サークルメンバーたちとの観光

「翼君は大学生活には慣れた?」

「やっぱり高校とは違うんですけど、私服ですし開放感はありますね」

「そうですね。家から1時間かかるんすけど毎日楽しく通えています」

「1時間は大変だね。まじめに単位を取ってれば平日は1日くらい休みができるよ、がんばって」

「そうなんですねー。やっぱ高校とは違うなー」


 新入生の男子、翼と翔大は温泉地を歩きながら優斗と話していた。大学に入って約1か月、2人は意気投合しせっかくだから大学生らしいことをしたい、とこのサークルを選んだ。優斗はそんな2人に新生活の様子を聞き、これからのことへの助言ができたらと思い、話をした。


「先輩たちと話せてよかったっす」

「どうしたの?突然?」

「いやー高校と違って大学って人との距離感遠いじゃないですか?それが学年が違ったり学部が違うと余計に」

「それな。自分でも無意識に不安だったんだなぁってさっき気づいたわー」

「それにこの旅行もちょっと不安もあったんっすよ。なんか俺たちお客さまっぽいよなーって」

「先輩たちはやさしいけどさっきまでなかなか本音で話せない感じがあったんですけど、それがなくなったっていうか」

「それはうれしいな」

「先輩……めっちゃ美人っすね」

「ぷっ。優斗くんは男の子だよー」

「いや、そうっすけど優佳先輩もそう思いません!?」

「優斗先輩ってモデルとか芸能人みたいですよねー。スカウトされたことないんですか?」


 翼の発言がきっかけで女子たちも会話に混じってきた。こうして新入生含む5人は仲良く観光をすることになった。途中、望海を含むグループと合流しマイナースポットにも足を伸ばしたがそれはそれで全員が楽しむことができた。新入生の歓迎という意味で今回は大成功を収めた。


「お?あそこにいるのは酒豪組じゃない?」

「そうですね。落ち着いているようですし合流しますか?」

「めんどくさいテンションじゃなければ大丈夫だろうからね」


「うーす。新人たちはどうだった?」

「みんな仲良くなれましたよ」

「やっぱ優佳や優斗はコミュ力たけ―な。ぐっじょぶ」

「ちょっとあたしはー?」

「暴走せんかったか?」

「せんぱーい。暴走気味でしたが仲間を見つけたので一緒に放流しましたー」

「さすが優佳だ、ないす采配!」

「ぶーぶー」

「「わははは」」

「やっぱ酔っ払いですやん」


 酒で酔っ払っているものの先輩たちは新入生たちと楽しそうに話していた。優斗はその様子を見て安心したもののとある人物がいないことに気が付いた。


「ところで日菜子はどこに行きました?」

「さっきまでそこにいたぞ?まあ飲み過ぎたって感じじゃなかったから大丈夫だとは思うが」

「ちょっと僕、様子見てきます」

「おう、頼む」

(日菜子も女の子だ。たちの悪い観光客に絡まれないとも限らない。もうすぐ日も落ちる、集合時間も近いし捕まえた方がいいだろう)


 日が低くなり山に太陽が隠れると青空が赤みがかり、周りの景色は別の世界のように変わる。時間は短かったが日菜子を探す優斗はどことなく不安を感じた。優斗の不安は杞憂に終わり、何事もなく立っている日菜子を見つける。


「日菜子!もうすぐ集まる時間だよ?」

「…………」

「日菜子?」


 いつもと彼女の様子が違うことに優斗は気が付いた。赤く染まる空が普段とは違う彼女を妖しく見せている。優斗はまるでこの世でないものを見るような、恐ろしく美しいモノを見ているような気分になった。


「優斗君?」

「よ、様子が違うけど大丈夫?」

「私は普通だよ?なにか変かな?」

「なんかいつもの日菜子と違う気がして……」

「あーでもちょっと火照ってるかも」


 日菜子はセミロングの髪を縛り上げる。優斗は思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう。彼女のうなじについ目を奪われてしまったのだ、遅れてそのことに優斗は気が付く。


「そういえばね。私のメガネって実はあんまり度が強くないんだ」

「そう、なんだ。だったら普段は外せばいいんじゃない?」

「メガネをいつもかけるようになったのは人間関係でこじれたから」

「えっ?」


 今更、優斗は気が付く。彼女はいつものようにおどけたような口調じゃないことに。声のトーンが少し低く、抑揚のないしゃべり方だ。優斗はそこに違和感を感じない、むしろ今の彼女の美しさに合っているとさえ思った。優斗は喉の渇きを覚え、彼女の唇、首筋、手先をつい目で追ってしまう。


「でも酔った勢いってやつかな?好奇心が芽生えてね」

「なんの話?」

「今からメガネを外すから優斗は私の目をじっと見つめて」

(目が離せない、呼吸も)


 メガネを外し見つめる、日菜子がしたのはそれだけのことだった。優斗は足に力が入らなくなり地面に手をついてしまう。そんな優斗に日菜子はしゃがみ込み、肩に手を置く。


「さっきの優斗の目、もう一度見せて?」

(頭がボーっとする、言葉に従ってしまう)

「うん、かわいい。今まで私は君のことただの友人として見てた。でもそれって深く知らなかったからなんだね」

(日菜子をもっと見たい、見つめられたい)

「優斗はつまらない人間なんかじゃないよ。私は君のことをもっと知りたくなった」


 もう戻ろう、とメガネも髪型も戻した彼女はいつもの日菜子だった。だけど優斗は彼女をいつも通りには見えないでいた。

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