別に隠す気ないんで、いいですけどね

「優斗くん、実は言わないといけないことがあるの」

「えっ?」

「あたし……優斗くんともっと、えっちなことがしたい……」

「……顔を見せて?」

「…………」

「初音ちゃんの恥ずかしがってる顔、かわいいよ」

「~~~~~~」

「どんなことでもやって欲しいことがあるなら言ってごらん?」

「……どんなことでも……」


 初音がTシャツの下から手を入れ、優斗の上半身をまさぐる。興奮しているのか初音の吐息は荒い。


「優斗くん……ブレーキ利かなそうだよ……」

「でも姉さんもいるからね。今日は」

「今日は声が我慢できるギリギリまで、いいよね?」

「じゃあ脱がすよ」


 付き合いたてのカップルは程度の差はあれ、いずれは肌を重ねる。彼らも一般的なカップルといえた。


 □ □ □


「と、まあそんな感じだよ」

「じゃあ次はエロエロな話も頼むわ」

「しないよ?付き合ってる彼女の話を無理やり聞いておいてさらにおかわり、じゃないからね?」

「だってさ、黙ってて欲しいんだろ?街中でいちゃついてるところを見られたのをさ」


 優斗は学友に初音と歩いているところを見られたようで問い詰められていた。とはいえ彼に焦った様子はなく、淡々と常識で答えられる範囲で彼女との馴れ初めや交際の状況などを話した。


「だからといって彼女との生々しい事情を話さないよ?普通」

「ちぇっ」

「それにしても、こんなにも早くバレるなんてね」

「優斗って目立つからさ、実は知ってる奴は何人かいそうだよなぁ」

「まあ、必死になって隠そうとしてるわけじゃないね。広める気がないだけ」

「俺もちょっとした悪ノリってヤツ?しばらくは誰にも話さないから安心しろよ?」

「はぁ、そのうち広まりそうだなぁ」


 □ □ □


「優斗って初音ちゃんと付き合ってる?」

「ちょっと気を付けてくださいよ!?こんなところ誰が聞いてるか分からないじゃないですか!?」

「声、大きいな!大丈夫だって、近くに誰もいないのを確認したからさ」


 優斗にサークルの先輩の山内が声をかける。優斗は話題が話題なだけに一瞬慌てるが山内の返事を聞いてうんざりした様子だ。


「はぁ。別に隠す気ないんで、いいですけどね」

「なんか疲れてそうだな」

「そりゃそうですよ。今日3人目ですから」

「それはそれは、イケメンは違うなー」

「それはどうも」

「なんというか大変だな、羨ましいけど」

「山内先輩も彼女作ったらどうです?」

「俺のことはいいわ!」


 山内は『サークル内では恋愛をしない』と男性メンバーに宣言したことがあるが、同時に敗北宣言と揶揄された。そんな山内が真剣な顔をし、優斗に忠告する。


「優斗、サークル内でお前と初音ちゃん噂になってるぞ」

「そうですか……」

(またサークルを離れないといけなくなったら嫌だな)

「心配するな、普通に付き合ってることを言えば問題ないだろ」

「協力してくれるんですか?」

「ああ。ただしベタベタしすぎたり、ケンカを持ち込むことはダメだぞ?」

「はい、わかってます」


 サークルは人の集まりだ。幸いなことに旅行サークルの雰囲気は緩く、ノルマもないがマナーは守らなくてはならない。先輩である山内が味方になってくれるなら、2人がカップルとして受け入れられることに問題はないだろう。


「俺たち3年も後期からは就活が始まる。だからお前たちがメインでサークルを引っ張るんだぞ」

(あっ、そうだ忘れてた。旅行サークルは居心地がいいけど、先輩たちとは会う機会が減るんだ)

「ちょっと忘れていました。今までは旅行の計画を立てたら先輩たちの名前がありましたけど、そうじゃないことも増えるんですよね……」

「おいおい、急にしんみりするなよ」

「先輩、さみしいです」

「優斗?お前が美少女だったら思わず抱きしめてしまうぞ?」

「そういう言葉は気になる女性にかけてあげてください」


 優斗がにっこりと微笑むと山内が目を大きく見開いてぽかん、とした。


「かぁ~。お前はちゃんと先輩らしく1年生を引っ張って、サークルにあんまり来れない俺たち先輩のために旅行の計画を立ててくれればいいの!以上!」

「わかりました」

「あー調子狂うわー。優斗、バイトでホストでもしたら?すぐに稼げそうだぞ?」

「彼女もいますし、辞退します」

「はいはい。末永くお幸せにね」


 次の日、優斗と初音は集まりでサークルメンバーに2人が付き合っていることを打ち明けた。事前に味方になってくれそうなメンバーに根回ししたおかげもあり、それは受け入れられた。その場には日菜子もいたのだが彼女は特に感情を動かすことなく微笑んでいた。

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