人のふり見て我が身を考える

「つまり克也は彼女に浮気されたんだね?」

「まあ……そうだな」


 優斗は日菜子のことはあきらめきれず、初音とは一旦距離を取った。優斗はそのことを優柔不断で最低だと思っていた。そんなことを思いながら1人で引きこもっていると、『相談に乗ってくれ』と友人の克也から電話があった。優斗はその相談に全く乗り気じゃなかったが有無を言わせない勢いに押し切られてしまった。


「で、克也はどうしたいの?」

「そうだ、それで悩んでるんだ。俺は彼女を許せない、だけど別れるのも嫌なんだ」

「じゃあ話は変わるけど冷静に考えて克也に落ち度はなかったの?」

「俺は別にわり―ことはしてねえぞ!?」

「僕に怒ってもしょうがないじゃない」


 克也は少し冷静さを失ったが、わるいと言って深く息を吐く。2人が話すファミレスでは会話などの雑音が飛び交っている。


「すまん、落ち着いて考えてみるわ」

「じゃあそうだね。まずはメールとかデートの頻度とか聞いてみようか?」

「あ、なら最近のメールのやり取りを見せるわ」

「う、うん。まあこの中身は誰にもしゃべらないから安心してよ」


 優斗がメールのやり取りを見てみるとあることに気が付く。


「ねえ、これ見て」

「ん?なんか変だったか?」

「君の彼女は何回もサインを送ってたんじゃないのかな?」

「えっ?」

「最近のやり取りはそっけなかったり、ごめんって断られることが増えたよね?」

「言われてみてはっきりしたけど、それはなんとなく気づいていた。それもあって女友達に浮気してるよって言われて彼女を問い詰めて……」

「1回落ち着こうか」

「ああ」


 優斗は2人分の飲み物をドリンクバーに取りに行き、克也に落ち着く時間を与えた。その甲斐もあって克也はネガティブな様子はすっかり消え、冷静になっていた。


「じゃあ続きにいくよ?」

「たのむ」

「彼女の出したサインはもっと前にもあったんだ」

「そうなのか!?」

「落ち着いて、克也がサインに気づかなかった事実は変わらないよ」

「ああ、そうだな。大切なのはこれからだな」

「これからのことが重要だね。君は彼女を責めたいの、それともやり直したいの?」

「やり直したい。優斗にも気づいたくらいだ。由梨花は俺に不満を持っていた、それを認める」

「じゃあ2人のことを聞かせて、そこに解決の糸口があるはずだから」

「ああ、頼む」


 優斗には克也の顔つきが明らかに変わって見えた。


「君たちは付き合ってどのくらい?」

「高3の夏からだからもう2年近くになる」

「それはすごいね」

「俺が部活を引退するのを機に彼女から告白されたんだ。俺も由梨花のことをいいなって思ってたから両想いだ」

「いいね」

「付き合う前、俺たちはただのクラスメイトだった。友達の友達そのくらいの関係だった」

「その後、受験勉強で忙しかったんじゃない?」

「今思えば楽しかったな。時間がないけどお互いに得意な教科を教えあって、それだけでも楽しかった」

「うん」

「クリスマスとか正月もほぼ勉強漬けだったな。半日だけのデートは眠れないほどテンションが上がったんだ」

「ははっ」

「ばか、笑うなよ恥ずかしい。でもな受ける学部は全く違ってな、せめて大学だけは同じにしようって言ったんだが、結果は別の大学同士になっちまった」

「でも我慢した分、受験が終わってからは楽しくデートしたんでしょ?」

「まあな。色んなこともしたしなっ」

「ふっ」

「冗談は置いておいて、大学に入って3か月も経つと、流石に付き合いたてのような新鮮な気持ちはなくなっちまった。それはしょうがないだろ?」

「まあそうだね」

「昔からの友達みたいに近くて大切だけど新鮮な気持ちで付き合えない関係になっちまったのかもな……。メールも1日3回もあればうっとおしく思ってたし」

「克也は女友達とグループメールとかしたことないでしょ?」

「なんだ突然?したことはないが」

「女子の会話ってたまに脈略がなかったりするけどそれで盛り上がることが多いんだよね。その場の空気ってやつが重要って僕は思ってるよ」

「ん?んんっ?それって今の話に関係があるか?」

「大いにあるよ。つまり彼女は克也との会話と友達の会話を比較してつまらないと思っていたかもしれない」

「まあ、そうかもな。俺は女子相手にはあんまり会話が続かないわ。じゃあ優斗は俺に女子と付き合うなって言うのか?」

「いや、そうじゃない。会話が上手いに越したことはないけど、そうじゃなくても女の子と付き合えると思うよ」

「具体的に頼む」

「実際に会ったときに大切に想ってるって言葉にするんだ。ちゃんと伝えることが重要だと思う」

「それって優斗だから言えることじゃないか?」

「そんなことはないよ。まずは彼女と話し合って寂しい思いをさせたことを謝ったらいいんじゃない?」

「そんなに上手くいくか?」

「上手くやろうとしなくていいよ。心が通じたらあとは、彼女の方からやってほしいことを言ってくれると思うよ」

「やってみるか。ありがとな優斗」

「がんばってね」


(想ってくれる相手か、初音ちゃんはずっと僕を見てくれている。このまま彼女を待たせるのは酷いな)


 優斗は未練を断ち切って初音の想いを受け止めることを決めた。

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