第三章
最悪
「私は悪女なの」
「……最悪だ」
デートの次の日、優斗は浮かれた気分で日菜子に誘われた。彼らがしばらく話した後、現れたのは初音だった。初音が現れたとき、彼女たちの表情で優斗は嫌なことを察した。
「日菜子先輩、私に優斗くんと仲良くしている姿を見せて満足ですか?」
「日菜子、説明してくれない?」
日菜子は悪びれることなくこう言う。
「このまま優斗くんをモノにしてもさ、大切にする自信がなくてね。初音ちゃんには当て馬になってほしいの」
「君、なに言ってるのかわかってるの?」
「わかってるよ、私も最低なことを言ってる自覚はあるよ」
「初音ちゃんを巻き込んでそんなわがままを言うなんて!」
「本当にいいんですね!?」
2人の会話に初音が割り込む。日菜子を見つめる瞳は強い意思を宿していた。
「ああ、いいさ。しばらくは優斗くんと仲良くしてるといいよ。その後でかっさらうけどね」
「そんな遊びみたいにあたしにチャンスをあげたことを後悔しないでください、先輩」
「楽しみにしておくよ」
「私はあなたの誘惑に乗らないくらい優斗くんを幸せにします。行こっ、優斗くん」
「……ああ」
初音は優斗の手を引き、その場を離れる。優斗の耳には小さく日菜子が何かを呟くのが聞こえた。
日菜子が見えなくなり、人気がなくなったところで初音は足を止めた。
「あんなのってないよ!」
「…………」
初音は泣いていた。優斗に抱き着き、彼はそれを拒まなかった。胸に顔をうずめ、自分のために泣いている彼女を優斗は愛おしいとまでは思えなかった。
初音が落ち着いたのをみて優斗は言葉をかける。
「落ち着いた?」
「落ち着かない。好きな人の胸の中にいるなんて正直ドキドキだよ」
「じゃあちゃんと話をしよ?」
「やだ」
「またそんなわがまま言って」
「ねえ、優斗くん。あんな酷いこと言われてまだ日菜子先輩のこと好き?」
「…………」
「うん、すぐに返事ができないってことは未練があるってことだよ。ちゃんと答えを出すまで話してあげない」
「確かに初音ちゃんに偉そうに言って僕は日菜子のことを諦めてないみたいだ」
「そんなきっぱり言われるなんてショック。ぜったい放してやらないんだから」
「どうすれば放してくれるの?」
「女の子がおっぱい押し付けてアピールしてるんだから、もうちょっと動揺して欲しいなぁ」
「僕は初音ちゃんを意識してるし、今でも十分気まずい気持ちなんだけど」
「あ、本当だ」
「ちょっと!どこ触ってるの!?」
優斗が初音を無理やり引き離そうとして初音がバランスを崩す。それを優斗が支えようとすると初音は首に腕を回す。
優斗の顔に近づいた初音は唇を重ねた。軽く唇に触れるだけのキス、だけどその意味はただの恋心だけではなかった。
「あ」
初音の表情には必死さが見えた。優斗を取られたくない、なんとしても振り向いて欲しいそんな気持ちが伝わった。
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