どんなキスがいい?

『今日の夜、話がある。僕の部屋に来てくれないか?』


 優斗が初音にメールを送る。今日はバイトもなく、ちゃんと会って初音の想いを受け止めると告白するつもりだ。

 いつものように講義を受け、そこには日菜子の姿もあった。


(不思議だな。あんなことがあったのに、僕はちゃんと気持ちの整理がついてる)


 日菜子は優斗を見て少しだけ微笑んでいたが、優斗はそんなことは気にしなかった。いつものように時間は過ぎ、最後の講義が終わる。狙ったかのように日菜子が優斗に


「優斗、このあと話があるんだけどいい?」

「いいよ」

(日菜子との関係も清算しないと)


 彼女から出た言葉は意外なものだった。それに優斗が驚きを隠せない。


「私たち、ただの友達に戻りましょ?」

「…………」

「あらあら、私を見る目が変わったと思ったのは気のせいだった?」

「いや、僕は君のことを諦めると言うつもりだった。それを先に言われて驚いたんだ」

「私はいたずらが大好きだからね」

「日菜子は友人としてなら最高に面白いやつだよ」

「ふふっ、友人としてね。何か困ったことがあれば相談に乗るよ、この言葉をよく覚えておいて」

(なにか意味ありげに言ったのは気になったけど)

「……わかったよ。その時はよろしくね」

(初音ちゃんを挑発しておいてあっさりと退く、日菜子が何を考えているか分からないけど話がこじれなくてよかった)


 優斗は家に帰り部屋で待つ。教材を眺めてしばらく経つと初音から連絡が入ったので家に招いた。


「大事な話がある、聞いてくれる?」

「うん」

「僕は初音ちゃんの気持ちに応えようと思う」

「!!」


 初音の目に涙が浮かぶ。優斗は彼女の表情に浮かぶ様々な表情を一瞬見て、思わず彼女を抱きしめた。


「あっ……」

「答えを先延ばしにしたみたいでごめん」

「うん」

「僕を許してくれる?」

「ううん、許さない。いっぱい好きって言ってもらうんだから!」

「うん、大好きだよ」

「もっと言って」

「ずっと想ってくれる初音ちゃんが大好き」

「うん」

「僕を思って、今もこうして震えて泣いてくれる君が大好きだよ」

「ねえ、キスしよ?」

「どんなキスがいい?」

「大好きって伝わる、そんなキスがいいな」

「わかった」


 2人で甘い時を過ごしたけれど、もうそろそろ夕飯を作り始めないといけないことに気が付く。今までは初音が優斗にアピールするために調理を手伝うことはなかったけど、今日は優斗が初音の調理を手伝った。ちょうど夕飯を作り終えたタイミングで心晴が帰ってきた。


「この距離感……今日は赤飯よ!!」

「なんでだよ!?もう作り終わってるよ!」

「初音ちゃん!とうとうライクからラブになったのよね!?」

「うんっ!」

「どうしてわかった!?」

「これもすべてラブのパワーよ!」

「とりあえずその喋り方やめよ?」


 初音は心晴に優斗と結ばれるまでのストーリーを大げさに語った。まるで恋愛映画の予告編のような語りに優斗がストップをかけようとしたが、面白がった心晴によって続行することになる。


「で、さっきまでエッチなことをしてたと?」

「そのとおり」

「そのとおりじゃないよ」

「なんにせよおめでとう。長年の片思いが叶うっていいものねー」

「心晴ちゃんのおかげだよ。あたしの力になってくれてありがと」

(完全に2人の世界だなー)


 2人が話しに夢中になっているうちに、優斗は席を離れ食器を洗った。


「初音ちゃん、僕の部屋にいこうか?」

「うん」

「あと1時間もしないうちにお母さんが帰ってくるから声は漏れないようにね?」

「姉さんは無視して行こうか」

「うん」


 優斗は部屋のドアを閉め、一応聞き耳を立てる。


「ふうっ、流石にこないか」

「優斗くん、そんな心晴ちゃんを気にして、ホントにえっちなことするの?」

「違わなくないよ」

「えっ!?」

「初音ちゃん」

「はっ、はいっ!」

「改めて抱きしめていいかな?」

「~~~~~~」


 初音は身体をねじり、無言の叫びを上げた。


「おねがいします」

「じゃあ」

「……ぁ」


 初音の小柄な身体はとても熱かった。


(小動物のように小さく震えてかわいい)

「優斗くん……」

(何をして欲しいか目を見てわかったよ)


 2人は何度も唇を重ねた。

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