裏切りじゃないけど後ろめたい

「私たちも優斗さんって呼んでいいですか?大学ってあんまり上の学年の人を先輩って呼ばないですし」

「僕はそれでいいよ」

「よかった。でもせっかくなんで同じ学部の後輩になにかいい情報くれません?」

「ははっ」


 学内のカフェスペースで優斗と初音と初音の友達2人が席に座っている。優斗はその友達、麻衣佳と話して初対面でも距離を詰める話し方が面白いと思った。一方、大人しい様子の悠里は彼女の振舞いを不安そうに見つめ、初音はどこか冷たい目でそれを見ていた。


「1年のうちは一般教養をしっかり取らないとね。専門的な知識は2年からしっかりさせられるから高校の頃に詰め込んで覚えるタイプだった人は気を付けて」

「うわぁーあたしヤバいかも……」

「今のうちにちゃんと単位取らないと」

「それに大学って時間が自由だし、休みが長いからルーズになると社会人になって大変ってOBの先輩に聞いたことがあるよ」


 優斗はちらりと初音の方を見る。真面目な話をして空気を変えたおかげか、彼女の機嫌は直っていた。


「それにしても実物は凄いわ」

「えっ?突然何の話?」

「うちらの間で凄いイケメンがいるって噂になってて」

「そうです。わたしなんて他の大学のコから聞かれたこともあるんですよ」

「そしたら初音がそのイケメンと歩いてるって見た子がいて、初音を問い詰めたら付き合ってるって聞いてびっくり!」

「あー」

(僕は絶滅危惧種かなにかかな?)


 優斗はそのあと2人にあれこれ質問された。時々初音が機嫌の悪さを顔に出し悠里はそれを察して麻衣佳を諫めた。


「優斗さん、イケメン成分補給あざーした」

「どういたしまして?」

「麻衣佳ちゃんは元々こんな性格でなにも考えてないんです」

「ひどっ!」

「ぷっ」


 ようやく2人(主に麻衣佳)は好奇心が満たされたのか優斗を解放した。初音はごめんと言っていたが優斗は友達と接している初音を見て安心していた。

 しかし数日後、そんな麻衣佳が優斗に頼みごとをしてきた。


「あっ、麻衣佳ちゃん。こんなところで会うなんて珍しいね」


 優斗が講義を終え、教室から出たところで1人でいる麻衣佳を見かけ声を掛けた。


「ごめんなさい。優斗さんに相談があって……」

(相談事とはいえ彼女がいる僕はあまり彼女と話すべきじゃないよね)

「話は聞くけど、多分そんなに踏み込んだことは言えないよ?」

「無理言ってるのはわかってます。でも聞いてくれるだけでうれしいかな」


 麻衣佳は不安な表情から柔らかく微笑んだ。2人は近くのカフェスペースへ移動する。


「飲み物は出させてください」

「じゃあこれで」


 2人が向かい合って席に着くと彼女から話を切り出す。


「付き合ってる彼氏のことで相談があるんですけど、男の人の意見が欲しくって……」

「君は男友達とかお兄さんはいないの?」

「高校は女子高だったし、身近に相談できる相手もいなくって。友達の彼氏ってわかってたんだけど相談する相手が優斗さんしか……」

(そんな不安そうな顔しちゃ冷たくあしらえないよ)


 優斗は内心困ったがちゃんと彼女の相談に乗ることに決めた。彼女らは付き合って3か月、マンネリになってしまい彼氏が楽しそうにしてくれないという。女友達に相談してアドバイス通りに色々試してみたけど反応がなく、そんな時に優斗に相談してみようと思った。


(これは長くなりそうだな。それに状況によってどう動くか考えないといけなそうだ)


 麻衣佳に色々質問し、今の気持ちや彼氏のことを詳しく聞いた。しかし細かいアドバイスをしないと彼女たちの関係は解決しないと優斗は思った。


「分かりました。ところで連絡先教えてくれません?」

「……わかったよ。初音ちゃんには……」

「ごめんなさい!できれば秘密でお願いできませんか?」

「……うん。友達とはいえ知らなくてもいいこともあるもんね」

「ありがとうございます!」

(これは裏切りじゃないけど少し後ろめたいな)


 優斗は初音に対し初めて隠し事ができてしまった。

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