第11話ドラゴンバスター

アーサーの過去を聞いたおかげで、虚無感を紛らわすことができた。

俺は話し終えたアーサーに、お礼を言った。

「ありがとう、何だか話を聞いている間にモヤモヤが無くなったよ。」

「それは良かった。ところで話は変わるけど、君が襲われたんだって話は本当なの?」

「ああ。退けることはできたが、これからも襲って来るに違いない。ところでその話は、誰から聞いたんだ?」

「大島さんからだよ、大島さんはあれから名古屋に帰って行ったみたい。」

「それは俺も知っている、どうやら俺たちは向こうにしてはいけないことをしてしまったようだ。」

『アーサー、心配することは無い。どんなことがあっても、必ず私が守る。』

ドラゴンが堂々と言った、その声にアーサーは安心したようだった。

「じゃあ、僕はこれで戻るよ。竜也君、君の活躍はこの僕がしっかりと見ている。そして多くの人に伝えていくよ、だから絶対に試合からいなくならないで・・・。」

アーサーは優しい瞳で言うと、去っていった。

『どうやらアーサーは、竜也の事が本当に好きなようだ。これからもアーサーのことを、忘れてはいかんぞ。』

ドラゴンは自分の自慢かのように言った、夕食の時間が近いので俺は合宿所へと戻っていった。

食堂に入ると、すでに他の全員が食事をしていた。

「竜也、遅いぞ。」

岩井の言う事は無視して、俺は自分の分の料理をとった。

自分の席について食事をしていたときのこと・・・。

『ううっ・・・ぐうう・・・。』

不意にドラゴンの声が聞こえた、しかも具合が悪そうな声だ。

「どうした、ドラゴン・・・。」

『竜也・・、この料理は何かがおかしい。食べない方がいいぞ・・・。』

一体何のことだと思っていた時、突然岩井と松井と目白が椅子から転げ落ちた。そしてお腹を抱えて苦しみだした。

「岩井、どうしたんだ!!」

「突然、腹痛が・・・、救急車を頼む・・・。」

俺は直ぐにスマホで救急車を呼んだ。

救急車は十分後に到着し、岩井・松井・目白は病院へと搬送された。

「ところで、あなたも三人が食べたのと同じ料理を食べましたか?」

「はい、そうです。」

「じゃあ、あなたも乗ってください。発症する可能性があります。」

こうして俺も救急車に乗って病院へと向かった。







俺は病院で詳しく診察されたが、異常はなかった。

ただ岩井・松井・目白は、集団食中毒に罹ったと診断され入院する事になった。

今日は試合がある日だったのだが、こんな状況では行けないので試合は棄権することにした。

知らせを聞いた一条が病院に駆け付けた。

「竜也君、体調はどうだい?他のみんなは?」

「俺は大丈夫だ、しかし他のみんなは集団食中毒になってしまった。試合には出たいが、監督まで動けなければ・・・。」

俺は突然の不条理に打ちひしがれた、何でこんなことになった・・・。

俺は歯が潰れるかと思うほど強く噛みしめ、非道な現実に怒りをぶつけるように、自分の膝を殴った。

その間に一条は三人と会って何か話していたようで、俺にも声をかけてきた。

「竜也君、ちょっと話をしてもいいかい?」

「ああ、何だよ・・・?」

「実はこの大会に疑惑があるって話なんだけどね・・・。」

「それって試合中に酷い反則が行われているにも関わらず、レフェリーが失格の判定をしないということですか?」

「竜也君、すでに知っていたの?」

「俺は試合に出ていたから気づいていた、後俺の知り合いからそういう話を聞いていた。」

「そうだったんだ・・・、私はこの大会で落ち込み始めた格闘技を盛り上がると信じていた。でも実際はイグニスの思惑による、ケンカのショーだった・・・。総合格闘技はそりゃ人を殴ったりしているけど、ルールのあるれっきとしたスポーツなんだ。でも全世界格闘技フロンティアで行われているのは、試合じゃなくて勝利のために手段を選ばない気持ちがぶつかったケンカだ・・・。」

一条はうなだれながら言った。

「俺もあんたの言う事がわかる・・・、俺は総合格闘技の選手になる前、この大会であるような戦いをしていた。凶器や卑怯な手段を使ったものが勝つ、そんな戦いだった。だけど総合格闘技の選手になってから、力と技を極めて戦うことに快感と興味を感じた。己の力でいかに相手と戦う事に、自分の道を突き進んでいる実感を感じたんだ。だから試合で反則技を使われると、自分の歩く道に罠を仕掛けられたような気分になるんだ。」

「竜也君・・・、もし君が良ければ僕に力を貸してくれないか?」

「それは、どういうことだ?」

「僕は一部の仲間たちと一緒に、この全世界格闘技フロンティアからイグニスらを追い出す計画を立てているんだ。君には選手を代表して、健全な試合を行うようにイグニスたちに訴えてほしい。」

一条の言っていることには共感できるが、俺は何かを訴えることは苦手だ。

『竜也、お前にとって生きがいである総合格闘技が汚されている。それを無視していいのか?』

ドラゴンが今までの話を聞いていたようだ。

「だけど、俺にできることなんて・・・。」

『竜也、できることを探すな。やる気になれば、出来ることは自然と見えてくる。』

「・・・ああ、もう。」

要はやれという事だった・・・。

「一条さん。あまり力になれないかもしれないが、俺はあんたに手を貸したい。」

「ありがとう、協力してくれるだけでも嬉しいよ。本当にありがとう!!」

一条は俺と勝手に握手して深く頭を下げた、そして連絡先を俺に伝えると病院から去って行った。











合宿所へ向かう途中、俺は正面から狂気を感じた。

『竜也、敵がやってくるぞ。』

ドラゴンもそう感じていた。

俺は立ち止まり、向かって来る相手を見据えた。

その相手は黒いマスクを被っていた。

そして相手も、俺の存在に気が付いて立ち止まった。

「お前が城ヶ崎竜也だな?」

「ああ、お前は何者だ?」

「名前は言わない、お前を殺しにきた。」

「貴様・・・、奴らの仲間か?」

「ああ、お前は知ってはいけないものを知った。お前には消えてもらう。」

黒マスクは大きな手で指を鳴らした、しかも身長は俺よりも少し高く、格闘技の選手の顔をしている。

「問答無用ということか・・・、それならかかってこい!!」

「行くぞ!!」

俺と黒マスクは激突した、互いに本気で相手を倒すということしか頭にない。

俺が正拳突きをすれば、黒マスクはローキック。

俺がスーパーマンパンチなら、黒マスクはアッパーカット。

激しい技の繰り出しあいが続き、ケンカは盛り上がった。

いやケンカではない、これは完全にプロの試合だ。

『竜也、何だか胸騒ぎがする・・・。油断せずに行けよ。』

ドラゴンの言う「胸騒ぎ」という言葉が引っかかったが、油断しないというセリフには同感だ。

激しい技の打ち合いの後、黒マスクが口を開いた。

「さすがはドラゴンを宿した格闘家・・・、そうたやすくはいかないな。」

「・・・っ!!貴様、なぜ俺の中にドラゴンがいることを知っている?」

「俺もお前と同じ人間だ。ただ俺にとりついているのは、ドラゴンではなく英雄だ。」

すると黒マスクから大きな剣を持ち鎧を装備した豪傑が現れた、その豪傑からはこれまでにないほどの覇気と威風堂々とした存在感を感じた。

『さあ、その者に眠りしドラゴンよ。姿を現せ!!』

豪傑の声に答え、俺の中からドラゴンが現れた。

『ジークフリート・・・、お前だったとは。』

「ドラゴン・・・、知っているのか?」

『ああ。この我に数少ないほどだが、瀕死の重傷を負わせた強敵の一人だ。我の世界では、ドラゴンバスターという異名で呼ばれている。』

「ふん・・・、強がりか。ここからは本気で行くぞ!!」

黒マスクが突然襲いかかった、俺はその攻撃を咄嗟にかわした。

しかしその後直ぐに、強烈なストレートをくらった。

その衝撃はこれまでにないほどの威力で、俺は壁に激突した。

「ガハッ!!・・・っ、やるじゃねえか!!」

『竜也、我の全力を与えよう。直ぐに倒すぞ!!』

ドラゴンから最大パワーの力が送り込まれた、俺は無意識状態になって黒マスクに襲いかかった。

だがその時間が長かったことは覚えている。それだけの激闘だった。

俺と黒マスクはやじ馬たちが、スマホで撮影していることも気づかずに戦った。

俺はこの場で、完全に本物の試合をしていた。

だがここで乱入者が現れた。

「こらーっ!!やめなさい!!」

警察官が二人現れた、俺は無意識から解放され攻撃を止めた。

「チッ、邪魔者が・・・。」

黒マスクは二人に突進すると、一人をストレートで、もう一人をアッパーカットで倒した。

二人は一撃で失神した、黒マスクが言った。

「今日はここまでだ・・・、試合で戦うことを楽しみにしている。」

それだけ言い残して黒マスクは去って行った。

俺は黒マスクの強さが印象に残っており、警察が来るまでその場から動かなかった。













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