強制○○会に参加させられました。
「うふふっ……なにが欲しいのぉ~?おねだりしてごらん?」
「……たくっ、調子に乗んなよ」
一組の男女が建物の陰で抱き合ってキスをしている。優斗はそれを盗み見ていた。
(なんで僕は圭吾先輩の逢引きを見てるんだろ……)
優斗はちょっとしたことで圭吾に声を掛けようとしていた。ただそのタイミングを外したせいか、圭吾の後を尾ける形になってしまった。圭吾の進む先、人がいない他の別荘、その物陰に女性がいることに気が付き、今のような状況になってしまった。思わずその光景に目を奪われた優斗は踵を返そうとする。しかし突然、背後から誰かに手で口を塞がれた。
「!!」
「静かにね、声を上げられると困るから」
後ろから抱き着くように口を塞いだ相手は女性だった。女性は優斗が落ち着いたタイミングで手を放す。
「日菜子……」
「やあ、奇遇だね」
にこりと笑った彼女は優斗を手振りでこの場から離れようと誘う。それには彼も頷きで返した。
「どうして日菜子はあそこにいたんだ?」
「それはもちろん私の趣味さ」
「…………」
「悪趣味だって言いたいんだね、わかってるよ。でも驚いたよ、優斗も同じ趣味を持ってるなんてね」
「ち、違うからな!僕は先輩に声を掛けようと偶然……」
「あははっ、知ってるよ」
「……つくづく悪趣味だってわかったよ」
「でも人が傷つくのは好きじゃないよ」
「見つからなければいいなんて思ってる?」
「もちろん」
「はぁ」
(最近距離を置くようになったけど、前はこんな感じで振り回されてたな)
「ふふっ、優斗のその顔やっぱいいね」
「えっ?」
(そんな顔で突然褒められるとわけがわからなくなるよ)
「ねえ。最近避けてたでしょ?」
「否定はしない」
「それは認めるってことだよね」
(彼女がいるのに2人きりで女の子と会うようなことはできないよ)
しかし優斗は初音の友達の麻衣佳と会い、メールで連絡を取り合っていた。しかしやましいことはないとはいえ未だに彼女と繋がっていて、それを初音に言えていない。そのことを思い出しながら久しぶりに日菜子と近い距離で話した。
「今年の合宿も何事もなく終わりそうだね」
(普通に、普通に喋ろう)
「新人はいい子たちだしね。でも……」
「でも?」
「優斗はやっぱり先輩たちにかわいがられてるよね」
「否定はしないけど、みんなそうじゃない?」
「いやいや、私みたいにイジる側に回る人間やかわいげのない人間もいるし、優斗は貴重な人材だよ」
「まったく嬉しくない評価だね」
「あっ、えいっ」
「えっ?」
日菜子は優斗の腕に軽く触った。
「……どうしたの?」
「あ、蚊がくっついていたから」
「潰した?」
「ううん」
「で、なんでまだ触ってるの?」
「思ったよりも引き締まってるなって」
「離してくれない?」
「…………」
「うん。別のところを触って、筋肉を確認してもいいってことじゃないからね?」
(うっ、女の子に触れられてるからかドキドキする。いや日菜子だからか?)
「ごちそうさま。冗談とはいえ堪能したよ」
「堪能しないでよ!」
(ただの冗談だよね?)
「まあまあ親しき中にも礼儀ありってね?」
「逆だよ!?使い方!!」
「あっはははっ」
(日菜子と付き合ってたらこんな風だったのかな?……いやいや、僕の彼女は初音ちゃんだから)
人間はもしを考えてしまう生き物だ。優斗は表情を引き締めるよう意識した。
「もうそろそろ戻ろうよ」
「そうだね」
2人は別荘に戻る。別荘は玄関の右が女子たちの部屋、左がリビングで男子たちが雑魚寝する予定だ。優斗は日菜子と別れようとした。
「じゃあ」
「せんぱーい、新鮮な生贄確保しましたー」
「はっ?」
日菜子は優斗をがっちりと掴むと女子たちの部屋のドアが開く。そこから出てきた3名の先輩たちも加勢し、優斗は部屋に連れ込まれた。
「「ようこそー優斗くん」」
「ええ、抵抗しないので抱きつくのを止めてもらえませんか?」
先輩たちは『無駄な抵抗はよせー』『みんな、振り払われないようにしっかり掴むんだー』とノリノリで部屋に優斗を連れ込んだ。一部の女子は完全に酔っ払っていた。このような悪ノリに優斗は慣れていたので抵抗は無駄だと悟った。こういう時リアクションがあると彼女らは喜ぶことも優斗は学習していた。
しかし相手は悪ノリの上級者、そんなに甘くはなかった。悪そうな顔になった先輩が次の手に出る。
「後輩ちゃんたち!今なら合法的にイケメンに抱きつけるぞー!」
「なっ!?」
「あたしたちが両腕を抑えている間に!勝機を逃すな!」
流石に優斗は脱出を試みるが彼女たちは楽しいことには全力だった。
「この不肖、木下歩美いかせていただきます!」
「ちょ、ちょっと考え直して!」
「行けっ、私が許す!」
「ひ、日菜子ぉ!」
結局、握手会ならぬ強制ハグ会は女子全員が一周することになった。優斗は3人目から諦めの姿勢を見せた。ただひたすらに目をつぶり心を落ち着かせた。悪ノリした女子たちはフッーと息を吹きかけたり言葉攻めをしたり行動がエスカレートした。
「!!?」
「望海先輩!流石にソコを触るのはアウトです!」
「チェックだよ!チェック!」
「チャック?」
「おしいっ」
「流石にそれはアウトだよ、望海」
「はぁい」
「ところで硬かった?」
「硬くておいしそうな形をしていました」
「「ごくりっ」」
「…………」
「まぁ、そろそろ解放してあげてもいいんじゃないかな?」
「そうね。優斗くんがご褒美欲しいって言うなら考えて……」
「いらないので早く帰してください」
「そうかぁ。ざんねん」
「じゃあねーばいばーい♪」
「「ばいばーい」」
「……おやすみなさい」
(流石に男なんだからムラムラするよ。帰るまでの我慢かぁ)
弄ばれた優斗はその後、男子の先輩たちに根掘り葉掘り聞かれることになった。同じ別荘内の出来事だ、当然声が漏れていた。優斗にとってろくでもない夜だった。
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