第12話ドラゴニックジャスティス
黒マスクが去った後、俺は警察に連行された。東京来て警察に連れて行かれるのは初めてだった。
刑事は「俺が警察官二人を殴り倒した」という前提で、俺を尋問した。
「お前が二人を殴り倒したんだろ?」
「違う、あの男がやったんだ。」
「あの男というのは誰だ?」
「名前聞いたけど答えなかった、それに黒いマスクを被っていたから顔はよくわからない。」
「よくある嘘だな、そんな奴がいる訳がないだろ?」
刑事は嫌味たらしく言った、こいつらは俺を犯罪者だと言わせたいようだ。
「それにお前、日本代表の城ヶ崎竜也だろ?憂さ晴らしに頭のおかしい奴を見つけて、殴りかかったんだろ?」
「あ?俺がただの憂さ晴らしで人を殴る訳ないだろ!?」
俺は机を叩いて刑事を睨んだ、刑事は俺の剣幕にビビッて椅子から落ちそうになった。刑事は態勢を整えると、俺に言った。
「全く・・・、これだから格闘家は困るんだ。奴らはその手と腕が凶器だから、武器が無くても簡単に暴力行為ができる。しかも全世界格闘技フロンティアで「逆転の星」とか「ドラゴンキング」とか言われているようだが、そう言われていることに慢心していたんじゃないか?」
この刑事、とんだ偏見をしている。
「人を殴る戦いの、どこが楽しいのか?」という格闘競技アンチがいるが、じゃあお前らはゲームやマンガで戦う場面を見て盛り上がらないのか?
要はそれと同じだ、空想・現実に関係なく戦いは心を強く揺さぶるものがある。
それなのに空想のバトルでは良くて、現実の試合を非難するのはおかしいだろ?
俺は我慢の限界を迎えて偏見たらしい刑事をぶん殴ろうとしたその時、突然その刑事に呼び出しがかかったようで、刑事が取調室から退出した。
そして五分後、別の刑事が来た。そいつは顔見知りの猪名川だった。
「城ヶ崎竜也、君は無実だ。」
猪名川は開口一番、そう言った。
「え?どういうことですか」
「実は君が乱闘しているところを撮影した人がいて、映像を見させてもらった。君の言う通り、黒いマスクをした男と君が戦っていた。そして黒いマスクをした男が、警察官二人をぶっ飛ばしているところもしっかり映っていた。」
どうやら野次馬の撮影に救われたようだ、あんな部外者でも役に立つことがあるんだな。
「そうでしたか、急に怒鳴ってしまい失礼しました。」
「あの大声には驚いた、私の心臓が止まるかと思ったよ。」
「それであの二人は大丈夫ですか・・・?」
偏見たらしい刑事も言っていたが、格闘選手の腕と拳は凶器になる。
当たり所やパワーによっては、人を殺すことも容易くできる。だから一般人を相手に技を繰り出すのは絶対やってはいけないのだ。
「ああ、警察官の二人なら病院で意識を取り戻したよ。ただその内の一人は、アゴの骨が折れていたね。あの黒いマスクの男、物凄い怪力だよ。」
間違いなくアッパーカットをくらったのだろう、やはり黒マスクはかなり腕のたつ選手に違いない。
その後、俺は解放されて真っ直ぐ合宿所へと帰っていった。
それから俺は一人でトレーニングを続けた。
ただ前と違うのは、岩井の代理のコーチとして
「いいよ、竜也君。その調子だ。」
獅童は俺と同い年か少し上の男、岩井と比べて若いこともあるが、おそらく度胸があまりないのだろう。初対面の時に俺が獅童を見ると、獅童は中学生のようにビビッていた。
ただコーチとしての要領はよく、岩井の時と比べると気楽なものがあった。
休憩の時、獅童は俺に話しかけてきた。
「あの、僕のコーチはどうでしたか・・・?岩井さんとはかなり違うものなのですが・・・。」
こいつ、自分に自信が無いのか。
「まあ確かに岩井とは全く別のものだったけど、悪くはなかった。これかも続けてくれ。」
「はい・・・、ありがとうございます。」
これじゃあどっちがコーチなんだか呆れてしまう・・・。
「それじゃあ、次の対戦相手について説明するね。次に戦うのはタイの代表選手・ヤーナだ。彼は君と同い年だけど、ムエタイのプロ選手で。プロ入りしてから三回優勝している実力者だ。」
「ふむ、ちゃんと調べてきたんだな。」
「当たり前だよ、だから油断せずに挑んでね。」
俺は獅童の話を聞きながら、スポーツドリンクを一息に飲んだ。
そして俺は獅童にあることを訊いてみた。
「なあ、獅童。お前はこの全世界格闘技フロンティアについてどう思うんだ?」
「ヒッ・・・・、全世界格闘技フロンティアですか・・・?」
何だか話しにくい・・・、こっちはただ殴るつもりはないのに。
「僕としては・・・、反則行為が多いのは良くないと思います。日本VSイタリアの試合で竜也君が戦っているのを見たけど、あれは格闘技ではなかった・・・。まるでイジメを見ているようだった、あんなただなりふり構わず暴力を振るうのが格闘技なのかって、疑問を持ったよ。でも君の大逆転を見て、そんな暗いことが吹っ飛んだ。あの怒涛の攻撃は驚いたよ、めちゃくちゃスカッとした。君のバトルには人を魅了するものがあると心から感じたよ。」
俺と同様に反則行為の蔓延が許せないようだ、俺は少しだけ獅童を見る目が変わった。
「そうか、俺はあの試合は個人的に試合をしたとは言えない。だからこの全世界格闘技フロンティアが終わるまで、こんな戦いばかりが続くだろう。だが俺は正義のために、試合を途中で諦めない。」
「うん、僕も君が全世界格闘技フロンティアで活躍できるように、微力ながら応援するよ。」
そして俺は獅童と一緒にトレーニングを続けた。
そして翌日、再び俺の孤独な試合が始まった。
「竜也君、負けないで。」
獅童が力強く言った、俺は何も言わずにリングに上がった。
『赤コーナ、愛知の巨竜・タイラント城ケ崎!!』
『青コーナ、ムエタイの闘神・ヤーナ!!』
ヤーナがリングに上がった、色黒で俺より身長は低いが力強い脚をしている。
「竜也、俺はお前を倒す!!」
ヤーナは俺に向かって言った、しかし俺はお前のその宣言を打ち砕いてやる。
『レディー・・・、ファイト!!』
ゴングの音で試合が始まった、ヤーナは右ハイキックで俺の腿めがけて攻撃してきた。
俺はかわしてヤーナにジャブを放つ、しかしヤーナは上手くかわした。
『さあ、のっけから激しい技の打ち合いだ。竜也選手とヤーナ選手は、互いに個人成績で無敗の選手!!つまりこの勝負でどちらかが初めての敗北をすることになってしまう、果たして無敗を守ることができるのはどちらなのか!!』
ヤーナは蹴り技をメインに繰り出すため、リーチ的なアドバンテージは向こうが有利だ。しかし俺だって総合格闘技を知るうえで、ムエタイの技をそれなりに習得している。
俺はヤーナの隙を捕えて、右ローキックを決めた。
『竜也選手、ローキックだ!!これはダイレクトに決まった、ヤーナ選手は顔が少し歪んだか!?』
しかしこれで怯んだら、ムエタイとしての誇りが許さない。ヤーナはハイキックを連続で繰り出していく。
「ヤーナ、そろそろ決めるぞ!!」
俺はタイ代表の監督がタイ語と思われる言葉でヤーナに言っていた、しかしヤーナは聞こえていないのか無視しているのか、試合に集中している。
『竜也、この者は葛藤を抱えている・・・。』
ドラゴンが言った、それが何なのかは俺にはわからない。
そして俺は左足で、ヤーナは右足で、ハイキックを出した。
お互いに腿を強打して、お互いに座り込んだ。
『互いに強烈なハイキック!!その衝撃に両選手が膝をついた!!これが無敗死守を巡る戦いだ!!』
俺は痛みをこらえて立ち上がった、ヤーナも立ち上がった。
「ヤーナ、何をやっている!!早くやれ!!」
『どうやら、あの者は何かをやれと圧力をかけられている。気をつけろ、竜也。』
ドラゴンが言った。
俺は改めて相手を見据え、ジャブを放った。
ヤーナはそれをかわすと、俺の首を両手で捕らえた。
「首相撲・・・、しまった!!」
このままでは俺の腹に強烈な蹴りがきまる。
ところがヤーナは、腹ではなく股間にケリを入れた。
俺は衝撃でその場に倒れた。
『決まったーーーっ、首相撲からの蹴り!!これぞムエタイの真骨頂、ヤーナ選手は輝いています。さあ、竜也選手。ここから見せてくれるのか、あの逆鱗を!!』
やはりこの試合はただのケンカ・・・、なら速攻で終わらせる!!
俺は蹴りを入れ続けるヤーナを、ドラゴンの力で払いのけた。
そして逆鱗の如く、ハイキックとストレートを連続で繰り出した。
ヤーナの体はたちまちボロボロになり、グラウンドに倒れた。
しかしそれでもヤーナは立ち上がったが、ヤーナの右腕がだらんとしている。
『あーっと、ヤーナ選手!!右腕を骨折しているぞ、これは大丈夫か!?』
ヤーナはそれでも攻撃しようとしたが、右腕の痛みが激しく攻撃できない。
これにレフェリーが動いて、ヤーナにドクターストップが入った。
『今、ヤーナ選手にドクターストップが入りました。よって、タイラント城ケ崎の勝利です!!やはり無敗になるのはタイラント城ケ崎なのか!?今後の試合に益々注目です!!』
そして俺はリングからおりて、獅童に賞賛されながら会場を去った。
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