第2話 お姫様のおもらし
「リア、もう無理かもしれない……」
姫様は涙ぐんだ目で私の方をじっと見た。よくみればさっきからもソワソワしていたが、今は余計にソワソワしている。
ぎゅっと握られたネグリジェにくしゃっとシワが出来る。私はただ、姫様の片手を握り
トイレへと共に足を進めることしか出来なかった。
角を曲がればもうそこはトイレ。
「姫様! トイレまでもう少しですよ!」
私はそうやって声をかけた。
「り、リア! 姫様って呼ばないでって言ってるで…… あっ、だめ……」
ちょっとずつでも、歩みを進めていた姫様の足が完全に止まった。
ポタタタと水が廊下のカーペットに滴る。
私の隣で、姫様、ううん。ルナちゃんが内に秘めたる体液を我慢できずに外へと出している。
さっきまではおねしょで後ろだけが黄色く染まっていただけだったのに、今姫様から放たれたおしっこにより黄色く染まっていく。手で押さえている部分から順に徐々に下へと広がっていった。
「り、リア…… でちゃった。どうしよ、止まらないの……」
ルナちゃんは涙ぐんだ目で私のほうを見ていた。
「だ、大丈夫ですから、最後まで出しちゃってください」
私はどういった意図でこんな言葉を言ったのか自分ではわからなかった。もう姫様に我慢というつらいことはさせたくないという心か、それともただ私がルナちゃんのお漏らしをそのまま見続けていたかったのか……
私はルナちゃんのネグリジェから滴るおしっこと、ぐじゅぐじゅとおしっこに浸っていくカーペットを見ながら心ここにあらずといった感じだった。
ルナちゃんの下腹部から放たれた黄色い液体は、ネグリジェや太ももを伝い、カーペットに落ちて吸収される。
しばらくして、ぶるっとルナちゃんが体を震わせた。その反動か、ルナちゃんは一歩後ずさりをする。すると、その踏んだ箇所がぐじゅりと音を立てながらルナちゃんの足元に黄色い液体を生ませた。
「どうしよ、こんなにおもらししちゃうなんて……メイド長のミランダに見つかったら私、お尻ぺんぺんだよぉ……」
ルナちゃんはとても心配そうな表情をしながら、おしっこでぬれたせいでぺたりと太ももに張り付くネグリジェを気にしているようだった。
「私がどうかしましたか?」
突然、曲がり角からミランダさんが出てきた、私たちはばったり会ってしまった。
ルナちゃんはとっさに前屈姿勢から姿勢を伸ばし、さりげなく、両手でネグリジェのぬれた部分を隠した。正直、私はこんなあからさまに隠してもすぐにばれるのだろうと思っていた。
すると、ミランダさんはあからさまに何かの臭いを嗅ぐかのように鼻を鳴らした。
「おかしいですね。トイレの中というわけでもないのにおしっこの臭いがします」
ミランダさんはそう言いながら徐々にルナちゃんのほうへと近づいていく。
二人が手を伸ばしあえば手が届くような距離になるころ、ミランダさんが一歩足を進めると、ぐじゅっと音が鳴った。
「ルナ王女、ここでお粗相をしたのですか?」
「し、してないわよ!」
ルナちゃんは両手をぎゅっと握ったまま、腕を上げ、空を切りそのまま手を体の横に添えた。
ルナちゃんはなにか物を強く言うときに手を動かしてしまう癖がある。
手を動かしてしまったせいか、せっかく隠していたネグリジェのシミがあらわとなった。
「王女、これはなんですか? 正直に言わないとお仕置きしますよ?」
ミランダさんの表情がきゅっと変わった。
それにおびえたのか、ルナちゃんは落胆して、しょぼんとしていた。
「ご、ごめんなさい…… お漏らししてしまいました…… そ、それと……」
私は悟った。ルナちゃんはこのタイミングでちゃんとおねしょのことも言おうとしているのだ。
「それと、なんですか?」
「えっと、その…… おねしょもしちゃいました……」
ルナちゃんが頬を赤らめながらそう言うと、ミランダさんはまぁと驚いた表情をした。
「ルナ王女! 町の平民でいえばあなたはもう初等教育6年間を終え、中等教育を2年ほど受けているような年なのですよ! 大半の子供は遅くても初等教育を始める前には昼の粗相はもちろん、夜の粗相もしないのですよ? それが一国の王女ともあろうお方がそんなのではどうするというのですか!」
ミランダさんは声を荒らげてそう言った。
さっきまではうるんでいるだけだったルナちゃんの目からはぽろぽろと幾数の涙がこぼれ落ちていた。そしてルナちゃんは両手にぎゅっと力を入れて腕を上げる。
「わ、私だってしたくておねしょもお漏らしもしてるわけじゃないの!!」
そういいながら、上げた腕を強く振り下ろし、ルナちゃんはその場から走り去った。
私はあまりの驚きに、すぐには動くことができずに、走りゆくルナちゃんの背中を見ていることしかできない。
「アリア、アリア。しっかりなさい。すみません、ルナ王女のことは頼みましたよ」
私はミランダさんと強く目を合わせ、その言葉を受けて頷いた。
そうして、私はルナちゃんが行った方向へと全力で走った。
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