつもりだった。だけど唯一軽傷で済んだ竜也君という予想外が出現した、だから今度は日本代表に対して徹底的に妨害していくことにしたんだ。」
俺は全てが解り、怒りに震えた。だがアーサーの話はまだ続いた。
「次にオーランドのことだけど、彼がドーピングをしていたのは知っているよね?それでオーランドについて個人的に調べてみたんだ。そしたらフランス代表の選手から、『オーランドが深夜の時間にある男と出会っている』という証言を得たんだ。そいつが誰だかはわからないけど、ドーピングの薬品の入手先としては有力な証言になるし、そいつがマッチ・クリエイターの回し者という可能性もある。しかも後の警察の捜査で、フランス代表選手の全員がドーピングの使用をしていたことも明らかになった。それで選手がドーピングの使用をしていたことについて監督に問い詰めた結果、監督はドーピングの使用を黙認していたことも明らかになったんだ。これには現地のフランスからも非難が殺到して、フランスは全世界格闘技フロンティアを辞退することになった」
全く・・・、どいつもこいつも勝利することしか目先が向かないというのか?
「全く、胸糞悪い話だな。」
「そうだね・・・。さらにこれは噂の話なんだけど、全世界格闘技フロンティアで優勝したら、代表選手全員にアマチュア総合格闘技世界選手権への切符が手に入るって。だからみんな優勝したがると思うよ。」
もう何も言いようがない・・・、こんな胸糞悪い試合をするくらいなら、出場しなければ良かった。
あの時出場すると言った自分をぶん殴りたい衝動を感じた。
「最後にイタリアのことだけど、これが一番酷かった。イタリアの代表は勝利のために、ありとあらゆる手段を使ったんだ。まずは対戦相手のマウスピースを盗んで顔面を攻撃したときにKOしやすいようにしたり、独自に開発した反則のための小道具を使用したり、深夜に対戦相手の宿舎に仲間を送り込んで騒音を起こして安眠妨害をしたりと、本当にいろんなやり方で勝ちを掴もうとするんだ。」
これには俺も怒りを通り越して呆れた、あの時アンジェロの口から外れた凶器つきのマウスピースもイタリアのやり方の一つなのだろう・・・。
「それで、イタリアはどうなっているんだ?」
「君がアンジェロの口から出させたマウスピースで、イタリアに不正行為の疑惑がかかったんだ。それで調査の結果、数々の工作が明らかになってイタリアは失格になった。まあ、自業自得だよね。」
アーサーは当然の口調で言った。
「とにかくこの全世界格闘技フロンティアが腐りきっていることはわかった、だけど俺たちはこの全世界格闘技フロンティアで結果を出すことを決めたんだ。お前が止めようとしても、俺はそれを突っぱねる。」
俺が言うとアーサーは、クスッと笑いながら言った。
「君ならそう言うと思った、それなら僕は君を応援し続ける。もし何かわかったら、引き続き報告するよ。」
それだけ言って、アーサーは合宿所を後にした。
『竜也、アーサーに調査を引き止めるように言わなくていいのか?深追いすると、自身の命が危うくなることをしているんだぞ』
俺はドラゴンの問いにこう答えた。
「アーサーが全世界格闘技フロンティアの闇について調査しようとしまいと、俺の歩むべき道には関係ないことだ。仮に俺が引き止めても、アーサーなら調査をやるだろう。」
ドラゴンは小さく鼻でため息をして納得を示した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます