第2話アーサーとの再会
ついに大会開催の時がきた。
俺は準備した荷物を持って五時三十分に家を出て、名古屋駅へと向かった。
昨日、永久と桃枝が見送りたいから名古屋駅に来てもいいかと尋ねてきたが、恥ずかしいから来るなと突っぱねた。
名古屋駅に着くと下田と一条が待っていた。
「来たか、竜也。」
「ああ、それで新幹線は何時乗るんだ?」
「七時十三分発の新幹線だ、八時五十一分に東京に着く。」
そして俺と下田は一条から新幹線のチケットを受け取り、改札を通ってホームに立った。
ホームの売店で朝食のおにぎりとお茶を購入して、新幹線に乗り込んだ。
今思えば、新幹線に乗るのは始めてだった。速さが電車とはケタ違いなところは、電車や地下鉄と変わらないのだが、妙に興奮した気持ちになった。
新幹線は予定通りに東京駅についた、そこからはタクシーに荷物をホテルまで送ってもらい、日本格闘技協会の用意した車に乗り込んだ。
「この車はどこに行くんだ?」
「取材会見の会場だよ、取材は午前十時に始まる。」
「俺以外にも出場する選手はいるのか?」
「もちろん、
その三人は総合格闘技の世界では、今輝いている三人だ。
いつか俺もその三人と闘ってみたい。
そして車は取材会見の会場に到着した、そこにはすでに一条から聞いた三人がすでに到着していた。
取材の時間まであと二十分、俺が待っていると一人の男が声をかけてきた。
「あんたが、愛知の巨竜か?」
「ああ、お前は誰だ?」
「俺は間宮、大阪の阿修羅や。」
「そうか、大会出場おめでとう。」
「あんたもな、それにしてもこのご時世に大会をやるなんて思い切ったなあ。」
今はまさにコロナ禍が続いている、始まったときよりはかなり落ち着いているが、国民はいまだにマスク着用を欠かさない。
それにこの大会も全試合が完全無観客で行われ、テレビやネットの画面越しでないと観戦できない。
「そうだな、観客がいないだけで後は何も変わらない。」
「そうや、俺たちは目の前の相手を倒すことしか考えてはあかんな。」
こうして待合室での時間は過ぎていった。
そして取材会見が始まった。
俺を含む四人の選手の写真を撮影しようと、カメラのフラッシュが先を争うように光っている。
そして大会への決意表明を喋る時間が来た。
俺の番は二番目、間宮の次に来た。
「愛知県出身の城ヶ崎竜也さん、全世界格闘技フロンティアに向けての決意はありますか?」
俺の答えはこうだ。
「俺はこの世界で活躍し続ける以上、大会に参加して成果を残すのは至極当然です。今回は世界が相手ですが、どんな選手だろうが俺は負けません。俺は子どもの頃から、相手を力でねじ伏せてきました。粗暴な考え方ですが、俺はこれを根幹に今日まで格闘技を続けて来ました。みなさんの応援がないのが少し違和感を感じますが、大会で手に汗握る戦いを見せますのでご期待ください。」
俺の堂々とした言葉に記者は一瞬固まったが、すぐに気を取り直して次の選手へとマイクを向けた。
そして会見が終わり、俺が会場から出ると、後ろから一人の男が話しかけてきた。
「ヘイ!!リュウヤ!!」
俺が振り向くと、無精ひげを生やした渋い雰囲気のアメリカ人男性の姿があった。
「あ?誰だ、あんた」
「ほら、小学五年の時に会ったアーサーだよ!!」
アーサー・・・、俺は思い出した。
俺が小学五年の時、アメリカからホームステイに来た少年がいた。
そいつは瞬く間にクラスの話題になり、自分から俺に話しかけてきた唯一の同級生だ。
そして俺と一緒にいた結果、酷いイジメを受けて逃げるように帰国した。
「アーサーか、お前。」
「そうだよ、思い出してくれてありがとう!!」
アーサーはガッツポーズをして嬉しさを表現した。
「お前、ここでなにしてるんだ?」
「ぼく、スポーツジャーナリストになったんだ。それで全世界格闘技フロンティアを取材しに来たんだ。」
「そうか・・・、だいぶ変わったな。」
「おーい、行くぞ。」
「ああ、それじゃあまたな。」
「バイバイ、マタネ!!」
こうして俺はアーサーと別れた。
そして俺は他の選手と一緒に合宿するところについた。
ここは大会の会場である日本武道館から近い所にあり、二階には選手一人分の個室があり、一階にはトレーニングに欠かせない設備が充実している。
そして何より
俺は岩井について知らなかったが、下田いわく二十年前に引退するまで総合格闘技の世界において、
俺は他の三人と一緒に、岩井の前に集合した。
「大会が終わるまでお前たちのコーチをすることになった岩井利男だ、君たちにはの本代表として優勝を目指して悔いのない試合をしてほしい。私は協力を惜しまないつもりだ。」
俺は返事をしたが、岩井について行くつもりはない。
俺は俺なりにやっていく。
ついて早々に荷物を各自決められた個室に置くと、すぐに一階のトレーニング室に集合した。
「よし、まずはウォーミングアップだ。」
しかし俺は無視して撃ち込みを始めた。
「あいつ、もう拳鳴らしているぜ。」
「ああ、コーチの指示を聞かないなんて頭おかしいんじゃないか?」
「自己中過ぎるだろ・・・。」
そんな陰口、俺はもう聞きなれている。
案の定、岩井がこちらに近づいてきた。
「竜也、今はウォーミングアップの時間だ。」
俺は無視した。
「聞こえないのか!!ウォーミングアップの時間だ!!」
俺は岩井を睨むと言った。
「これが俺のウォーミングアップです。俺は俺なりにやりますので。」
「何だと・・・、私の言う事を聞かないというのか・・・?」
「俺は直ぐに他人を信用しない、そうやって今日まで来た。だから集合にはちゃんと応じる代わりに、自由にトレーニングする。」
「勝手すぎる・・・。お前、度胸だけはあるようだな。」
岩井は俺を睨み返した、この顔はケンカをする顔だ。
「俺と勝負するつもりか?」
「それはこっちのセリフだ、やるのか?」
「ああ、負けたらお前の事信じてやるよ。」
俺は岩井とバチバチ火花を散らすように睨んだ。
「おい、岩井と試合する気だぞ・・・。」
「五十過ぎているけど、岩井さんは強いぞ・・・。」
「竜也、終わったな。」
三人は俺と岩井の対決に、驚いているようだ。
そしてウォーミングアップを中断して、俺と岩井とのタイマンバトルが始まった。
結果を言うと、岩井は強かった。
年齢ではあり得ないほどのフットワークがよく、何より闘争心と拳のセンスが素晴らしいと言える程良かった。
これほど強い相手を見るのは、これまでの経験上ほとんど例に見ないことだ。
しかし岩井も、俺がこれほど強いとは思っていなかったようだ。
「まさか、これほど強いとは・・・、現役の私を見ているようだ。」
「それは俺も同じだ・・・、こんな相手は始めてだ。」
「じゃあ、そろそろ終わらせるとしよう。」
すると岩井は急に素早いフットワークで俺の懐に入り込むと、連続パンチを決めた。
この連続パンチは衝撃的だった、俺のガードが全く通じず、俺は岩井にボコボコにされた。
そして岩井の繰り出した最後のパンチは、俺のアゴにきまった。
頭部の中に大地震が起きたかのような衝撃が起きた、俺は失神しかけたが気力で態勢を立て直した。
「これに耐えるとは・・・、お前は逸材だ。」
俺を褒めているのか・・・?
そんなことを思いつつも、俺は拳を振るった。
しかしダメージのせいで、上手く腕が動かない。
そんな俺を見て、岩井は言った。
「どうやら限界のようだな、対戦はここまでだ。みんな、すまないが各自でトレーニングをしてくれ。」
そして岩井は勝手にバトルから離脱していった、三人は俺を冷たい目で見つめると自主練を始めた。
「すごい、すごいよリュウヤ!!」
子どものようにはしゃぐ声・・・、俺が声がする方を向くと、いつの間にかアーサーの姿があった。
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