第5話事件と闘いの始まり
大島が合宿所から帰って俺はトレーニングを再開した。
そして合宿所を出た俺は、走り込みをした。
総武線沿いの道を走り、そこから裏道を回って飯田市の中を走り続ける。
そして靖国神社を通り過ぎて、九段南を走って行く。
通行人を掻き分けて走る、時々スマホで撮影された。
汗を流しながら走ると、俺の中のドラゴンが俺に告げた。
『この箱、何かあるな・・・。』
「あ、箱だって?」
俺は立ち止まって辺りを見回した、すると粗大ゴミ置き場にあった一つのクーラーボックスが目に留まった。
『この箱・・・。竜也、開けて見よ。』
「開けるのか・・・。気乗りしないな」
そうつぶやいた俺は粗大ゴミ置き場に近づいて、クーラーボックスを開けた。その瞬間俺の時が止まった。
人の手・腕・足が、規則正しく切断されクーラーボックスに詰め込まれていた。
「・・・人の手だ」
『しかも足もある、なぜこんなところに・・・?』
ドラゴンよ、俺だって気持ちは同じさ。
俺はクーラーボックスの蓋を閉めると、持っていたスマホで110番通報した。
通報してから十分後に警察が来た。
警察はクーラーボックスの中の手・腕・足を持ち帰っていった。
俺は警察からの事情聴取で予定より一時間遅れて合宿所に戻ってきた。
「遅いぞ竜也、何をしていたんだ?」
岩井が厳しい顔で俺に言った。
「やばいものを見つけたから、警察に通報した。それで事情聴取していたから、遅くなった。」
岩井は「やばいもの」という言葉が引っかかり、さらに追及した。
「それはなんだ?」
「手と腕と足が入ったクーラーボックス」
岩井の顔が青くなった、やはり格闘家でも人の死体を見るのはショッキングのようだ。
「それはとんでもないな・・・、警察には連絡したのか?」
「だから遅くなったって言っているだろ」
「そうか、それじゃあ明日の試合に備えて、早く休みなさい。」
俺は岩井の言う通りにした。
そして翌日、俺はバスで日本武道館に向かった。
今回は数日前、バスの事故で延期になった日本VSメキシコの試合だ。
三人が事故で棄権した後、補欠の選手を探しているようだが、この試合までには見つからなかったようだ。
なのでこの試合は一対一で行われることになったそうだ。
「竜也、体調はどうだ?」
「ああ、大丈夫だ。」
俺は闘える喜びで胸が高鳴っていた、強敵に挑む勇者と同じ気持ちだ。
『竜也、いつでも我の力を使ってもいいぞ。』
ドラゴンの声がした、でも俺は自分の力のみで世界の選手と戦うつもりだ。
日本武道館に到着した、俺は中に入り日本代表の控室と決められた部屋へと入っていく。
試合前の緊張には慣れているほうだが、今回は緊張で体が震えた。
「ふぅ・・・、こんな感じは今までにない。勝ち負けはわからないのは当たり前なはずなのに、不安が俺の体を揺さぶる。これが本当の緊張感というものか」
俺は今、戦士の宿命を感じていた。
それを抱えて俺は控室を出て、リングにやってきた。
「さあ、始まりました!全世界格闘技フロンティア・日本VSメキシコの戦い。
この試合は日本側の都合により、一対一で行われます。さあ、両選手のリングインです!!」
実況の声がした、無観客にもかかわらず威勢のいい声だ。
「赤コーナ、日本代表・・・。愛知の巨竜・タイラント城ケ崎ーーーっ!!」
俺はリングに入ると、雄たけびを上げた。無観客なのでバカっぽく見えたかもしれない。
「青コーナ、メキシコ代表・・・。陽気なプレスマン・マイラコイムーーーっ!!」
小麦色の肌をしたメキシコ人の男が、明るくリングに上がった。
やる気があるのかと疑う振る舞いだが、彼も一人の選手であることに変わりない。
そして互いに相手を睨みながら、ファイティングポーズを取った。
「レディー・・・ファイト!!」
ゴングの音が響くのとほぼ同時に、俺はマイラに向かってジャブを放った。
『おーっと、タイラント城ケ崎の強烈な先制だ!!』
俺の拳はマイラの頬にめり込んだ、マイラは態勢を立て直して、俺を突き倒してコーナーポストの上に上った。
「ウォー――ッ!」
そして俺をめがけてのボディプレスがきまった、マイラの全体重が俺を襲う。
そのままマイラは俺を固めにかかった。
「ぐっ・・・、なかなか強いな。」
だが俺は歴戦を重ねたドラゴンだ、そう簡単に抑えられない。
俺は力任せにマイラの拘束を解くと、マイラを押し倒して片手絞をした。
『アーッと、城ヶ崎選手!!抑え込まれた状態からの、片手絞だ!!力を入れてマイラを抑え込む、マイラは苦しそうだ』
岩井は「いいぞ!!」と叫びながら応援する、メキシコのチームは驚きの顔でリングでの戦いを見ていた。
ここでレフリーからのストップが入った、マイラへのカウントが始まる。
「テン・ナイン・エイト・・・。」
レフリーがファイブと言いかけた時、マイラは立ち上がった。
やはりそう簡単にはいかない、お互いプロの戦士だ。
再びバトルが再開した、マイラは俺を突き倒すとコーナーポストに上った。
『アーッとこれは、ダイビング・ボディ・プレスをきめにいくぞ!!マイラ選手の必殺技と言ってもいいこの大技、竜也選手はどうするんだ!?』
俺は避けようとした、しかしここでドラゴンが俺の右腕に力を与えた。
『竜也、ここは一発ぶちかませ!!』
ドラゴンに指図される筋合いはないが、俺は一発ぶちかますことにした。
マイラがコーナーポストからジャンプして体を地面に向けて落とす、俺はタイミングを見計らい、拳を放った。
「うりゃぁぁぁーーーっ!!」
俺の拳がマイラの下腹部にめり込んだ。
しかしダイビング・ボディ・プレスの勢いは止められずに、俺は仰向けに倒れた。
俺は衝撃を必死にこらえて立ち上がったが、マイラは下腹部を両手で押さえて悶絶している。
そしてマイラはマットを三回叩いた、タップアウトである。
ゴングの音が鳴り響く、そして実況が大きな声で叫んだ。
「勝者ーーーーっ!!タイラント城ケ崎ーーーっ!!愛知の巨竜が今、世界の相手に勝利!!そして巨竜の咆哮が、このリングに響き渡り、日本代表の底力を見せつけたぞ!!」
俺は息を切らしてリングから降りた、マイラは仲間に肩を持たれてリングから降りていった。
「竜也、よくやった!あのパンチは最高だ、次の試合もこの調子で頑張ってくれ。」
俺は頷きながら控室へと戻って行った、この試合での勝利により日本代表は初めての得点を手に入れた。
その翌日、俺が岩井の許でトレーニングをしていると刑事が合宿所にやってきた。
刑事は警察手帳を見せて
「君が二日前に切断された遺体を見た城ヶ崎竜也さんだね?」
「ああ、そうですが。」
「君に見せたい写真があるんだ。」
猪名川は俺に男の顔写真を見せた、俺はそれを見た時少し驚いた。
なぜなら写真の男が、あの日悲惨な事故を起こしたバスの運転手だったからだ。
あの日、ドラゴンのおかげで軽傷だった俺はみんなの救助していたので、運転手の顔を覚えていた。
「これは・・・、あのバスの運転手・・。」
「そうだ。名前は
「え?でも博末なら、俺と同じ病院に入院していたはずだろ?」
「そうだ。ところが、我々が病院に来るとすでに博末は病院にいなかった。医師に話を聞くと、我々が来る前日に退院したそうだ。」
「でもどうして博末が容疑者に?」
「あの事故は、運転手の運転ミスによって引き起こされたものだとわかった。つまり博末の無意識のミスか、博末がわざとそのように運転したのか、どちらかはまだわからないがな。」
あの時ドラゴンが感じていたのは、博末が事故を起こす予感ということだった。
「それで昨日、遺体の残りを捜すためにこの近辺を捜査した。そうしたら、君が見つけたのと同じクーラーボックスが文京区と港区で発見され、博末の頭部・胸部・腹部が発見された。」
つまり博末は退院した日に何者かに殺害され、解体され三つのクーラーボックスに入れられ、処分されたということだ。
「博末は何か事件に巻き込まれていたのか・・・?」
「可能性はあるが、現状はまだわからない。」
そして猪名川は合宿所を後にした。
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