ループ①―4

「しょう、ま…」




その姿を見た瞬間、視界がぼやけた。


窓越しとはいえちゃんと確認していたはずなのに、涙がまた溢れてきてしまう。




「ごめん、急いで来たつもりなんだけど、遅れちゃって…い、一応ご飯も食べずに出てきたから、そんなに怒らないでもらえると…」




あぁ、喋ってる。生きて、私に向かって、話しかけてくれている。




「う、ううう…ふぇぇぇ…」




その事実だけで胸が一杯になってしまって。


祥真の目の前だっていうのに、私はとうとう泣き出してしまった。




「え、み、水希!?」




「生きてるよぅ、喋ってるよぉ…ほ、本当に、本当に…」




本当に、良かった。


私はもう一度、祥真とやり直すことができるんだ。




そう思うとますます涙が止まらなくなってしまう。


ようやく落ち着いたのはそれから一時間近く経ってから。


学校なんて、とっくに遅刻している時間を過ぎてからのことだった。








「…水希、どう?落ち着いた?」




「う、うん…ありがとう祥真。もう大丈夫…多分」




正直、全然大丈夫じゃなかった。


思い切り泣いてしまったせいで、目尻は痛いし瞼だって腫れぼったい。


目立ってウサギみたいに真っ赤なはずだ。今の私は相当不細工な顔になってるに違いなかった。




「なら良かった。いきなり泣き出して、びっくりしちゃったよ。水希が泣くなんて珍しいね」




「っ…………」




だというのに、祥真はまるで気にしたふうでもない。


いつもそうしてくれていたように、私に優しく話しかけてくれる。


大人びた態度を見せる彼の前で泣きじゃくった自分がまるで子供のように思えてしまい、目を伏せた。




(祥真ぁ…やっぱり祥真は優しいよぉ…)




ああそうだ、祥真はこういう人だった。


私がどれだけ怒っても、どれだけ罵ろうとも。


いつだってその優しさで、私の全てを受け入れてくれていたんだ。




(それにやっぱり、とっても格好いい…)




間近で立つ本物の祥真は、とても格好良かった。


背はスラリと高くてスタイルもモデルみたい。


スタイルに関しては私が昔から口酸っぱく言ってきたから当然といえば当然だけど、顔だってアイドル顔負けのイケメンだ。


少なくとも私が見てきた中でダントツの美形だと断言できる。


強いていうなら滅多に笑うことがなかったから、表情がいつも暗いところが珠に傷だけど…それだって、儚げで繊細なところのある祥真の魅力を損なうものじゃない。むしろプラス材料とも言える。




(だからこそ、他の女も祥真にたくさん寄ってきて…絶対誰にも渡したくなかったんだ)




そんな彼のことが私はずっとずっと大好きで…つい甘えてしまっていた。




「どうする?もう学校始まっちゃってるけど、今からなら一時間目が終わったくらいには多分間に合…」




「い、行かないわよ学校なんて!こんな顔でクラスの皆と顔合わせられるわけないじゃない!ちょっとは考えなさいよ、馬鹿祥真!」




そして、そんな彼の優しさを思い出してしまったからだろうか。


気付いたら以前の調子で、私は祥真のことを罵っていた。




「……ごめん」




「あ、ちょっ、今のは、ちが…」




しまったと思った時には遅かった。


言い訳にになるけど、祥真と再会できた喜びから気が緩んでたんだと思う。


私の心ない言葉に、祥真は明らかに顔を曇らせており、それを見て心臓が締め付けられたような気持ちになってしまう。




(なにやってるの、私…!)




本当に、そんなつもりなんてなかった。


口が勝手に、思ってない言葉を吐き出していたんだ。


今まで積み重ねてきた関係から、体が勝手に最適な行動だと判断してしまったんだと思う。


体が、心を裏切っていた。




「もっとちゃんと、考えれば良かった。いつも水希に言われてるのに…」




「ち、違うって言ってるでしょ!?謝らないでよ!」




だから、違うのに。


なんで私、また強い言葉を言ってるの?


これじゃまるで、祥真が悪いみたいじゃない。




「馬鹿でごめん…これからは気をつけるから…」




祥真の表情が、どんどん暗くなっていく。


そんなつもりなんてなかったのに。


また会えて、とっても嬉しかったのに。


祥真のこと、救おうって誓ったばかりなのに…




(どうしてこうなっちゃうの…?)




私は自分の愚かさに、絶望していた。

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