第13話ドラゴンの訴え

日本VSタイの試合から六時間後、岩井・松井・目白の三人が病院から退院した。

ちなみに獅童は岩井の退院後も、監督補佐として合宿所に残ることになった。

「竜也、病院のテレビからお前の試合を見た。お前はやっぱり強いな。」

「そうだよ、正直うらやましいと思うほど強いぜ。格闘技は何時から始めたんだ?」

松井が俺に質問した。

「格闘技については、十歳ぐらいの頃から独学で極めている。」

「マジかよ・・・、独学であそこまで強くなれるなんて・・・。」

松井と目白は俺を見て驚愕している、俺としては驚くようなことでもないが・・・。

「それより、今日はみんなに重大な話がある。心して聞くように。」

岩井は真剣な剣幕で言った、俺が姿勢を整えると岩井は信じられないことを言った。

「日本代表は、全世界格闘技フロンティアを辞退する。」

「なにっ・・・、それはどういうことだ!?」

俺は認めたくなかった。相手がどんなに汚いルール違反をしても、最後まで試合を続けることを決めていた。

だが岩井は、落ち着いた口調で俺に言った。

「この大会には反則行為が蔓延していて、レフェリーですらそれを咎めずに承認している場面が多い。これはもはや格闘技の試合とはかなりかけ離れたものだ。それにお前もわかっていると思うが、反則行為は相手に損傷させる行為もある。もしも選手生命に関わるほどの損傷をさせられたら、お前だって他人事では済まされないぞ。」

岩井の言う事はもっともだ、俺以外の大勢の人物が言いたいことを言っていたからだ。

「それにな、俺と松井と目白の食中毒についてだが、どうもこれは事件性があるとわかったそうだ。」

「事件性ですか・・・?」

「ああ。あの日の夕食の料理には意図的に、腐敗した食材が使用されたことが明らかになった。警察の捜査ですでに犯人も捕まっている。」

「それで、その犯人というのは何者ですか?」

岩井は少し黙ると、犯人のことを明かした。

「この合宿所のコック長だった・・・、彼はある組織から金を渡されて、私たちの料理に腐敗した食材を使うように命じられていたらしい。正直、ショックだった。」

そういえば岩井たちが入院している間に、コック長が変わっていた。以前のコック長は岩井とは馬が合い、よく二人で会話していたことを思い出した。

「コック長を買収するなんて、やり方が汚いっす!!」

「松井、気持ちは私も同じだ。だがこの先、私たちが全世界格闘技フロンティアに出場し続けたら、組織がまた汚く荒いやり方で私たちを試合に出させないようにするに決まっている。私は監督だから、選手の命に対して義務がある。だから私は、君たちの選手生命を守るために、全世界格闘技フロンティアを辞退する決断をした。」

岩井の意志に俺は共感できるところがあると納得した、だがそれでも全世界格闘技フロンティアを辞退することについては、完全に納得できなかった。

「岩井、どうか俺だけでも試合をさせてくれ。一人だけでも、俺は負けない!」

俺は力強く岩井に言った。

「ひとりよがりを言うんじゃない!!お前の独断だけで試合を続けられるわけがない、みんなの意志が一つにまとまってないと試合には出れない。」

俺は「どうなんだ?」と松井と目白に質問した。

「竜也さん・・・、俺は岩井さんに賛成です。」

「俺も同じく岩井さんに賛成です、こんな状況でまともに試合に向き合えるわけがないじゃないか。」

俺はやはりと思いつつも、松井と目白の賢明を優先する判断に俺は憤りを感じた。

「とにかく、次の試合を最後にこの合宿所での生活が終わる。今のうちに各自身の回りの整理をしておくように。」

そう言って岩井はトレーニングを始めた、俺は悔しい気持ちを心の中にねじ込みながらトレーニングをした。










その日の晩、俺は眠れずにいた。

全世界格闘技フロンティアを辞退する現実・・・、俺はその現実がとても苦くて、心が飲み込むことを拒絶していた。

そして俺は眠れなくて、尿意がある訳じゃないがトイレにいった。

そして自分の部屋に戻ろうと部屋のドアを開けようとした時だった、突然人の気配を感じた。

最初はトイレに行こうとしているのかと思ったが、不信感を強く感じた。

『竜也、何か嫌な予感がする・・・。』

ドラゴンが言った、やはりこれは何かが変だ。

俺は気配がする方へ向かった、身をかがめながら耳を澄ますと、どうやら三人いるようだった。

「ターゲットはこの部屋にいる。」

「いいか、慎重にいけよ。」

「了解です。」

どうやら部屋に侵入しようとしているらしい、しかも侵入しようとしている部屋には、岩井が眠っている。

「まさか、岩井を殺害して試合に出させなくさせるつもりか・・・。」

そして三人は部屋のドアを開けて、部屋の内部に突入した。

「やはり、それが狙いか!!」

俺が部屋に突入すると、岩井は三人に拘束されていて、口にガムテープを貼られていた。

「ふが・・・ふがふが・・・!!」

「岩井、大丈夫か!!」

「お前、何者だ!!」

「俺は城ヶ崎竜也だ、そう言うあんたらこそ何者だ?」

「名を名乗る必要は無い、大人しくしないとこいつの命は無いぞ!!」

一人が岩井の首筋にナイフを当てた。

『竜也、行くんだ!!岩井を助けるんだ!!』

ドラゴンが訴えてくる、俺は三人に向かって突撃した。

「な・・・、お前!!」

「うりゃああああ!!」

俺は岩井の首にナイフを当てた奴をぶん殴った、そいつは殴られた衝撃でさらに壁に頭をぶつけて気絶した。突然の出来事に二人は呆然としている。

「おいおい・・・、こいつ脅しが効かないのかよ。」

「くっ・・・このーっ!!」

もう一人がナイフを持って向かってきた、俺はかわしてもう一人の脇腹にハイキックを決めた。

「ぐっ・・・おのれ!!」

「おい、どうしたんすか!!」

松井がドアを開けた。二人は岩井を諦めて解放し、松井を突き飛ばして部屋から脱出した。

「おい、待て!!」

「いたた・・・、えっ!?これ、どういう状況!?」

困惑する松井を無視して、俺は二人を追いかけた。

しかし合宿所を出たところで二人は車に乗り込んで逃走した、俺は追いつけないことを悟り、車のナンバーを見た。こうすれば後で警察の助けにはなる。

「よし、岩井のところへ行くぞ。」

俺は岩井の部屋へと戻っていった、そこにはガムテープをはがして助けてもらった岩井の姿と、椅子に座ってうなだれている一人がいた。

「岩井、大丈夫か!?」

「ああ・・・、竜也が助けてくれたんだな。ありがとう・・・。」

「お礼はいい、それより問題はこいつだ。」

俺はその一人を睨んだ、その一人は俺をみて怯えている。

「ご・・・ごめんなさい。お・・お・・俺・・・。」

「いいか?俺たちはお前を殺したりはしないが、俺の質問に答えてもらう。断れば、リンチが待っている。さあ、どうする?」

「質問に・・・答え・・ます。」

しどろもどろだが、もう一人は従順になったようだ。

「まず、お前の名前は?」

斎藤栄利さいとうえいり

「逃げた二人と何をするつもりだった?」

「岩井を捕えた後、どこかへ監禁するつもりだった。そして岩井の代わりに新しい監督を派遣するんだ。」

「なぜ、そんなことをしたんだ?」

「俺たちは組織の命令でやったんだ、だから目的は組織に訊かないとわからない。」

「そうか、もう質問はいい。これからお前は警察に身柄を引き渡される、組織のためとはいえお前は犯罪を犯した。覚悟はいいな?」

斎藤はうなだれたまま何も言わなかった。









数時間後、俺が通報し駆けつけた警察が斎藤を連行した。

「それにしても、その組織って一体何なんだ?」

「俺たちに妨害をする目的はなんだ・・・?」

松井と目白は思案ばかりしている。

「それにしても監禁しようとしてくるとは思わなかった・・・、連中はどうしてでも試合をさせたいというのか・・・。」

岩井はあの時の衝撃が忘れられずに、仏頂面で考え込んでいる。

俺はそんな岩井に言った。

「こうなったら、最後まで全世界格闘技フロンティアに参加するしかない。」

「竜也、今更何を言っているんだ。」

「組織は何がなんでも俺たちにルール無視の試合をさせたがっている、それを拒絶しようとしたが組織は強引な手に出た。このまま卑怯なことを繰り返されて、怒りが湧かないのか?立ち向かって、叩きのめしてやろうと思わないのか?どのみち痛い目に遭うなら、立ち向かって行ったほうがいいだろ?」

「竜也・・・、でも私は・・・。」

すると松井と目白が口を開いた。

「岩井さん、今まで俺は試合を辞退するべきだと思っていました。でもあの出来事と、竜也の訴えで考えが変わった。俺は最後まで全世界格闘技フロンティアに出る!!」

「俺も松井と同じです!!岩井さん、辞退を取り下げてください!!」

「お前らも・・・。よし、お前ら!!覚悟はいいな?」

岩井の問いに俺たち三人は「はい!!」と大きな声で返事した。

こうして俺は全世界格闘技フロンティアに出場し続けることができた。






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