第6話世界の猛者

日本VSメキシコの試合での勝利により、俺は一躍注目の的となった。

ただ俺は人気者になりたい訳ではない、全世界格闘技フロンティアを通して世界に存在する強者と闘い勝利することが目的なのだ。

今日の試合でも、負けることは考えない。勝ち負けは、勝負と挑戦の結果に過ぎないのだ。

今日の試合は日本VSロシア、今回の試合までに二人が新たに代表選手に加盟した。

松井権太まついごんた、そして目白炎めじろほむら。格闘選手歴五年の若手だが、実力は高い選手だ。

「竜也、お前は最後の切り札だ。」

岩井はそう言った、俺は少し不機嫌になった。

『竜也、そう気を悪くするな。人というものは、一番いいものをここぞという場面が来るまで取っておく。つまりお前は、一番いい選手だという事だ。』

ドラゴンが言った、俺は納得することにした。

最初の試合は松井VSルニア、激しい激闘の勝者は松井だった。

「よくやった松井、この調子でがんばれ。」

「ありがとうございます。」

岩井はトレーニングでは厳しいが、試合では負けても怒鳴り散らしたりはしない。

下田も同じような感じだった・・・。

『竜也、あの岩井という男・・・見どころがあるな。』

ドラゴンが言った、相手の評価については本当によくしゃべる奴だ。

次の試合は目白VSコータエ、残念ながらこの試合はコータエの勝利だった。

「よくがんばった、次は勝利するように頑張れ。」

『この男・・・、やはり見どころがあるな。』

ドラゴンが言った、こいつは魅力ある人物には目がないようだ。

「竜也、いよいよお前の出番だ。用意はいいな?」

「ああ、いつでも戦える。」

俺は立ち上がりリングに向かった。

『さあ、今回の相手は何者だ・・・。』

今回の俺の相手はミドル、ロシアの軍隊に所属していた経歴がある選手だ。

『赤コーナ、愛知の巨竜・タイラント城ケ崎ーーーっ!!』

『青コーナ、鉄血のゴーレム・ミドルファラスカーーーっ!!』

互いの心は戦闘態勢に入った、そして時が満ちる。

「レディー・・・、ファイト!!」

ゴングが鳴った、ジャブが早かったのはミドルの方だった。

「こいつ・・・、やるじゃないか。」

俺も負けじとジャブを放った。そして俺とミドルは、素早いフットワークをしながら拳を放った。

「さすがに強い選手だな・・・。この勝負は、一瞬でも攻撃を止める事が許されないという事か・・・。」

お互いに激しい拳の打ち合い、リングでは何も入る余地が無いほど切迫した空気が響いていた。

ところが突然ミドルの動きが変わった、俺をタックルで押し倒すとそのまま絞め技に持ち込んだ。

「ぐっ・・・、強い・・・!!」

『アーッ、ミドル選手!!竜也に片手絞をしている!!これは苦しいぞ、ここから逆転できるのか!?』

実況の白熱した叫びだけがリングに響き渡る、俺は上体起こしに全力でいった。

「う・・・ああああーーーーっ!!」

「な、なんて奴だ!!ミドルの絞め技を受けた状態で立ち上がるなんて・・・。」

ロシアサイドの監督と選手が、目を見張った。

そして俺は立ち上がった勢いで、ミドルを突き倒した。

次は俺の番だ、うつ伏せになっているミドルの右腕を背中側に引っ張り、全力で捻り上げた。

『竜也選手、ここでハンマーロック!!ミドル選手は動けません!!』

俺は必死にミドルの右腕を捻り上げた、絶対に離すまいととにかく引っ張る。

「なんて力だ・・・、まるで虎に捕まっているように見える・・・。」

「もう、一分以上締め上げているぞ。これは逆に相手の腕が心配になる・・・。」

ミドルは狂ったように抵抗していたが、俺の怪力に恐怖を感じたのか、目に涙を浮かばせた。

『竜也選手、離しません。さあミドル選手は・・・、アーッ!!泣いています!!これは凄い絵面だ、竜也選手、これはもう無慈悲の域に達している攻撃だ!!』

「おい、警察官でもあそこまでハンマーロックはしないぞ・・・。」

この時岩井は俺のハンマーロックを見て、驚き呆れてこう言った。

そしてミドルは「ギブアップ!!」と連呼した、俺はミドルの右腕を解放し、ゴングが鳴った。

『竜也選手、圧倒的怪力でハンマーロックをきめて勝利!!これはハンマーロックではなく、ドラゴニックロックです!!ミドル選手は子どものように怯えながら、リングを下りて走り去りました。これで日本代表は獲得点数が二点となり、優勝候補へと頭角を現しました。』

俺はリングを下りた、岩井と他二人は俺の勝利を、どこか引いている表情で控室へ向かう俺を見ていた。










その日の午後六時、アーサーと大島が合宿所に来た。

「竜也、今日の試合見たよ!!まさかロシア人の選手を泣かしてしまうなんて、本当に君は人間離れしているよ。」

「私も驚いたよ、君が外国人選手と渡り合えるほどの強さを持っているなんて驚いた。ますます仲間にしたくなったよ。」

俺を褒めてくれるのはいいが、名古屋老若連合には入会するきなんぞ全く無い。

「それでアーサーは取材なのだろうが、大島は何の用事でここへ来たんだ?」

「実は文殊と愛の家のみんなから、差し入れを預かっているんだ。」

そう言って大島は俺に一つの紙箱を渡した。

俺が紙箱を開けると、新品のスポーツタオルと色紙が入った。

色紙には応援メッセージの短文が、カラフルな色の油性ペンでびっしりと書かれていた。

「みんな・・・、嬉しいことしやがって・・・。」

孤高の心に応援の気持ちが染みわたる・・・、余計なおせっかいだがどこか嬉しくなる。

「竜也さんはあの時、自分は忌み嫌われる存在だと言っていたけど、本当は違うんだ。力さえ恐れなければ、君はヒーローと言える人間なんだ。あの頃の人たちは、それがわからなかったんだ。」

アーサーは熱い口調で言った、どいつもこいつもどうして俺を買い被るんだ?

「君の言う通りだ、城ヶ崎竜也は素晴らしい人物だ。これからの活躍に期待できる、稀に見る人材だよ。」

アーサーと大島はすっかり俺のファンになっている、ファンがいたところで俺のためになるかは知らんが・・・。

「ああ、早く取材しないと。それじゃあ、行くよ。」

ようやくアーサーが本来の目的を思い出した、そしてアーサーは一旦大島から離れて、合宿所の食堂で取材を始めた。

取材を終え、戻ろうとする俺にアーサーは俺を呼び止めた。

「そういえば、警察が来たそうだね。」

「もしかして、例のバス事故の事か?」

「うん、実は君に伝えたいことがあってね。」

アーサーは改まった口調になった。

「一体なんだ?」

「実は・・・、あの事故は仕組まれたものだという気がするんだ。」

「仕組まれた・・・?」

「うん、君がまだ入院していた時の話なんだけどね。博末って人の病室に、一人の男が入ってきて、それから博末を病室から連れ出して人気の無い廊下の角で、何か話していたんだ。」

「博末・・・、あのバスの運転手だな。」

「それで気になって、その会話をボイスレコーダーで録音したんだ。」

いつの間にそんなことしてたのか・・・、俺の時といい近づく時は本当に近づいてくる。

「じゃあ、今から再生するよ。」

アーサーはボイスレコーダーのスイッチを入れた。

『生き延びたな、博末・・・ええ、なんとか。約束の一千万円、忘れないでください。・・・ああ、わかった。しかし、お前度胸あるな。命令とはいえ、事故を引き起こすなんて。・・・俺だって、本当はこんなことしたくなかったよ。でも生きていくためには仕方ないと思った、命がけだけど大金になるなら俺はやるよ。・・・そうか。お前の退院日は明日に決まった、よろしくな。・・・え?でも医者からは明後日だと・・・私たちの都合に合わせてもらった、これ以上は何も聞くな。・・・わかった、一千万円のことよろしくお願いいたします。・・・念を押さなくてもわかっている、この話のことは口外しないように。』

ボイスレコーダーの録音はここまで、俺は「あの事件は仕組まれたものなんだ。」という言葉の意味がわかった。

「つまり博末は一千万円欲しさにあの事故を起こしたが、殺されたということか。」

「元々一千万円なんて払うつもりはない、あのバス事故で選手たちと一緒に死んでもらうつもりだった。でも悪運よく生き延びたから、病院側に退院日を前倒しにするようにして、退院した日にすぐ殺害したということ。」

俺はこの事件に、とてつもない陰謀を感じた。

『この事件・・・、ただ事ではないな。』

ドラゴンも同じことを言った。





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