お酒の勢いで大切なものを失ってしまいました

「ふわんっふわんっするー」

「あははっ」

「あの優斗さんもとうとう酔っ払いの集団に入ってしまった……」


 酔ったせいか優斗の語彙能力は著しく下がっていた。しかし酔っ払い同士だとそれが面白いらしく、酒を飲んだメンバーで優斗を囲んでいた。今日の主役は初めて酒を飲んだ優斗だ。


「せんぱいたち、お酒っておいしくて楽しいですねー」

「おーそのとおりだ」

「大人の階段登ったな」

「酔ったときにやると楽しいことって知ってるかー?」

「ふぇ?わかりませーん」

「わははっ、それはゲームだぞ」

「単純なゲームでも酒が入ると楽しくなーる」

「じゃあインディアンポーカーでもやってみようか?」

「ルール知らないでーす」

「引いたカードを自分に見えないように頭の上に掲げて、一番強いやつが勝つんだ。簡単だろ?」

「うーん?」

「一回やってみればわかるさ」


「まずカードを引く」

「はいっ!」

「OKだ」

「みんなOKだな?」

「じゃあ公開するぞ、数字が一番大きい9の望海の勝ちだ」

「やったー」

「これって勝った人になにかあるんです?」

「とりあえず勝ったあたしにハイタッチね、いえーい♪」

「「いえーい♪」」


「とまあこんな感じだ。それとこのゲームは自分が弱そうと思ったらカードをチェンジできる」

「そこはうちらのオリジナルだけどな」

「時計回りで一回だけチャンジするかどうか聞いていく、一周回ったらカード公開だね」

「ところでルールってそれだけですか?」

「いいところに気が付いたね」

「罰ゲームの説明をしないとね」

「罰ゲーム!?」

「そう警戒するなって。そうだな、数字の一番大きいやつが一番小さいやつに質問をするってのはどうだ?」

「さんせーい」

「せんぱい、やさしくしてください」

「心配するなって」

「そうだよ、あたしたち優斗くんと仲良くなりたいだけだよ?」

「あっ、なんか酔いが醒めてきました」

「おっ?じゃあまだ呑めるな?」

「まっ!?」


「王様だーれだ?」

「それ別のゲームです……」

「早速、夏樹が優斗に質問か」

「まず軽くね。優斗は初音ちゃんと週にどのくらいメールしあってるの?」

「……毎日3通くらいですよ。写真とかはSNSで上げてますが僕は投稿頻度が少ないです」

「あー初音ちゃんあたしもフォローしてるよ。今度優斗くんも探してみようかしら」

「まったくつまらない投稿なんでやめておいたほうがいいですよ?」

「初音ちゃんと比べるとね。彼女のページ気合入ってるから」

「ほー今度見てみようかな?」

「俺はSNSは向いてないわ」

「次々、次いきましょ」


「今度は勝仁が夏樹に質問だな」

「チャンジして神引きしたぜ」

「いえ、チャンジする前の方が強かったですよ?」

「えっ?マジで?」

「あっ、これ真剣勝負だからそういうアドバイスはしないでね」

「……はい」

(どんな質問をするつもりなの!?)

「俺と夏樹の仲だからな」

「勝仁さん」

「最近やっちまった恥ずかしいことを教えろ」

「ジーザス!」

「正直に答えたほうが身のためだぜ?」

「勝仁が筋肉を見せつけながらプレッシャーをかけてるぜ」

「こわい」

「しょうがないですね。それは3日ほど前に柱に小指をぶつけたことです」

「却下」

「却下」

「それはないわね」

「…………」

「あきらめてガチで恥ずかしいやつを言え」

「……動画を見た時に」

「声が小さいなぁ~」

「動画を見た時に!ヘッドホンの方に繋いでなくて1分くらいイヤらしい声が外に漏れてしまったことです!」

「それってホントに恥ずかしい話なの?誰かに聞こえて初めて恥ずかしい話じゃないの?」

「……妹が聞いていたっぽくて、しばらく視線が冷たかったでした」

「「ぷっはははっ」」

「うふふふっ」

(なんて恐ろしいんだ……はやく逃げたい)


「はい、おかわり取ってあげたよ」

「ありがとうございます」

(無言で酒を飲めって言われてる)

「おねーさん、優斗君に質問したいなぁ~」

「はい……」

「じゃあ張り切っていってみよー」


 ゲームは続き、優斗はなんとか一番低い数字を引くのを回避していた。しかしそれはいつまでも続かなかった。


「おめでとうおねえさん、優斗に質問できるよ」

「うっ……」

「そんな弱ったウサギみたいな目で見られたら……」

「…………」

「では質問でーす。ち○○見せて?」

「は?」

「なるほど、そうきたか」

「これは……」

「いやいや、完全にアウトですよね!?」

「微妙な線ですな」


 優斗は首を大きく横に振る。だが風向きが悪いようだ。質問した望海、それに便乗した勝仁、圭吾は完全に敵だった。残るメンバー、このゲームで弱ってしまった夏樹に優斗は目を向けた。


「夏樹先輩はこの質問はダメだと思いますよね」

「う~ん」

(あれ?これダメなやつ?)

「流石に優斗くんがここでオープンするのはマズいと思いますよ」

「夏樹先輩!」

「なら望海が確認してきてそれを俺たちにレポートするってのはどうでしょう?」

「先輩!?」

「「「OK」」」

「もうやだ……」

「罰ゲームしよ?」


「帰ってきましたー。早速報告したいと思います」

「「「おー」」」

「…………」

「まずあたしはち○○に触れてません。それと同意の上です、よってセーフ!」

「「「セーフ!」」」

(アウトだし!)

「まず第1印象は細くて長かった。それと火星人でした」

「「「おー」」」

「次は匂いをかいでみました。かなりエロい気分だったので興奮しました」

「それはレポートとしては不適」

「だが面白い」

「匂いは薄かったですが臭かったです。やはり行為の前のシャワーは必須ですね。ここテストに出ます」

「うんうん」

「ちゃんと勉強になることも言う」

「あたしはとあるチャレンジをしてみました。それはち○○の起動を試みることです」

「で、結果は?」

「起動……成功しました」

「おー」

「詳しく」

「そこは……ねっ?ただ言葉や目線、それに体勢とかで工夫したとだけ」

「妄想が膨らみますな」

「レポートを提案した夏樹グッジョブ」

「勉強になります」

「レポートは以上です」

(やっと終わった)


 他のメンバーは片付けをして、酒を呑んでいるメンバーはこちらを気にせずに盛り上がっていた。不幸中の幸いか優斗の恥ずかしい思い出はあくまでも『ここだけの話』になった。

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