妄執的な狂気
中学生の優斗くんとあたしは他人から見れば良い先輩後輩の関係だったのだろう。学校では公私をわきまえた振舞いを心掛けた。心晴ちゃんの協力もあり、あたしは持ち前の元気の良さはそのままに素敵な女性を目指して努力を重ねた。幼馴染という立場は学校では出さずに中学生生活を送った。
それと成績のいい優斗くんと同じ高校に行く目標を立て、苦手だった勉強もがんばった。そんな努力をしていたからか、あたしは何度も男子から告白された。当然優斗くんが好きなあたしはその告白を断った。
『初音って好きな人いるの?』
『うん、3年の吉岡先輩』
『あーあの吉岡先輩?すっごいかっこいいよね~』
『うん』
『でもめっちゃ告白されるけど、誰とも付き合ってないんだってね』
『有名なの?』
『まあ、一部ではねー。初音は告白するの~?』
『ううん』
『えっ?なんで?』
『今のままだとダメだと思うから』
『そんなの告白してみないとわかんないじゃん』
『あたしと先輩、幼馴染なの』
『えっ、そうなの?』
『あたし昔先輩に付きまとってたから、今は多分妹みたいにしか思ってないと思う』
『じゃあいつ告白するの~?』
『実は先輩のおねえちゃんと仲が良くて、それを考えてるところなんだ』
『へー心強い味方がいるんだねー』
『むしろ逆に告白させてやれっていろいろがんばってるんだよ』
『そーなんだー応援するよー』
『うん、ありがと』
結局あたしは告白せずに中学生活を終えた。高校に上がっても、あたしは優斗くんを見続けた。なにも手を出さなかったあたしに罰が当たったのか優斗くんに彼女ができた。
『心晴ちゃん!!』
『その様子だと優斗が誰かと付き合ったの?』
『なんでそんなに暢気なの!?』
怒髪天を衝く勢いであたしは心晴ちゃんに怒りをぶつけた。あたしはこういうことを恐れていた。しかし心晴ちゃんはあたしに今はまだ優斗くんと距離を取れと言ってきた。その結果がこれだ。あたしは心晴ちゃんを睨みつけるが、彼女はそれを気にせず話し始めた。
『落ち着いて』
『落ち着いてなんていられないよ!!』
『まずは落ち着くことだわ。あなたは前みたいに負けたいの?』
あたしの身体は大きく震えた。『負け』その言葉の重みを知っていたから。これまで動けないでいたのは彼女の言葉に説得力があったからだった。心晴ちゃんはあたしの味方、そう言い聞かせて彼女の言う通りにした。
『いい子ね。はい、深呼吸』
息を何度も整えて、まっすぐ心晴ちゃんに向き合った。
『よく考えて?あなたにとっての勝利はなに?』
『勝利?』
頭が熱くなった後に冷静になったおかげか頭はよく回った。
『優斗くんと相思相愛になること』
『それで物足りる?』
『もっと上…………結婚』
『結婚でいいのね?』
『うん、結婚して子どもを育てて幸せな家庭を作ること。それが理想』
『いいわ。だったら焦って失敗する、それはなんとしても避けないといけない』
『うん』
『あなたの目的はあの子の貞操じゃないでしょ?』
『貞操……』
『だったら確実に仕留めれるチャンスを待つの、それもあの子が弱ってるときを』
『……はい』
頭では分かっていた。だけど現実を直視できなかった。あたしにとって優斗くんは人生のすべてだったから。彼の初めてを奪われる、それを考えることがどれだけ残酷なことだったのだろう。今思い出しても吐きそうになるほどの地獄だった。
あたしはいつからか彼のストーカーになっていた。いや、優斗くんに病的なまでの執着を持っていたのは最初からだった。表では素敵な女性になるための努力を重ね、裏では彼に絶対バレないようストーカー行為を続けていた。そんなあたしが彼と交際している女性に陰ながら嫌がらせをするのは止められないことだった。
優斗くんは相変わらずモテた。寄ってくる女は害虫のように見えた。害虫はタチの悪い奴もいた、何度邪魔をしても振り払えない、あたしの大事な実が齧られた。そのせいでかなり過激な手段に出るハメになった。人としての道を外れることよりもあたしは彼にバレることを極端に恐れていた。
そして大学生になった年、運命の時が来た。いろいろなことがあったけど優斗くんと結ばれた瞬間は人生で最も幸せを感じた瞬間だった。
初めてを捧げたとき、痛さよりも感動で泣いた。あたしは改めて優斗くんにすべてを捧げようと誓った。
2回目のとき、魂からこの人を求めてるんだと確信した。それほどに身体が彼を求めていた。あたしは狂っているのだろう、同時に狂気染みた考えも頭に浮かんでしまった。
夢が叶ったあたしに影が差した。厄介そうな害虫の日菜子は大人しくしていたけど同級生の麻衣佳が色目が狙ってきた。あの女はタチが悪い、あたしの勘が囁いた。案の定作っておいた情報網で調べてみると過去に何度か浮気の経験があるクソ女だった。すぐに弱みを集めて、証拠を親に送れるように準備をした。
あたしの不運はさらに続く。ジジイがくたばりそうになって合宿に行けなくなった。なにが一番不満ってのは優斗くんとの思い出が減ること。なんとか回避できないか聞いてみても両親は親戚の付き合いも大事、あなたは大人の仲間入りをしたのだからと社会常識を持ち出された。合宿に行けないことに加えて、合宿に行った優斗くんの返信がこないことであたしのイラつきがピークに達した。さらに最悪なことにクソ女たちの悪ノリであたしの優斗くんに手を出されたことを知った。
そんなあたしが歯止めが利かなくなってもしょうがないじゃない……。後悔の反面、あたしの本能はもっと激しく優斗くんと交わりたいと思った。それこそお互いの体を引き裂いてミンチのように混ざりたいと思うほどに。狂っていると他人は思うのだろう。欲望という名の水を注いでもその器には穴が開いているのだから。
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