水族館デート

「おはよ」

「ああ、おはよう」


 そっけない、いつも通りの挨拶を優斗と日菜子は交わす。昨日は優斗と日菜子は二言、三言言葉を交わしただけで周りに気づかれることなく自然に接した。デートのある今日も同じだが、優斗は日菜子の服装を注視していた。


(今日はこのままデートだって約束だけど日菜子はいつもとそこまで変わらない。久々に姉にアドバイスをもらってコーディネートをしてしまった)

(学内で一緒に帰ると変に噂が立つから駅のホームで合流しよう、か付き合ってるわけじゃないしょうがないよね)


「やあ、さっきぶり」

「そうだね、いこうか」

「やっぱりいつもの声のトーンじゃないね」

「うん、大学やバイト先以外ではこんな感じ」

「大学での日菜子を知っている身としてはすごく違和感があるよ」

「そう?最初は自分ではなんて演技染みてるんだろうって思ったんだけど慣れるとそっちが普通になるんだね」

「初めて会った印象は独特だったけどそこまで違和感がない口調だったよ?」

「アニメ映画の声のトーンを参考にしたの、すぐにオペラでも始めるくらいの気持ちってやつ?」

「それは面白いね」

「そういえば今日はデートだったわね」


 日菜子は髪を縛り上げ、メガネを外した。電車の中の人間が思わず日菜子の方を見たのを優斗は気づく。


(大丈夫、今はまだ平静だ)

「あら?反応が薄いわ、ちょっと面白い顔が見えると思ったのに残念だわ」

「え?あ?」

「顔を赤くして、思ったとおりかわいいわね。隣に座ってるんだから腕くらい簡単に取れるわよ」

(胸が当たってる)

「当たってるんじゃなくて当ててるのよ?」


 日菜子は優斗が見たことのない猫のような無邪気な顔を見せた。


(耳まで真っ赤になっているのが分かる、恥ずかしくて顔を向けられない)

「え~優斗くん。ひなこさーみーしーいー。ふーっ」

「耳にっ!?息を吹き込むのやめてよ!?」

「優斗くん?電車で大きな声はよくないよ?」

「くっ、もうそろそろ腕を離してもらってもいいかな?」

「まともに顔が見れない?ふふっ」

「…………」

「このあたりにしておこうかな、注目も集めていることだしね」

「前から思ってたけど、ぜったい性格悪いだろ?」

「ふふふっ、優斗はこのくらい刺激的な方が好きだと思うなぁ」

(翻弄されながらも、心では日菜子のことをかわいいと思ってしまう)


(僕たちは友達としても仲はいい方だった。家族のこと友達のことバイトのこと、高校生の頃のこと、当たり障りのない会話はよくしてきた)

「優斗は今まで何人と付き合ってきた?」

「……3人だよ」

(また聞きにくいことを)

「じゃあもうちょっと攻めたこと聞いてみようかな?」

「…………」

「唇と首筋どっちが気になる?それともおっぱい?」

「おっ!?……ゴホっ!」

「あはははっ、やっぱりいいわ」

「そんなにからかって楽しい!?」

「期待どおりだと楽しいよ。ごめんごめん」

(あっ)

「やっぱり頭を撫でると目がとろんとなるんだね、かわいい」


(今、僕はどんな顔をしているんだろう?)

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