第5話 オーベルトの想い

「とりあえず、レオナルド様との結婚の話が白紙になったことは良かったと思います」


 オーベルトが真剣な顔で言うと、ミランダもこくりと頷く。


「もちろんですわ。わたくしはオーベルト様と結婚いたしますもの」


 ミランダの言葉に思わず苦笑してしまう。


「あの発言には正直驚きました。しかし、たとえ芝居でも私を選んで頂けて光栄でした」


 いきなり指名されたときは驚いたが、レオナルドを糾弾するためにあの場で必要な芝居だったのだろう。オーベルトは締め付けられるような胸の痛みにも、自分の気持ちにも必死で蓋をする。それなのに、


「お芝居?」


 ミランダはきょとんとした表情で首をこてんと傾げた。そんな子供っぽいしぐさも上品な猫のようなミランダにはとても似合っていて、思わず見とれてしまう。全くなんて罪作りなんだ。


 オーベルトはミランダに心底惚れていた。だから気がつけばいつも目で追ってしまう。だが、このままではまずいと必死に自分に言い聞かせる。王子の婚約者にならなくても、自分にはとても手の届かない高嶺の花なのだから。


「レオナルド様との縁談を断るために、あのような芝居を打たれたのでしょう?私みたいな貧乏伯爵家の三男坊は当て馬にちょうどいいですからね……」


 自分で言っておきながら自分で凹む。ああ、せめて実家が金持ちならば……などと埒もない夢を見る。オーベルトの実家である伯爵家は、3年前に魔物の大量発生による莫大な被害が出たとき、伯爵家の財産を全て売り払って領民の生活を支えた。


 しかも代々そのようなことをしているため、物心ついたころから貧乏だった。それでも文句一ついわない両親を誇らしく思っているし、そんな両親を支える優秀な兄達のことも誇りに思っている。


 自分も少しでも役に立ちたい。そう思ったオーベルトは魔物を倒すため、騎士となる道を選んだ。剣の道を極めるべく、学園ではひたすら剣術の鍛錬に勤しんできた。まだ学生の身ながら数々の討伐に参加し、騎士としての腕前はそれなりに評価されている。しかし、それすら到底公爵家の威光には届かない。


 これまで貧乏であることも、自分の生き方も恥じたことはない。だかしかし、もしも自分がこの令嬢に相応しい男ならば……胸を張って求婚できる立場ならどんなに良かったかとも思ってしまう。下手に夢を見てしまったため、我ながら諦めの悪いことだと自嘲する。そのため、ミランダの言葉に目を見張った。


「なんのことかしら?わたくしは本気よ。あなたと結婚したいの」


「……冗談が過ぎます」


「わたくし、そんなたちの悪い冗談は言わないわ」


「な、なぜ……」


「言ったでしょう?タイプなの」

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