さよなら

「初音ちゃん、確かめたいことがある」

「優斗さん……」


 優斗は日菜子に言われた方法で初音への気持ちを確かめることにした。姉の心晴は真剣な空気を読み取って黙って成り行きを見つめている。


「両手を前に出して」

「こう、ですか?」

「手を握るよ?」

「はい……」


 優斗はゆっくりと初音の手を握る。目線を手から顔に向け瞳を覗き込んだ。優斗には顔を真っ赤にしながら、切なそうに見つめる熱の籠った瞳が写る。


(手が熱い、それに初音ちゃんの吐息で興奮しているのが伝わる。彼女がそうであるように僕も鼓動が早く、大きくなっている)

(ああ、そうだ。僕は彼女を異性として見れなかったんじゃない、見たくなかったんだ)


「もう大丈夫だよ」

「えっ?……嫌です、もっとちゃんと確認してください!」

(初音ちゃんは勘違いをしているようだ)

「大丈夫。僕は君のことを異性として見ていることが分かったから」


 初音からは大粒の涙が零れ落ち、感情が溢れ出す。見かねた心晴は彼女に抱きついた。


「言葉が足りないのは意地が悪いわ」

「ごめん、僕も余裕がなかったんだ」


 初音は安心と嬉しさから泣き続けた。落ち着くまで2人は待つ。


「落ち着きました。あたしは優斗さんと付き合えるってことでしょうか?」

「それとは話が別だよ。ただ今後は初音ちゃんとしっかりと向き合いたいと思っている」

「一歩前進といったところね」

「そこでなんだけど、初音ちゃんのその格好は正直目のやり場に困る。普通の格好をしてくれない?」


 初音は心晴の方を見る。


「そうね。普通の服装でいいんじゃない?ただし優斗は最終的に初音ちゃんと付き合わないにしろ泣かせるような真似はしないこと」

「もちろんそのつもりだよ?」

「あたしも優斗さんを困らせるようなことはもうしません。その上で優斗さんに好きだって思ってもらいます!」


 この日は3人は心から笑い合って食事をした。


 □ □ □


「華織!いい加減にしろよ!」

「達也に関係なくなーい?うちが優斗くんに話があるんだけどぉ?」

「達也先輩ありがとうございます。ですが今はちゃんと話ができます」

「やっぱねーうち、優斗君のこといいなぁって思って」


 学部が同じ達也は華織がヨリを戻そうとしていることを知り、優斗を守ろうとしていた。達也は白けたように感情のない目で華織のことを見る。

 この10日ほどサークルのメンバーは華織のことをあえて口に出さないでいた。そのせいで変な空気が流れたというのに、当の本人がこの態度なことが達也は許せなかった。

 華織はそんなことは知ったことかと言葉を続ける。


「確かにー優斗君のこと、つまらないって言ったけど紳士だしイケメンだし、王子っぽいじゃん?うち、別れてから間違いに気づいたんよ。だからゴメン、謝るし」

「お前は何を言ってるんだ?」

「だから達也には関係ないじゃん」


 2人はいがみ合いを続けている。あとは優斗が何を言うかで大きく変わる。


「華織先輩、確かに僕はあなたのことが好きでした」

「じゃあ……」

「でもそれは過去のことです。あなたの自由さに惹かれ、あなたとの楽しい関係の延長で交際を決めました。だけど一度僕たちの道は別れたのです。僕はあなたとの関係に区切りをつけ過去のものにした」

「そんなこと言って、また楽しく旅行しようよ?」

「いいえ、それは無理です。それがケジメだと僕は思います。さよなら華織さん」

「えっ?えっ?」

「本当にお前、優斗なのか?」


 2人は優斗が人が変わったように見えた。確かに今までの優斗ならばここまではっきりと自分の意思を突きつけなかったのかもしれない。

 だけど優斗は失恋から立ち上がり、過去を清算した。

 優斗をフッた華織はヨリを戻そうとし、逆に優斗にフラれた。達也を始め、旅行サークルのメンバーに嫌われた彼女はサークルを出禁になった。

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