魔王の死
[冒険者ギルド]
俺とお姉さんはキメラ討伐報告のためにギルドへ行った。
「な、何―? キメラをたった二人で倒しただと!」
「そんな! 信じられない!」
「それに、なんだあいつ? あれ……うんこか?」
「キメラはうんこに敗れたのか?」
冒険者ギルドは、俺とお姉さんを中心にして少しだけ賑わった。
「では、信じられませんが、キメラ討伐を確認しました。こちらが報酬の百万マニーです」
朝袋いっぱいに入った金貨をもらった。
「俺、お金はいらないからお姉さんにあげるよ」
「え? でも私何もしていないし……」
「ううん! 俺はうんこ! 食事もしないし、ベッドで寝ないし、本当に必要ない。
だから遠慮せずに受け取って!」
「うーん。でも……あ! それなら、怪我の治療費だけもらおうかな。そして、残りは――」
俺は人生で初めて、寄付をした。
なんでそんなことをしたのかと言われれば、まあ、褒められたいからだ。
俺のことをもっとみんなに認めてもらいたい。
もっと褒められたい。
俺も誰かに必要とされたい。
寄付する人なんてみんなそうだろ。
だが――現実は残酷だった。
「あのうんこ。金をほとんど寄付したって?」
「なんかのアピールのつもりかよ」
「偽善者め!」
「俺は金を寄付できる余裕がありますよってか? うぜーな」
「キメラ討伐も多分何か汚い手を使ったんだろ! どうせ誰かの手柄を横取りでもしたんだろ!」
ま、現実はこんなもんだ。
俺も前の人生のときは、金持ちが寄付するのを見て、腹が立った。
こいつらは金を見せびらかしたいだけだって思っていた。
俺が寄付している人に、悪口を言ったんだ。それが返ってきただけだ。
[ギルドの入り口にて]
お姉さんは、
「気にしなくてもいいわよ! きっといつか幸運になって返ってくるわ!」
「うん!」
「あなたがしたのはとてもとても立派なことよ! じゃあ!
私は病院に行かないといけないから。ここでお別れね! バイバイ!」
「うん! バイバイ!」
俺は少しだけお姉さんの後ろ姿を見ていた。
すると――ギルドの中から二人の人が出てきた。ママとその娘だろう。
「ママ! これで私、目が見えるようになるかな?」
「ええ! よかったわね! 誰か親切な人がさっちゃんのために寄付してくれたんだって! よかったわね!」
ママは泣いているみたいだ。
「どんな人が寄付してくれたのかな?」
「きっと背が高くて、ハンサムで、お金持ちな王子様みたいな人よ!」
(ごめんな。王子様じゃなくって)
俺は心の中で呟いた。
「私その人のお嫁さんになる!」
(気持ちは嬉しいけど、うんこだから結婚は無理だな)
「でももし、その人があんまりカッコよくなかったらどうする? それでも結婚したい?」
(うんこだと知ったらがっかりしちゃうだろうな……)
「ううん!」
(ほら、やっぱり)
「かっこよくなかったら結婚はしないってこと?」
「違う! その人はもうすでにかっこいいもの! 私は目が見えないから人の中身でしか判断できない!
だからもうその人はすでに私の中で世界で一番かっこいいヒーローなのっ!」
「そうね! どんな外見でもヒーローには違いないわね!」
俺は、暗い路地で
「うんこがヒーローか……ふふっ」
ちょっとおかしくなって笑ってしまった。
「いいじゃないか! 世界最強のうんこヒーロー!
魔王をぶっ倒して、このうんこが世界を平和にしてやるっっ!」
その時だった――
『冒険者の皆様! 皆様に緊急のお知らせがあります!』
と、街の拡声器から大声が聞こえる。ギルドのお姉さんは非常に興奮している。
一体何事だろうか?
『よく聞いてください! なんとたった今、魔王が討伐されました!』
「何――――――! なんだよ! せっかく人がやる気になったのに!」
『世界に平和が訪れました!』
そして、街は大歓喜に包まれた。
「「「「「「「うおおおおおおおおおっ!」」」」」」
「なんかやる気なくなっちゃったな……でも、平和に越したことはな――」
『ピピー!』
拡声器から音声は続く。
「なんだ? まだ何かあるのか?」
『ええー。速報です。新たな魔王が誕生しました』
「えっ? どういうこと?」
『繰り返します! 新たな魔王が誕生しました。
どうやら魔王をたった今殺した何者かが新たな魔王になった模様です』
「なんだっってーーーー? じゃあ魔王を殺したのは、自分が魔王になるためってことか?
一体何が起こっているんだ?」
『さらに速報です。魔王の軍勢がこの街に向かって侵攻を始めました』
「はあーーーーっ? 最悪じゃないか! これなら前の魔王の方がマシだったんじゃ」
『いえ! 待ってください。今、新たな情報が入りました!
魔王の軍勢はもうすでにこの街に来ています。
冒険者の皆様は今すぐに即席パーティーでいいので組んでください!』
「はああ? もう来ている?」
『今すぐに即席パーティーを――ブツッ――ツーツー』
音声は途切れた。
そして、
ドガアアアアン! ドゴオォォオオオン! ドガァアアアアン! ドッゴーーーン!
ドゴッッオオオオーン! ドギャアアアン! ドウウウウウウゥン! ドガンーー!
魔王軍の一斉攻撃が始まった。
俺は慌てて、周囲にいる人に
「なあ! あんたパーティーは組んでいるか?」
「君! パーティー組んでくれよ!」
「お姉さん! パーティーを!」
だが、
「ごめんね! もう組んでいるんだ!」
「誰がうんこなんかと!」
「うわっ! くっさ! っていうか邪魔にならないようにあっち行っててよ!」
「クソ!」
俺とパーティーを組んでくれる人はいなかった。
そこに――
「あのー私とパーティー組んでもらえませんか? ハムハムー」
俺が振り返ると、そこには、超弱そうなハムスター人間。
さらに――
「僕もあぶれちゃって――」
ハム子の横には、蛇を肩にかけたメガネの少年。見るからに弱っちそうだ。
(一体こんなクソパーティーでどうやって勝てっていうんだよ……)
この時は、このクソパーティーがこの戦争で最も大きな戦果を上げて、魔王の軍勢を撃退するなんて、誰も思っていなかった。
やあ! 僕う○こ! 大和田大和 @owadayamato
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