もっと知りたい
優斗たちは水族館のある駅に着いた。
「優斗はお疲れなようだし、フラペチーノでも飲みましょうか」
「う、うん」
「本当に元気ないね、今ならお持ち帰りされそうだよ?」
「う~」
「子犬みたいでかわいい」
(ダメだ、駆け引きなんてしている場合じゃない)
優斗と日菜子が入ったのはセルフサービスのチェーンのコーヒー店だ。2人は窓際の席に隣り合って座る。席を選んだのは優斗だった。
「日菜子、僕の今の気持ちを伝えておく」
「ああ、告白するの?」
(日菜子はつまらなそうだ、メールの時も一緒だったのだろう)
「違うよ、確かに僕は異性として君に惹かれている。だけどこのまま君に恋人の関係を望めば、きっと後悔すると思っているんだ」
「へえ、おもしろいわ」
(日菜子はきっと落胆していた僕に再び興味を持ったことだろう。彼女は言っていた、最高のパートナーに出会うことが目的と。あの時僕にそんなことを言ったのは僕に期待していなかったからだろう)
(でも今は僕の『意外な一面』ってやつに期待をしている。僕が翻弄されている以上このままでは彼女の本心を知れない。なら僕はストレートに彼女に思ったことを言って彼女の本音を引き出すことにしよう)
「君はとても魅力的だし、ドキドキさせられる。だけど僕は君のことはまだ知らない、だから知りたい」
「どういう風に知るつもりなの?」
「予想はできている、だから聞いてみようと思う」
「何を聞くの?」
「日菜子は僕が恥ずかしがるか、余裕がなくなって取り繕えない顔かどっちが好きなの?」
「ふふふふっ」
(ストレートに聞いたほうがいいと思ったけどやっぱりそうだった。彼女は駆け引きであんなことをやってたんじゃなかったんだ)
「私は優斗の本当の顔が見たいの。嫌われるからって遠慮されるのが一番嫌いなのよね」
「僕は極端に嫌われることを恐れていた人間だよ?」
「だからいいんじゃない?本音をちゃんと自覚してなければ上手く取り繕えないものよ」
「今更ながら日菜子は今まで思っていたのと違わないことに安心したよ」
「?」
「君は無自覚に人をからかい、振り回す。自分が楽しければ幸せって人物ってことさ」
「あはっ、高校の時よく言われた」
「僕たちは友達だ。その部分は変わらなかったんだね」
「ええ、友達として優斗と話すのは楽しさよりも安心って感じだったかな?でもこうしてズバっと言われると刺激があって楽しいわよ」
「日菜子は僕に友達以上を求めている?」
「そうよ。気の合う友達が男としても好きって最高じゃない?」
「僕って男らしい?」
「生物としての男らしさなんて求めていないから安心して。逆に聞くわ、私って女として魅力的?」
「翻弄されている僕を見てまだそんなこと言う?」
「じゃあエロい方面では?どう見てた?」
「はあ。楽しそうに聞くね。色っぽいって感じたところは首筋に唇だよ」
「他には他には?」
「瞳だよ。日菜子が美人だって分かってたけど、ここまで目を奪われ、引き込まれるとは思わなかった」
「ふーん。フツーに言ったわね」
「試されてみたいでムカついてきたから頭出して」
「えー、こんなかわいい女の子をぶつのー?」
(ぶたないよ、でも)
「わっ。むぅ~」
「よしよし」
「不意打ちはお互い様かぁ」
「そうだね」
「優斗に頭を撫でられるってなんだか気が抜けるわ」
「どう?僕と同じ気持ちになった?」
「う~ん。わかんな……えっ?」
「更に耳とかどうかな?」
「……んっ……ぃぃ……かも……」
「うん、やめ」
「あっ」
(今やめないとブレーキ効かなさそうだった)
「さあ、水族館を見て回ろうか?」
「ぶー、わかったよー」
「ゆーと見て、せー〇みたい」
「うわぁ、君バカなの?」
「知性を持つからこそ、バカな行為にも意味を見つけれるのさ」
「それっぽいこと言っても君がバカなこと言ったのには変わらないよ」
「いや、あれだよ?女子も下ネタ結構好きだから!例えば先輩なんかとよく……」
「やめて!!誰がとか具体的に言ったら今度から見る目変わっちゃうから!!」
「あ~それはいいこと聞いたなぁ~」
「その口を閉じようか?いくら正直がいいって言っても人が嫌がることはしちゃダメでしょ?」
「ふふっ」
「はぁー」
「やっぱり水族館といえば巨大な水槽でいっぱい魚が泳いでるのが人気じゃない?」
「へーそう?」
「日菜子みたいにマイナーな水槽に張り付いて変な感想ばっかり求める人って変人って言うんだよ?」
「変人っ!うけるわぁ~わはっ」
「そんなにお腹を抱えて笑うこと?笑いのツボがわかんないよ」
「いや~優斗が意外と毒のあることを言うから楽しくってね」
「あれだけ正直になれって言うから、君の行動が客観的にどう見えるか言ってるだけなんだけど?毒があるとか心外だよ」
「すごい真顔で言ってるところなんてウケるわぁ、あはははっ」
「想像した水族館デートとは違うけど、子どもみたいにはしゃいでくれてよかったよ」
「うん。すっごく笑ったわぁ」
水族館から出た日菜子は髪を下ろし、メガネをかけた。館内ではしゃいでいた日菜子は優斗の思う普段の彼女に近かった。だだ向けられる笑顔に優斗の心は何度も揺らされた。
(デートも終わりかぁ。僕は彼女にどれだけ惚れたのだろう、別れるのが辛い)
「!!?」
「…………」
「…………」
「優斗も頭撫でて」
「……わかった」
日菜子は突然抱き着き、優斗の頭を優しく撫でる。優斗は驚きながらも優しく彼女を抱き寄せる。彼女は小声で優斗に頭を撫でるよう要求した。
互いの心臓の音を聞きながら2人は抱擁し続けた。
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