ループ①―1
その日の目覚めは、いつもとはなにかが違っていた。
「ん…」
ピクリと瞼が動くと同時に、私は自分が目覚めてしまったことを確認する。
起き抜けは、いつだって憂鬱だ。太陽は朝から元気だけど、私の心はあの日からずっと曇ってる。
起きたくなんてなかったけど、身体は日差しの強さに勝手に反応してしまう。
反射行動とでも言うべきか、意思に反してゆっくりと目が開かれていくのだけど、なんだか瞼がやけに軽い。
いつもはもっと腫れぼったく感じるのになんでだろう…そういえば、頭もなんだかスッキリしているというか、ちゃんと思考できている。いつもはもっともやがかかっているのに…
そんな疑問がふと湧いてくるのだけど、感じた違和感はそれだけじゃなかった。
「あれ…?」
なんだろう、いい香りがする。ラベンダーの匂いだろうか。
それは以前の私が好きで、部屋の香り付けに使っていた匂いだ。
今では毎日のようにベッドのうえで吐き続け、すえた臭いが部屋中を充満していたため、意味をなしていなかった。外出だってしないから、買い換えるなんてこともしていない。
いや、そもそも私の鼻はもうまともに匂いを感じ取れていなかったはずじゃないだろうか。
浮かんだ疑問を確かめるべく、体を起こして部屋を見渡そうと思ったけど、太陽の光がなんだかやたら眩しい。遮ろうと手を顔の前にかざすのだけど、そこで私はまたも気付く。
「これ、私の指…?」
影になってハッキリと見えるわけじゃないけど、それでもそれはとても綺麗な指先だった。
自画自賛、というわけじゃない。今の私の指と比較して、あまりにも綺麗に見えたのだ。
黒ずみやひび割れもない、白くほっそりとした、女の子の指。爪だってちゃんと整えられている。
最近は噛みすぎて、ボロボロなんて言葉を通り過ぎるくらいひどい有様になってたのに、全然違う…
「どうゆうこと…?」
分からない。また記憶とズレている。私に、いったいなにが起こってるの…?
呆然としていると今度は枕元から振動音が聞こえてくる。
なんだろうと目を向けると、そこにあったのは一台のスマホだった。
ヒビの入ってない、真新しいスマホ…これもまるで、以前のような…
訳も分からずディスプレイを確認したのだけど、ここで私の混乱は頂点に達することになる。
「え……!?」
映っていたのは、7時の表示。これは朝のタイマーをかけていたことがわかる。
だけど、映っていたのはそれだけじゃない。
そこには今日の日付も表示されていて―――七月六日と、ハッキリ表示されていたのだ。
「なん、で…」
それは彼が死ぬ前日。
祥真が自殺した、七月七日より、一日前の日付だった。
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