察知

「ちょっと優斗くん聞いてた?」

「ごめん、ちょっと聞いてなかった」

「大丈夫?調子悪くない?」

「調子は悪くないよ、でもちょっと勉強で難しいところがあるから今日は部屋で勉強したいかな」

「……うん、残念だけどしょうがないよね」

(ごめんね初音ちゃん、今は君に向き合えないよ)


 旅行から帰り、気持ちが落ち着いたからこそ優斗は日菜子と何を話せばいいのかわからなかった。2日の間2人は軽い挨拶のみで会話をまともにしていない。今は火曜の夜、優斗のバイトがない日なので初音が夕飯を作りに来る日だった。


(日菜子からは連絡はなし、この2日間十分に僕自身の気持ちを整理することができた。覚悟を決めて日菜子に連絡を取ってみよう)


 優斗は日菜子にメールを送る。


『ちょっと話をしたいんだけどいいかな?』

『なに?』

『旅行のことなんだけど』

『ん?私に告白でもするの?』

(告白!?僕の反応を見て楽しんでるのか日菜子が何を考えているかわからない)


『違うよ』

『かなり間が空いたね。期待通りの反応だよ』

『日菜子、からかってるの?』

『そうともいえるし、そうじゃないともいえる』

『僕は日菜子の気持ちが分からないよ、旅行で言ったこと本気なの?』

『旅行でいったこととは?具体的に言って』

『僕がかわいいっていうのと僕のことをもっと知りたいって言ったこと』

『ああ、私は嘘はつかないよ。だってあの時の君はかわいかったもの』

『僕を知りたいっていうのは?』

『さっきのこともそうだけど私は君の違う面を見たい、でも君が私とただの友達を続けたいならあきらめるよ』

『友達を続けたいって言ったら明日からいつもの関係になる?』

『少なくとも私はそのつもりだよ』

『じゃあ僕も日菜子のことをもっと知りたいって言ったら?』

『それを聞くってことは私たちの気持ちは一緒だってことじゃない?』

(メールのやり取りではっきりと示した、僕は女性として日菜子のことが気になっていると)


『そうだね』

『なら今度デートをしよう』

(日菜子から誘うとはね)

『分かった、いつにしよう?』

『ふふっ、君のバイトがない日、木曜なんてどうだろう?』

(ふいに初音ちゃんの顔が浮かんでしまった)

『大丈夫だよ、この日は昼で講義も終わるしね。どこにする?』

『水族館なんてどうだろう?平日の水族館なんて平和そうでいいだろ?』

『ゆっくり見て回るのはいいだろうね』

『楽しみにしてるわ、優斗』


(水族館には何度か付き合っていた彼女と行ったことがある。あの時は何回もデートをしたあとだったから水族館自体をよく見れたと思う。今回は……考えても仕方がないか)


「優斗、ちょっと来なさい」

「姉さんそれに初音ちゃんも!?」

「……やっぱりね。女の気配がするわ」

「!?」

「…………」


 メールのやり取りが終わり、優斗が部屋から出てリビングに行くと2人が待っていた。初音は泣きそうな顔になっている、優斗の部屋に3人は移動する。


「で、優斗?なにか言い訳はある?」

「なんのこと?」

「優斗は初音ちゃんにちゃんと向き合うって言ったでしょ?なのに他の女に気が向くってどういうことなの?」

「まるで見ていたような言い方だね」

(超能力者か!?この姉は!)


「どうやら図星なようね。言い訳を言ってごらんなさい」

「そもそも初音ちゃんと付き合ってもいないんだから、誰かに気持ちが揺れることが悪いことなの?」

「優斗くんのこと、あたしもっと誠実だと思ってた」


 初音が話に割って入ると空気が変わった。そっと呟くようなその言葉は怒りが込められている。


「僕も人間だよ?誰かを気になることはある」

「…………うっ」

「!!」


 初音は涙を浮かべ泣き出してしまう。優斗は動揺する、同時に初音の涙の理由を考える。この時優斗は無意識にこう思った、その涙が嫉妬で優斗に罪悪感を押し付けてくるならば初音に失望すると。

 心晴に慰められた初音から出た言葉は優斗にとって驚きのものだった。


「……好きな人に振り向いてもらえないのはあたしに魅力がないからなのに」

「…………」

「それを優斗くんや日菜子先輩が悪いって思っちゃった。そんな弱いあたしが嫌い」

(初音ちゃんは僕をずっと見てた、日菜子を意識してるのに気づいたんだ。気づいて嫉妬し、自分の弱さが悪いと戒めた。そんな彼女に僕は問わないといけない)


「それで初音ちゃんは僕に何をしてほしいの?」

「ちょっと優斗!」

「これは僕と初音ちゃんの問題だよ?」

「優斗くんの都合のいいときでいい、またチャンスを……くれませんか?」

(祈るように言われたら僕の答えは決まっている)

「まず、もし僕と日菜子が付き合うことになったらその時は諦めて」

「はい」

「次にまだ僕の気持ちは僕自身が分からない、初音ちゃんに向き合えるようになるまで会わないでおこう」

「ちょっと優斗!?」

「それでもいい?」

「はい、優斗さんを信じています」

「初音ちゃん!?そんな都合のいい女みたいな扱いでいいの?」


 初音の瞳はまっすぐ貫くように前を向く、2人はその様子に魅入られた。


「今回、優斗くんは本気の恋をしようとしているのだと思う」

「えっ?」

「あたしはそのことに焦っていた、だけどそれを越えてあたしは優斗くんと結ばれたい」

「わけがわからないわ」

「…………」

(僕は日菜子を特別な女性と思った。初音ちゃんは僕が本気で見極めるからこそ僕を待つと言ったんだ)

「僕は初音ちゃんのことを何度見誤るのだろうね」

「あたしは優斗くんを全力で振り向かせる、ただそれだけ」

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