第6話 好き?嫌い?どっち?
◇◇◇
ミランダはオーベルトの目を見つめてにっこりと微笑んだ。
「オーベルト様のふわふわの茶色い癖っ毛にまん丸の焦げ茶の瞳。子犬みたいで可愛いなぁーって。初めて会ったあのとき、一目見て気に入りましたの。わたくし、幼年学校のときから密かにお慕いしておりましたのよ?気がつきませんでした?」
「こ、子犬……」
「もちろん今はすっかり立派になって素敵な騎士におなりですけど。幼い頃、わたくしが泣いているとあなたはそばでじっと見守っていてくれたでしょう?あのときからわたしにとってあなたは特別なナイトなの。生涯側にいて欲しいと思うのはあなただけだわ」
「気がついていたのですね……」
オーベルトはさっと顔を赤らめる。まさか気付かれているとは思わなかった。幼い頃とはいえ、気持ち悪いと思われても仕方のない行動だ。だが、声を殺して誰にも気付かれないように泣く彼女を放っておくことなどできなかった。すでにレオナルドの婚約者候補として周囲が認知していた彼女に、近付くことなど叶わなかったけれど。
「ふふ、気付いてたけど言わなかったの。わたくしが気付いたと知ったらオーベルト様は逃げてしまったでしょう?」
「そ、そんなことは……」
そう言いつつも、確かにそうだろうと思う。それはオーベルトのささやかな自己満足だったのだから。
「だから、逃げられないように皆の前で宣言したんです」
ミランダは悪戯っぽく微笑む。
「オーベルト様は、レディに恥をかかせたりしませんわよね?」
「だ、だが、私のようなものが、ミランダ嬢に相応しいとは思えません……」
オーベルトの言葉にミランダは、目を見張る。
「まぁ!相応しいなんて誰が決めるのかしら?」
「公爵閣下や国王陛下がなんと仰るか……」
「誰にも何も言わせないわ」
「し、しかし……」
「もう、まどろっこしいわね!オーベルト様!」
「は、はいっ!」
「オーベルト様はわたくしが好き?嫌い?どっちですか?」
「す、好き、です」
言った瞬間顔が燃えるように熱くなる。
「ふふ。実はオーベルト様の気持ちも知っていました。いつもわたくしの事を熱い目で見つめて下さっていたでしょう?わたくしもオーベルト様が好き。わたくしたち、両想いですわね?」
オーベルトは頭を抱えた。ちっとも!これっぽっちも隠せてなんかなかったことに!恥ずかしすぎて穴があったら入りたい。むしろ埋まってしまいたい。
「誓います。全てのものからあなたを守ると。この命に代えても」
跪きそっと手を取るとオーベルトは心からの誓いの言葉を口にした。生涯言うつもりのなかった自分だけの誓いの言葉を。
「はい……」
そう言って微笑んだミランダは、今までみた中で一番美しい笑顔だった。
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