第10話あれからアーサーは(2)

日本VSイタリアの試合以降、全世界格闘技フロンティアは世間の矢面に立っていた。

アンジェロたちの反則行為に、アンジェロが付けていた凶器付きのマウスピースも公開され、スポーツマンシップを無視したことが世間の批判を盛り上げていた。

しかし資金提供された全国格闘技協会は、全世界格闘技フロンティアを最後まで続けることを宣言し、ネット上では物議をかもしている。

しかし大島は、それも金儲けのための戦略だと見ている。

それから殺されたオーランドについてだが、やはり他殺が確定したようで、警察は犯人の捜査を始めたそうだ。

「みんな、はっきり言ってこの大会はおかしい。私の目から見てもわかることだ。しかし、それを我々が訴えたところでどうにかなるかと言われると、そうはならない。だがせめて我々でも、スポーツマンシップに乗っ取った試合をしようじゃないか。」

岩井は力を入れて言った、俺も松井も目白も大声で返事をした。

それからはトレーニングを行い、試合に向けて調整をした。

トレーニングを終えて、俺がスポーツドリンクを買おうとした時だった。

『竜也、何者かが狙っているぞ。』

俺は警戒態勢に入った、精神を研ぎ澄まして相手の様子を伺う。

するとサングラスをかけた男がナイフを持って突進してきた。

「お前か、何者だ!!」

俺は男の突進を避けながら言った、すると男は俺の方を向いて再び突進してきた。

『竜也、攻撃だ。こいつの狙いはお前だ。』

「わかった!!」

俺は男の攻撃をかわして、男の脇腹に拳にをぶつけた。

男はナイフを手放して、地面に倒れた。

そして直ぐに合宿所へと戻っていった。

「どうしたんだ、竜也?」

岩井が声をかけてきた、事情を話すとすぐに警察へ通報した。

俺は岩井から「今日一日、合宿所から出てはいけない」と言われたので、そうすることにした。









その日の夜、珍しく大島から電話が鳴った。

「はい。俺だけど、どうした?」

「竜也君、私は名古屋に帰ることにした。これから君の試合を見るつもりだったのに・・・、すまない。」

「それは別に構わないが・・・、何か急用でも出来たのか?」

「そうじゃない、信じられないと思うが私は命を狙われているようだ。厚田も同じようでな、今から二人で向かうところなんだ。」

「そうか、二人もか・・・。」

「何か思う事がある言い方だね、よければ教えてくれないか?」

やはり大島は察しがいい、俺は大島に昼間の出来事を報告した。

「そうか、君も狙われたか・・・。何故だかはわからないが、とにかく向こうに明確な殺意があるのは確かなようだな。」

「そのことなんだけど、もしかしたらオーランドが殺されたのと関係があるんじゃないか?」

「それはどういうことだ?」

俺は自分が知ったことと自分の考えをまとめて、大島に伝えた。

「オーランドがドーピングを利用していた・・・、だからあの時彼は病院に行くのを拒んだ。向こうはオーランドがドーピングを利用していることは内密にしたい、つまり私と竜也と厚田は口封じの対象にされたということか。」

「そうに違いない、犯人はフランス代表の誰かに俺・大島・厚田を殺害するように命じたんだ。」

俺は確信した口調で言った。

「そうだろうな・・・、それじゃあ私はこれから厚田と一緒に名古屋へ向かう。君も細心の注意を払って、試合に臨んでくれ。健闘を祈る」

「ああ、こちらも健闘を祈るよ。」

俺は通話を切ると、部屋の窓に鍵をかけてカーテンを閉めて就寝した。













翌日、日本VSサウジアラビアの試合が行われた。

最初は松井VSバクサ、攻撃を耐えながらも最後は松井のキラーパンチでKO勝ちになった。

次は目白VSワナガ、するとここでサウジアラビア代表の選手が、反則行為をした。

グラウンドになった目白選手に、サッカーボールキックで蹴ったり踏みつけたりもした。

通常はワナガ選手の失格が確定なのだが、やはりワナガ選手の勝利となった。

「くそっ、あいつら反則したというのに・・・。こうなったら、あいつらに正々堂々と戦うお前の姿を見せてやれ!!」

岩井は力強い応援をした、俺はリングに上がった。

「赤コーナ、愛知の巨竜・タイラント城ケ崎!!」

「青コーナ、中東のターボキラー・コロフ!!」

コロフがリングに上がった。コロフは身長が俺と同じくらいに大きく、顔や腕には歴戦の負傷があった。今回の相手は俺が個人的に、いけると思った。

互いに睨み付け、ゴングの合図がくるまで互いに敵意を向けた。

「レディー・・・ファイト!!」

ゴングの音が鳴った、コロフが俺に向かって突進してきた。

俺はそれをかわすと、コロフはリングのネットに両足を触れて、俺を突き飛ばす攻撃をした。

そしてグラウンドの俺に目白の時と同様に、サッカーボールキックを連打した。

『おーっと!!これは強烈な連続蹴りだコロフ選手!!竜也選手は必死にこらえていますが、果たしてここから大逆転することはできるのでしょうか?』

「やはり、これか・・・。しかし俺はこんなことでは倒れないぞ」

俺は立ち上がった、ここからは俺にターンだ。

俺はコロフにパンチを複数繰り出し、テコンドーの蹴りも繰り出してコロフを攻撃した。

『さあ、竜也選手怒涛のラッシュ攻撃だ。これはまさに逆鱗だ、一度キレた彼は誰にも止められない。さあコロフ選手は、このまま一方的にやられてしまうのか?」

「いいぞ、竜也!!そんな奴、早く叩き潰せ!!」

岩井の応援が聞こえたが、俺は応援を感じる余裕はなかった。

だが、相手の妨害はここからだった。

俺がコロフを攻撃していると、コロフは俺の拳がとどかない距離まで下がった。

そしてリング外からムチで俺は叩かれた。

「痛っ、・・・ガハッ!!」

ムチで叩かれている隙に、コロフに殴られる。もちろんレフェリーは反則行為を認めない姿勢だ。

『竜也、速攻で奴を仕留めにいくぞ』

俺はドラゴンの言う通りにした。そして全身に流れるドラゴンの力で、コロフを殴った。

コロフには解るだろうか・・・、どんな場面でもルールを守って全力で戦う選手の強さと覚悟が。

いや、お前だって元々は解っていたはずだ。それなら卑怯なやり方で勝利したら、選手としてのプライドと決意が消えていってしまう。

だから俺は、総合格闘技の選手としての決意と、己の矜持のために戦い続ける。

『竜也選手、押して押して押しまくっております!!コロフ選手、防戦一方!!さあ、竜也選手。このまま相手をKOしてしまうのか!!』

俺はコロフをグラウンドに持ち込むと、リングのはしから助走してスーパーマンパンチを決めた。

コロフは白目をむいて倒れた、俺は息を切らしながらコロフが立ち上がるのを待ったが、コロフは立ち上がらなかった。

『竜也選手、またもや勝利!!逆鱗モードに入った竜也選手は、強すぎます!!もはや勝利することが当たり前、こんな百戦錬磨の選手は百年に一度の逸材です。これで日本代表は優勝へアメリカといい勝負になりました、日本VSアメリカの試合が楽しみです。』

俺は最低なケンカをした後の後味の悪さを噛みしめながら、リングを下りた。









その日の午後六時、アーサーが合宿所にやってきた。

「竜也君、今日の試合も良かったよ。今、日本代表は優勝候補として注目を集めているんだ。このままがんばれば、君は優勝できるよ。」

アーサーは俺を元気づけるように言った。

しかし俺の表情に違和感を感じ、アーサーは言った。

「竜也君・・・?どうしたの、浮かない顔して。」

俺はアーサーに今日の試合での出来事を言った。

「そうか・・・、相変わらず酷い試合だね。ネットでも批判が多いけど、むしろ炎上商法で向こうは盛り上がっているんだ。」

俺は黙って頷いた、アーサーが続けて言った。

「じゃあ暗い気分を忘れさせるために、僕の過去の続きを話すよ。」

複雑な気分を紛らすのに丁度いい機会だ。

「えーーっと、どこからだっけ・・・。」

両親が離婚したところからだ・・・。











母親の不倫による離婚で、立ち直る決意を決めて学校に通いだしたアーサー。

しかし家計が急激に貧しくなり、父親はアーサーの将来のため仕事に明け暮れる毎日で、家で会う時間は朝ぐらいなものだった。

当時アーサーは、母親に裏切られて悲しい父親のことが気がかりだった。

でも父親はアーサーに心配させまいと、ある日こんなことを言った。

「アーサー、例えどんなことがあっても自分を失うな。自分を失ったら、それは死んだのと同じことだ。人はみな全て自分を守りながら生きている、だからもしアーサー自身が自分のためにやりたいことを見つけられたら、私はそれを応援する。自分を失う辛さに比べたら、金や妻を無くすことなんてどうとでもない。」

この言葉に生きる力強さを感じた。

それからアーサーは中学卒業後、高校へ通い勉強に明け暮れた。

高校二年生のある日、アーサーは友達に誘われて野球の試合を観戦しにいった。

「うぉーーっ!!イケイケ!!」

「アーーーッ、惜しい!!」

「やったー、ナイスプレー!!」

観客たちの盛り上がりを見て、アーサーはこう思った。

「スポーツはどんな人の心でも、盛り上げる力がある。僕はスポーツは苦手でも、その感動を伝えることはできるんじゃないか?」

これにより、まだ将来が決まっていないアーサーに、スポーツジャーナリストという目標が芽生えた。









それからアーサーは高校を卒業して、就職先の新聞社でスポーツ記事の記者になった。

二人とも仕事しているうえ一日のルーティーンも違っていたので、会う時間は少なかった。しかし父親はアーサーがやりたい仕事をしていることに、喜びを感じていた。

そんな父親にアーサーも、心から安堵した。

だがある日のこと・・・、記者の仕事で出張していたアーサーに警察から電話がかかってきた。

電話に出たアーサーは、ショックで自分の中から何か消えた感覚を覚えた。

電話の内容は、父親の死だった。

警察によると出勤する途中、暴走車に轢かれて即死だったという。

翌日、アーサーは仕事を休んで葬式に行った。父親は事故で顔面がずさんなことになっていた・・・。

「父さん・・・、死んでしまったら、自分を無くしちゃうじゃないか!!」

アーサーは葬儀中、深い悲しみの限り泣き続けた。









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