小旅行

「くはぁぁぁぁぁぁっ!!ビールがうめぇーーーー!!」

「肉がうまぁーーい!!」

「後輩君たちはこんな大人になっちゃいけませんよ」

「「うんうん」」


 ゴールデンウィークが終わった週末、優斗たちサークルメンバーは大学生という立場を利用して1泊の小旅行に出掛けていた。土日といえども大型連休を外せば穴場の宿泊施設はいくらでもある。優斗たちは男女合わせて20名近くいるので大部屋を取れば1人あたりの料金はさらに抑えられる。

 彼らは自前の車を持っていたり、両親に車を借ることで移動手段を確保した。車で移動するのも旅行の楽しみの一つだ。


「パーキングエリアって大きいところは結構おいしいものあるよね?」

「ご当地グルメってやつだね、この牛串なんてスジっぽくなくて脂も悪い感じしないところなんていいよね?」

「えっ!?マジですか?ちょっと高いなーと思って避けてたんですけどぜひ食べなくては!」

「マジでうめぇ。運転手だからビール飲めないのがくやしいわ」


「ははは、みんなテンション高いね」

「日菜子こそいつもより声のトーンが高いよ?」

「まあみんなサークルメンバーってわけさ。ちょっとした非日常感を味わえるのが旅行のいいところってことだね」

(みんな僕に気を使わないようにしてくれてるけど、日菜子以外はつい構えちゃうな。それに今回は気にしないといけない娘もいるし)


 優斗がちらりと見る視線の先にはサークルメンバーと楽しそうに話す初音がいた。しばらくサークルから離れた優斗は初音からサークルに参加したことを聞かされた。驚いた優斗だが初音の言葉を聞いて安心した。さすがに初音もわきまえており、この旅行中は幼馴染として接するのではなく1人の先輩として優斗に接することを約束したからだ。


(逆に僕から幼馴染っていつ打ち明けるか考えちゃってるよ。車中のメンバーは今回は新人をシャッフルしてるから、次に初音ちゃんがくるかもしれないからね)


 優斗の車では休憩前は大人しい女の子を乗せていた。彼女のことを考えて旅行前に話が弾んだ日菜子と最初の車で一緒にしたからだ。優斗が日菜子に相談をしたのはバレていたのかサークルに戻った時には車中は優斗と日菜子は一緒になっていた。次も初音は優斗たちの車には乗らなかった、それを優斗は安心した。


(こうして休憩の度に乗る車やメンバーをシャッフルしておしゃべりをするは去年もしたよね。去年の華織先輩のことをちょっと思い出しちゃったな)


「うっし、着いたぞー」

「「うおーーーーー」」

「先輩たち……大きな声出すと恥ずかしいです……」

「まあ驚くっていうかちょっと引いちゃうよね?」

「あっ、優斗先輩!」

「でもね、こういう風に力いっぱい嬉しさを表に出すっていうのもいいことだと思うんだ」

「そう、なんですか?」

「人間だからね、感情に素直になるってのも自然なことでしょ?いいことなんだから悪く思う人もそんなにいないだろうしね」

「ほへー、優斗先輩がいうとすっごい説得力でいいことな気がしてきました」

「照れるな。それはそうと、うちのサークルは自由時間が多いから集合場所と時間だけ確認しておこうか?」

「はいっ!」


「おー優斗、ここだけの話なんだがお前、新入生にかなり熱い視線を向けられてるぞ」

「はあ」

「今夜は尻を守って寝ろよ?」

「先輩、飲み過ぎに注意してくださいよ?」

「はあーはっはっはっはー。さて冗談はこのくらいにして俺たち3・4年生は酒豪組と自由人組と引率組に別れるが2年生のお前たちはどうする?」

「日菜子は今年は先輩にお酒を教えてもらうって言ってました。僕は新入生を引率する側に回ります。あとは優佳先輩と望海先輩がいれば引率は十分じゃないですか?」

「助かる。まあこのサークルは堅苦しいことはなしなんだが一部の人間は方向性を示してやらんとな」

「まあハメを外し過ぎないように気をつけて見とくので先輩方は地酒を楽しんでください」

「できる後輩だなぁ。卒論前の最後の旅行、楽しませて貰うわ」


 優斗を含め上級生3人で新入生5人に付くことになった。


「さて、新入生くんたち集まってー。おねーさんたちが君たちを案内するよー」

「って言ってもあたし達もこの温泉街にくるのははじめてなんだけどね」

「新入生たちが反応に困ってますよ。僕たちが伝えたいのは旅行先での楽しみ方って感じかな?街並みや伝統工芸、ご当地グルメ、都会ではないような特別な施設なんかを回るといいかもね」


 新入生たちはうんうんと頷いている。


「先輩たちのおすすめの店や場所はありますか?」

「はいはーい、あたしはねーちゃんと調べてきたよー」


 3年生の望海はホームページをプリントした紙を取り出す。ものすごい勢いで喋り出すがこうなったらなかなか止まらないよ、と優斗ともう1人の3年生は呆れている。新入生たちは勢いに圧倒されているか興味を引いているかの2通りに別れた。望海が3分ほど喋ったところでストップをかける。


「という感じなんだけど望海とフィーリングが合いそうな美南ちゃんと初音ちゃんはそっちね」

「「えっ?」」

「よーしおねーさん、かわいい後輩2人に観光の醍醐味を伝えるからねー」

「バイバイのぞみー、またあとでねー」


「あの子たち大丈夫でしょうか?」

「大丈夫よ、望海は観光オタクだけど魅力を伝えたいっていうのが第一だから、今回の旅行先も望海が選んだのよ?」

「そうなんですね。ところで他の先輩たちはどこに行ったのでしょう?」

「君たちは未成年だからダメだけどお酒を飲む人と趣味に全力な人に分かれたかなぁ?」

「趣味に全力?」

「例えばポ〇モン集めとか……」

「あーそういう系ですか?」

「誤解のないように言っておくと話すと普通なんだよ?ただ愛が強すぎるというかなんというか」

「なにか危ない人なんですか?」

「違う違う、そうじゃないよ。その人は普通なんだけど歩く距離が常人じゃついてけないんだ」

「ん?」

「あーあの人、自由時間全部使って歩いてるもんね。前回は8時間くらい?」

「「それは無理」」

(誰か付き合いで一緒に歩いていたんだけど3時間で根を上げていたよね、歩くペース早いし)


「うちらは適当に回って途中で望海たちにオススメ聞く感じで」

「わたしはいいと思います」

「おれも大丈夫です、なっ?」

「おう」

「夕方の6時くらいにご飯だから途中で食べ過ぎないようにね」

「「はいっ」」

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