ループ①―3

そわそわ。そわそわ。




ギシギシとベッドが軋む音がする。


体が自然と左右に揺れて、収まりがつかないせいだ。




「ふ、ぅ…」




気持ちを落ち着かせるために、何度か深呼吸してみても、心臓は高まりっぱなし。


興奮しすぎて死んじゃうんじゃないかって思うくらいだ。




うん、今の私、多分あからさまに浮わついている。


ベッドに腰かけているというのに、体が宙に浮いてるような錯覚すら覚えてた。




だけど仕方ないよ。だって…




「久しぶりに、祥真の声が聞けたぁ…」




にへらと、表情が崩れていくのを感じた。


多分今鏡を見たら、私の顔はさぞかし緩んでいることだろう。


口角も自然とつり上がり、笑みを堪えることが出来そうにない。




ううん、堪える必要なんてないんだ。


祥真が生きてる。その事実だけで、私は世界中の誰より幸せなんだから。




「これってやっぱり、私は選ばれてるってことよね!やり直しのチャンスをもらえる人間なんて、きっと世界中で私だけよ!」




つい調子に乗ったことまで口走っちゃうのも仕方ないことだと思う。


だって、普通の人はこんな体験できるはずないもん。




もしかしたらまだ夢の中にいるかもしれないって気持ちが捨てきれず、頬をつねったりは怖くてできないけど…




(ううん、それでもいい。これが夢だとしても…要は覚めなければいいのよ…!)




夢ならどうか覚めないでと、強く願う。


この考えが現実逃避であることは百も承知だ。


それでも、私はもう祥真のいない世界なんて耐えられない。


電話越しとはいえ彼の声を聞いて、その気持ちはより強いものになった。




「私が必ず助けてあげるからね、祥真…」




そして、祥真を救うという決意も、一層強くなっていた。


あんな未来は二度とごめんだ。


あんな絶望しかない未来を、私はこの手で変えてみせる。




ううん、必ずできるに違いなかった。


だって私は、神様に選ばれた人間なんだから。




その自負が、私の心に強い活力を与えるのだった。












……とはいえ、だ。


未来の変え方という、ある意味で最強の攻略法が既にわかっているのもあって、心に余裕があるのもまた事実。




要は祥真にこれからは優しく接すればいいのだ。


素直に好意があることを伝えたなら、祥真はあんな行動を取ることはないだろう。




あの朝のことは、今思えば予兆のない突発的な行動だったように思う。


なにが祥真を自殺させたトリガーなのかはわからないけど、とりあえず可能性の在りそうな行動を全て潰せばいい話だ。




「……私の下着姿、アイツには刺激が強すぎたのかしら」




あの時の祥真、笑ってたし…


興奮のあまりつい飛び降りた…なんて、そんなことはありはずないか。




馬鹿なことを考えてしまった自分を戒める。


祥真がきたら、悩みを聞くのは当然として…その後はとにかく手当たり次第、やることをやろう。


とりあえず今日はカーテンを必ず閉めて寝ることを強く誓った。






「ま、まだかな祥真。早くこないかしら…」




今後の方針を固め終えて時計を見るけど、まだ5分も経っていなかった。


時間の感覚が未だに曖昧なのかもしれない。


すっごく待ったような気さえするのに…なんだか腹が立ってきて、つい悪態をついてしまう。




「私を待たせるなんて…祥真のくせに、生意気よ」




そう呟いた瞬間、ガチャリとドアが開く音がした。


ハッとして顔を上げると、そこにいたのは―――




「……ごめん、水希」




「ぁ………」




申し訳なさそうな顔で謝る私の幼馴染。






生きている長谷川祥真が、そこにいた。

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