第7話 ミランダの怒り
◇◇◇
こうしてオーベルトはミランダの婚約者になった。実家の両親や兄達は最初腰を抜かさんばかりに驚いたが、すぐに心から喜び祝福してくれた。婚約に際してミランダから実家への援助を申し出てくれたのだが、彼らは笑って断った。貧しくともいつでも領民とともに苦難を分け合うことがマシュー家の矜持であるからと。
それを聞いたミランダは領民のための食料支援と農地や水道などの整備支援、医療、教育施設の充実などを共同支援策として提案してくれた。これにはマシュー家の一同も頷かざるを得ない。自分達のつまらないプライドで領民のためになることを断るほど愚かでは無かったので。
「驚いたわ……まさかこれまでマシュー家だけで魔物の討伐を行っていたなんて……しかも数万匹規模のモンスターパレードまで!とても真似できることではないわ」
「はは、まぁそのせいで万年貧乏暮らしなわけだが。魔物の討伐はできても被害を全て食い止めることはできないからな……」
「呆れたのは伯父様よ。いいえ、伯父様だけじゃないわ。歴代の国王は一体何をやっていたのかしら!?魔物が大量発生する領地を押し付けて国の存亡を委ねておきながら、充分な支援を与えずに丸投げするなんて!いくらマシュー家が英雄の一族とはいえ酷すぎるわっ!」
マシュー家はかつて勇者として人々を魔物から守った英雄が叙勲され、その領地を与えられたのが始まりだ。そのため、マシュー家の男は代々優れた身体能力を持ち、騎士として、ときには英雄として活躍している。兄たちもまた優れた騎士であり、オーベルトもまたそうでありたいと思っている。「家を守るのではなく、領民を守り、国を守ること」がマシュー家の家訓だ。
「伯父様にはわたくしがきっちりお話をしておきます。魔物には国を挙げて対応するべきで、マシュー家にはしっかりした報酬や被害に対する補償を受け取る権利があるわ」
「そう、なのだろうか……」
「ええ!今までが間違っていたのです!マシュー家の皆さんが何もいわないからって甘えすぎだわっ!マシュー家がいなければこの国はとっくに滅びていたでしょう。代々英雄を国に留めておきながらタダ同然でこき使うようなものよ」
我がことのように怒りを露わにするミランダにオーベルトの胸は熱くなる。
「ミランダ嬢……」
「ミランダ、でしょ?」
「あー、その、ミランダ」
「はい」
「ありがとう。君が国王だったら……いや、せめて公爵家を継ぐことができるなら、この国も変わるのにな……」
依然古い貴族体制のこの国では、女性の身分は低く、その発言は軽んじられる傾向にある。才媛と名高いミランダであったとしても、公爵家を直接継ぐ権利を持たないのだ。剣にしか興味のない自分などよりよほど優れた当主となるだろうに……。
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