好きだった幼馴染が自殺していなくなった女の子が無限の円環に囚われ絶望して、永遠に泣き続けるお話

くろねこどらごん

プロローグ

 ―――さよなら、水希






 目の前で飛び降りた祥真の笑顔を、私はずっと覚えている。






 ―――おまえのせい、だ…






 全身を真っ赤に染めた祥真の苦しそうな顔が、瞼の裏にハッキリと焼き付いていた。






 ―――ぜん、ぶ…ぜんぶぉまえが…ぁぁ…ぉ、おまぇがぃなければ、おまえが…






 涙を流しながら呟いた祥真の最期の言葉を、私は忘れることはできないだろう。








 ―――いやぁぁぁぁぁぁ……なんで、なんでぇぇぇッッッ!!!






 目を瞑りもうなにも言わなくなった彼の前でどれだけ泣き叫ぼうと、失ったものは二度と戻ってこないという当たり前の事実に気付くことができなかった馬鹿な自分を、私はきっと一生呪い続けるんだと思う。








 あの日以来、私はずっと蹲ったままここにいる。


 なんでこんなことになったのか、いくら考えてもわからない。


 わからないから、進めない。答えてくれる人も、手を引っ張ってくれる人も、もうどこにもいないんだ。






 ―――だって私が殺したから。






 私が祥真を追い詰めたんだ。


 彼のことがとても大切だったはずなのに、いつの間にか傷つけていた。


 彼のことを誰にも渡したくなくて、強引に縛り付けて…それでずっと満足してた。




 祥真が傍にいるって事実が、私をなにより安心させてくれたから。




 だから他の誰かを見るなんて許せなかった。


 私を不安にさせないで欲しかった。


 私だけを見ていて欲しかった。






 ―――こんなに私は祥真のことが好きなのに、なんで祥真は私だけを見てくれないの?






 不安に襲われるたびに、私は彼を罵り、暴言を吐き捨てた。


 祥真を誰かに取られるという恐怖が、いつの間にか反転して祥真に牙を向けていた。




 この独占欲を抑えることが、どうしてもできなかった。




 だって、抑える方法を知らなかったんだもの。


 私はこれまで欲しいものはなんでも手に入れることができていたから、強く望めばかなわない願いなんてないのだと、心のどこかで信じていたんだと思う。






 そしてそれは今でも変わってない。


 今の私にはなにを引き換えにしてでも叶えたい願いがあった。






 ―――あの日に戻りたい、やり直したい






 祥真を取り戻せるなら……ううん、取り戻すために、私はあの日に帰りたかった。


 戻って祥真に謝って、本当の気持ちを打ち明けたかった。




 これまで素直になれなくてごめんなさい。本当は祥真のことが大好きで、これまで意地悪をたくさんしてしまったのは、貴方を誰にも渡したくなかったからだって、そう言葉にして伝えたい。




 そうすれば、きっとあんなことにならなかったはずだから。




 きっと私たちにはまだ、別の道があったに違いない。そんな想いが、頭からずっと離れない。




 もちろん、そんな願いは叶わないってわかってる。これはただの未練でただの現実逃避に過ぎないってことくらい、ちゃんと理解しているんだ。




 だけどそんなささやかありえたかもしれない幸せな未来に縋らないと、私は壊れてしまいそうだった。




「神様…」




 お願いします。もう一度だけ、私にチャンスをください。


 そう祈りながら、私は今日も眠りについた。


 夢の中の祥真と、もう一度会うために。そしてその夢が、覚めないことを願いながら―――








 ―――わかったよ








 意識が消える直前、誰かの声を聞いた気がした。




 でもそれが誰のものなのかわからないまま、私はまどろみの輪廻へと落ちていく。






 堕ちていく






 堕ちていく―――

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