第3話 形見のネックレス
「め、メアリーはただの友人だ!恋人などではない!」
メアリーは新興の男爵家の令嬢だが、学園において最近レオナルドと親しく付き合っている姿がたびたび目撃されている。当然この場にいるものでそのことを知らないものなど一人もいない。だが、貴族の子息が結婚までの間ハメを外すのは良くある話で……まして王子であるレオナルドに意見できるものなど誰もいなかった。
「あら、わたくし知ってますのよ
。メアリー様にわたくしがおばあ様から頂いた宝石をお渡しになったでしょう?わたくし、デビューの際に身に付けるのを楽しみにしておりましたのに……大切に宝石箱にしまっていたはずのネックレスをメアリー様が身に付けているのを見たときはびっくりしましたわ。でも、あのネックレスはわたくしにとってとても大切な物ですの。用が済んだのでしたら返していただけます?」
「あ、あれはその……」
「それは本当かね、レオナルド」
突然かけられた声に周囲は息を飲む。
「お、叔父上!」
「ええ、お父様。レオナルド様に頼まれて宝石を持ち出したメイドはすぐにクビにいたしました。よろしいでしょう?」
「もちろんだっ!だが、レオナルド、いい加減にしろっ!恥を知れっ!」
今にもレオナルドにつかみかかりそうな程に激高した公爵にオーベルトは目を見張った。普段娘に甘い温厚な姿しか見たことがないため、公爵が声を荒げる様子に驚いたのだ。
「ち、ちがうんです叔父上。あれは、その、たまたまちょっと借りただけですぐに返すつもりだったんです!」
レオナルドもまた、蒼白になりながらなんとか苦しい言い訳をしようとしていた。しかし、次に続いた言葉に誰もが表情を厳しくした。
「今までもメイドに命じてわたくしの宝石を勝手に持ち出していたことは知ってますわ。わたくしの名前であれこれ買い物をなさったことも、あちらこちらで借金をしていることも。なんならわたくしの名前で仲良しのご令嬢達に絶縁状を送ったこともあったそうですわね。でも、いとこのよしみで見逃してましたの。レオナルドお兄様がそこまで困ってらっしゃるのならと思って。でも、あの宝石はおばあさまの形見の品なの。あれだけはダメ。許せないわ」
「あ、あれがそんなに大切なものだなんて知らなかったんだっ!借りた宝石も返すつもりだった!」
「あら?女性に一度渡した宝石をどうやって取り返すのかしら。盗んだものだから返してくれとでも仰るの?」
「そ!それは……」
「ほかのものはもういいわ。でも、おばあ様の形見だけは返していただける?それで許して差し上げるわ」
「わ、わかった」
ミランダはうなだれるレオナルドをちらりと見るとアルボルト公爵に向き直った。
「お父様もそれでよろしいかしら?」
「……ミランダはそれでいいのか?陛下に報告してもかまわんのだぞ」
公爵の言葉にレオナルドはびくりと体を震わせる。公爵令嬢の宝石を盗んだとなれば王子であるレオナルドとてただではすまないだろう。まして王族ゆかりの品物だ。王位継承権を剥奪のうえ投獄や国外追放もありえる話だ。しかも余罪も多そうときている。
「伯父様を悲しませたくないわ。ただし、レオナルドお兄様との結婚はお断りします。伯父様にはいつものように『ミランダのわがまま』で通してくれて構わないわ」
「お前がそう言うのなら……。レオナルド、ミランダに感謝するんだな。だが、私はそんなに甘くない。二度はないぞ」
国王に良く似た威厳のある声で叱責され、レオナルドはすっかり意気消沈していた。
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