第2話 オーベルトの困惑とレオナルドの激高
「大変光栄なこととは思いますが……なぜ、私なのですか?」
何かの間違いかたちの悪い冗談だろうか。オーベルトは困惑を隠せなかった。しかし、
「あら、理由なんているかしら?この中であなたが一番わたくしのタイプだったの。それだけよ」
ふっと笑いながら目を細めたミランダの姿はまるで獲物を狙う美しい猫のようで……そのあまりの美しさに、オーベルトは息を飲んだ。
「それで、お返事はいただけるのかしら。わたくしそう気が長いほうではないの」
美しい顔でにっこりと微笑まれ、オーベルトは途方に暮れてしまう。まさか自分が選ばれるとは夢にも思ってなかったのだ。今日は貴族社会のお付き合いの一環で儀礼的に参加し、解散したら速やかに帰宅する予定だった。選ばれたときの対応など考えてもいない。
「そう、ですか……」
オーベルトが口ごもっていると、背後のテーブルからティーカップを叩きつける耳障りな音が響いた。
「ちょっと待ってもらおうかっ!?」
怒りに燃える目で立ち上がったのはこの国の第三王子であるレオナルドだ。
「ミランダ。お前の相手はこの俺のはずだが!?」
そう、彼こそがミランダのお相手であり、将来のアルボルト公爵になるはずの人物だ。今日はそのまま彼とミランダの婚約披露の場となるはずだった。突然のミランダの発言に黙っていられる訳もない。
ミランダの父である現アルボルト公爵は現国王のただ一人の王弟であり、レオナルドの叔父に当たる。そのためミランダとはいとこ同士になるのだが、ミランダの母は大国である隣国アリスラ王国の第一王女であるのに対して、レオナルドの母は身分の低い側室だ。レオナルドは生まれの劣等感からか、ミランダの能力に対する嫉妬なのか、ミランダに対してあまりいい感情を持っていないという噂もある。
現にミランダに向けられた視線は苛立ちと怒りを含んだものしか感じられない。オーベルトはレオナルドの剣幕に思わず溜め息をついた。
「あら、レオナルドお兄様ごきげんよう。いらしてたなんて気付かなかったわ」
激高するレオナルドとは対照的にミランダは余裕の表情で微笑んでいる。そんな場合ではないと思いつつ、オーベルトはつい見とれてしまう。鈴を転がすような透明感のある声、女性らしい細くしなやかな身体……いつみてもミランダは完璧に美しい。
「なんだと!?」
「あら、今日は新しい恋人はご一緒ではないの?確か……メアリー様だったかしら。とても可愛らしいかたね」
ミランダの言葉にレオナルドはさっと顔色を変える。
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