第4話 わたくしはわがままだから

◇◇◇


 お茶会の後で、オーベルトは公爵家の応接室に招待され、あらためてミランダと向き合っていた。


「ごめんなさい、オーベルト様。突然のことで驚かれたでしょう?」


 優しく微笑むミランダにオーベルトの心臓が跳ねるが、今はそれよりも先程のことが気掛かりだった。


「レオナルド様のことは、本当によろしかったのですか。ミランダ嬢の名誉のためにも公にしたほうが良かったのでは」


 ミランダは自嘲気味にくすりと笑うと小さく溜め息をついた。


「レオナルドお兄様は昔からああですの。わたくしが悲しんだり怒ったりすることをわざとするのが好きなの。昔はずいぶん泣かされたけど、今はもうすっかり諦めてしまったわ」


「なぜ、レオナルド様はあのようなことを……」


 仮にも王子であるレオナルドが本当に金に困ってやっていたとは考えにくい。


「最初は嫌がらせだったのでしょうね。生意気な女を懲らしめてやりたいとでも思ったんじゃないかしら。でもわたくしが何も言わないと分かると、どんどんエスカレートしていったわ。そのうちわたくしのものは自分のものでわたくしには何をしてもいいのだと考えるようになったのかしらね」


「どうしてそのような愚かなことを……」


「どうしてかしらね。でも、わたくしたち女を軽んじる殿方は多いもの。レディとは、ただ返事をするだけの可愛いお人形さんでいるべきだって本気で思ってる殿方もいるでしょう?」


「……」


 確かにそのような考えを持ち女性を無理やり従えようとする男は後を絶たない。たちの悪いことに身分の高い男ほどそうした考えに支配されてしまうのだから厄介だ。


 オーベルトが言葉もなく苦い顔をしていると、ミランダは悪戯っぽく微笑んだ。


「でもね、面倒ごとはごめんですけど、わたくしはわがままだからやられっぱなしは性に合いませんの。あのときのお兄様の顔ときたら!おかしくって笑いを堪えるのが大変でしたわ!」


 悪戯が成功した子供のようにコロコロと笑うと、ふう、と息を付く。


「レオナルドお兄様は困った方ですが、根っからの悪人ではないのです。わたくしとは合わなかったのね。お兄様も本当に愛する方と結婚したほうが幸せになれると思うわ」


「ミランダ嬢はお優しいのですね……私があなたの立場ならあの男を殴ってました」


「あら、それも面白かったかしら。でも、わたくしの手が痛くなりそうだわ」


 クスクスと笑われてしまったが本気だ。いや、どうしてあのとき殴らなかったのかと今更ながらに悔やまれる。王子だってかまうものか。あんなクズとの結婚が無くなったことは本当に良かったと思う。

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