第4話 旅人の見た景色

旅人と言うのは往々にして好奇心が強いものだ。

もちろんその事情は様々だろうが、その多くはわざわざ自分から、

蛮族や凶暴な生物に襲われる可能性が高い、

村や町の外を出歩いて旅することを選んだ物好きなのだから。


その日、旅人は地図にも記されてないような小さなとある村に訪れた。

もちろん、そんな村が目的だった訳ではない。

次の目的地へ向かう途中、たまたま歩き疲れた頃に、

ちょうどそこに見えてきた村だった。ただ、それだけの話だ。

取り立てて見る物もない、どこにでもある農村だ。


村人たちは、それなりに社交的で、そこそこに閉鎖的だ。

挨拶程度はしてくれるが、よそ者に対して適度に好奇心と警戒を抱いている、

いわゆる"普通"の人たち。


彼らに幾ばくかの金を渡し食料と交換して貰う傍ら、

旅人は町で流行の吟遊詩人の歌の話や美しい踊り子の話をして、

その代わりとばかりに村人からもごくありふれた世間話を聞いた。

どこの娘が美人だとか、金持ちのなんとかさんが金を溜め込んでいるとか、

そんな噂話。そして、もう一つ。それは町外れに暮らす父娘の話。

悪夢の子供と、そのせいで狂ってしまった可哀想な父親の話。


旅人は村から村、町から町へ旅をして暮らしていたものだから、

"冒険者"なんて言われる連中もたくさん見てきたし、

その中には"悪夢の子"と呼ばれるものも極たまに紛れていた。

顔色が悪く、頭に触れば小さな角がある、なるほど少し人と違う外見だと思った。

けれど、それだけの話。彼らは別に大きく人と変わることはない。


とは言え、彼らが忌み嫌われるのは外見によるものだけではないのだろう。

特にこうした治療院もないような田舎では、出産した母親はまず助からない。

そうなれば、生まれてくる子供は生まれながらの殺人者である。

母殺しという忌まわしき罪が、彼ら悪夢を悪夢たらしめていることは確かだった。


(とは言え…考えてみれば出産なんて、生まれてくる子供が角付きでなくても、

 もともと十分に危険なものなんだよな…)

(…可哀想には思うが、そんなものか…)


旅人は、近づくなといわれた町外れの丘の方を見やり、

そこに建っている えんとつから煙も何も出ていないボロの小屋を眺めた。



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この傷も痛みも全て 夜摘 @kokiti-desuyo

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