初めてのお酒
「合宿?」
「っていっても基本は別荘で過ごすだけなんだけどね」
「ちょっとイメージ湧かないかな。去年はどうだったの?」
「楽しかったよ。バーベキューとかパーティーゲームとかやっていたね」
「うん、バーベキューいいかも」
「全部自分たちで用意するって大変だけど、大人になったって感じで良かったね」
「確かに。大人抜きでバーベキューなんてしたことないもんね」
「テストが終わって、すぐくらいになるけど予定空けれそう?」
「大丈夫だと思うよ」
「今年は僕たち2年生が準備をするから、もうちょっと詰めたらプリントにして渡すね」
「うん、楽しみにしておくね」
しかし初音がこの合宿に参加することはなかった。祖父が危篤になり合宿中に亡くなる可能性があるくらい危なくなったためだ。
「初音ちゃんは残念だったね」
「まあそういうこともあるよ。僕たちは僕たちで楽しもう」
「うん。その前に大掃除っていうお仕事があるんだけどね」
「18人もいるしすぐ終わるって」
この別荘はOBの持ち物ではない。あくまでも伝手を使って大掃除をするという条件で数日間タダで借りただけだ。
別荘の持ち主は年中通してここを訪れるがあくまでここは別荘だ。そんな持ち主は掃除や保全をある程度他人に任せた方が楽だと思いついた。優斗たちは別荘を貸す条件をいくつか付けられた。その一つに細かく別荘の写真を取ることと掃除をすることがあった。写真は破損や盗難などトラブルの回避のためだ。
到着した優斗たちは早速作業に取り掛かった。
「あー地元より涼しいって言ってもやっぱ動くとあちー」
「だよねー」
「でもこの別荘は物があまりないから掃除は楽だよ」
「まあね。そこは持ち主の性格に感謝だわ」
「でもさ電気は通ってるけどまともな家電が冷蔵庫と炊飯器しかないよ?」
「そこは諦めるしかないかなぁ」
合宿ではここ数年この別荘を利用させてもらっている。最初はテレビも何もないこの別荘に戸惑っていたが、今では都会から離れるという意味でプラスに考えている。ちなみにこの合宿に限ったことではないがサークルではスマホの使用は非推奨だ。
「うーん腰が痛い」
「それはそうと裕一君凄いよね。床の修繕とかし始めたし」
「あーあれね。持ち主に謝礼金もらうんだってさ」
「えー?」
「あいつホームセンターでバイトしてるからそういう道具に詳しいらしくってさ。修繕前と後の出来によって金をもらうって」
「遊びにきてお金を稼ぐのってある意味凄いよね」
「ああ、流石に掃除はある程度させてから作業をさせてるけどな」
「僕たちにとっても床がきれいな方がうれしいけどね」
その裕一は夜に2万の謝礼のメールがあったと喜び、いくらか周りの人間にせびられたわけだが。
「山のメシといえば?」
「カレーだね」
「それにしてもIHで作れるのは助かるよ。毎食外で火起こしからするのは流石に大変だもん」
「この人数だから余計にそうだな。追加で持ち込んだ炊飯器で米を炊いて、カレーにサラダ、それと出来合いの惣菜か」
「それと酒!!」
「それなっ!」
「台所に立つ優斗くんかっこいい」
「男でも少しくらい料理ができないとね」
「おっ、望海聞いた?」
「うっさいわねー、女なのに料理できなくて悪かったわね」
「わはははっ」
「もうできあがってる人がいるんですが?」
「酒豪は乾杯前でも開けちゃうから」
「飲み物とカレーはちゃんと用意できましたかねー?」
「「「はーい」」」
「ではテストおつかれーかんぱーい」
「「「かんぱーい」」」
「みんなで食べるごはんはおいしいね」
「じゃあ学食で食事会でもする?」
「あ、それはいいです」
「■■の単位ヤバかったかもしれん」
「あーその単位は落とすとキツイな、次の○○の単位受けれんくなるし」
「うわー先輩にもっと教えてもらえばよかったわー」
「俺もそこまで余裕なかったぞ。自分でなんとかしろ」
「……そうっすよねー」
「みんな盛り上がってるね。1年も馴染んでいるようだし」
「こんな時にも周りが気になるなんてホント人がいいよね」
「日菜子……」
(あれ以来なにもないし、大丈夫だよね)
初音がいないこの状況でも、優斗は日菜子との距離感を気にしていた。
「優斗、飲まない?」
「確かに誕生日は過ぎたけど」
「何事も試しだよ。カクテル系のお酒なら飲みやすいし、気持ち悪くなりそうならやめればいいさ」
(うーん、周りも僕がよそよそしいことを少し気にしてるようだし、断れないな)
「じゃあ飲んでみようかな?」
(あくまで日菜子はサークルのメンバー、悪いことはしていない)
「!!」
「どう?初めてのお酒は?」
「ジュースになにか入ってるのはわかるよ、経験したことのない不思議な感覚かな?」
優斗が3口くらい酒を飲んで、近づいてきた優佳からポテトサラダと唐揚げを勧められた。
「あっ、確かにおいしいかも?」
「だよねーお酒がおいしいってよりも、味が濃いものがおいしくなるって感じ?」
「優佳先輩もそうなんですか?」
「ふふふ。私はお酒自体も好きだけどね」
「そうなんですね」
「ようやく優斗くんも飲めるようになったかー。ようこそお酒の世界へ」
「アルハラはやめてくださいね?」
「大丈夫、優しくするからさー」
「あっ、コレ酔っ払いの絡み方だ」
そんな優斗も気づかないうちにアルコールが回っていた。初めてのアルコール、本人が気づかないうちにその魔の手に絡めとられていた。
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