恋愛相談
「日菜子ちょっといいかい?相談したいことがあるんだけど」
「なんだい?私に相談なんて珍しいね」
日菜子は『生涯で最高のパートナーを見つける』という目標を優斗に話していた。彼女は気まぐれのつもりだったのだが優斗にはその言葉が強く残っていた。ちなみに日菜子は優斗に『恋愛対象じゃない』とも言ったことがある、だからこそそのような言葉が出た。
普段は男子に混じってフランクに話しているのも、彼女なりに異性のことを知るための勉強だった。優斗の知る範囲で彼女ほど恋愛相談に向いている人物はいない。
今まで優斗は他人に恋愛相談をしたことがない。彼は大抵のことはすぐにできた、悩みを相談されたり教えることは多くても、その逆になかなか足を踏み込めなかった。共感されないかもしれない、自分のイメージと違う、そう思うだけで優斗は人に打ち明けることをためらった。
しかし今回は他人に力を借りようと思った。
「相談をしたいんだけど聞いてくれる?」
「待っていたよ、前向きになれるくらい元気は出たかい?」
「まあそこそこね」
優斗はためらいがちに口を開く、日菜子はそれを微笑んで待っていた。
「僕は華織先輩にフラれた。だけどフラれたこと自体はそこまでショックじゃないんだ」
「うん」
(ここまでは日菜子も予想しているだろうし、言うことは簡単だ)
優斗は唾を飲み込み腹を括る。
「フラれたときに僕は言われたんだ、なんてつまらない男なんだってね」
「それはお嬢様な華織先輩っぽい言葉だね」
「その後も追い討ちをかけるように僕の欠点を言われたよ」
優斗はなんでも人並以上にこなせたし、理性的に物事と向き合うことができる。彼女はそれが気に入らなかった。
『あたしにマニュアルみたいな対応をしないで』
『あなた自身に感情はあるの?本当にあたしという人間が好きなの?』
『あたしが大切、興味がある、そんな演技をしてたんじゃないの?』
怒りの感情と共にそんな言葉をぶつけた。
「……まあご愁傷様。で、それについては整理がついたのかな?」
「いや、まだついていない。でも彼女との間に温度差はあったと思う、僕の気持ちが伝わってなかったと思っている」
「うん、優斗はそこを直したいの?」
「僕は付き合ってきた女の子と長く続いたことがない。原因を考えてずっと前にそのことには気が付いていたんだ」
「直そうと努力したの?」
「もちろん、言葉にして態度に現れるようにしたよ。だけどあまりそれでも良くなった気がしなくて……」
(思い出したから涙が出そうだ)
日菜子は僕の顔を見てじっと考え込んだ。
「ところで恋愛のことを相談するのは初めて?」
「……そうだけど?」
「女子ってのはね、知っての通り恋バナが大好きでね。ケンカから失敗、失恋、気になってる人なんか相談するのを楽しむのさ」
(何がいいたいのだろう?)
「つまりね、女子から言わせてもらえばそんな思い詰めて相談することが不思議なんだよ。これじゃまるで人生相談さ」
「確かに思い詰めていたね。でもどうすれば?」
「簡単なことさ、失敗したことを笑い話にしてしまえばいい。そうすれば次はいい恋ができるさってね」
「なっ!?」
「不真面目とでも言いたいのかい?怒ったのかい?」
(日菜子の言いたいことが分からない)
「戸惑っているみたいだね?じゃあ今まで付き合った彼女が理不尽なことを言ってきたとき、君はどうしてた?」
「それは……」
優斗は姉がケンカをした方がいいこともある、と言っていたことを思い出した。
「その反応はろくにケンカなんてしてこなかった感じかな?そんな男女の関係は長続きする方が不思議だよ」
「そうなのか?」
「そういうものだよ。どちらかが一方的に我慢する関係なんて、距離が近くなるほど破綻するものさ」
「それは考えさせられるな」
「言葉を受け入れるくらい立ち直って安心したよ」
(時には意見をぶつからせてお互いのことを知る必要がある。それを避けてきたから僕はつまらないと言われた。そういう可能性があるってことは忘れないでおこう)
日菜子は母親が見せるような温かい笑顔を見せた。こんなにも思ってくれる友人がいることに優斗は感謝した。
一つ山場を乗り越えたところで優斗は初音の話をすることにした。
「続いてで悪いんだけど、最近幼馴染の妹みたいな娘に告白されたんだ」
「なにそれ?どこのエロゲ?」
「変な反応をしないで欲しいんだけど」
優斗はあの日の告白から姉の協力の下、家に何度も夕飯を作りに来ること、大胆な服装を恥ずかしそうに着て優斗にアピールすること、デートのときのこと、優斗についての見え方について話した。
「なかなか情熱的だねー」
「日菜子は楽しそうだね」
「そりゃそうさ、恋バナは楽しいものさ」
優斗は今日初めて、日菜子に冷たい目線を向ける。
「まあ焦らないで、まずは優斗に対しての見え方がどう思ったのか聞こうか?」
「付き合っていた彼女との距離を感じてその空回りがそう見えたのかもね」
「なるほど。君が寂しがりやって線はないかな?」
「その可能性は否定できないね」
「なら彼女に求めるものは性欲それとも安らぎ、楽しさ?」
「……安らぎが強いかな?楽しいことはしてきたけどその後の寂しさが辛かったと今は思うよ」
日菜子は優斗の頭を優しく撫でる。
「ちょっとなにするのさ!?」
「いやー1回くらいそう言われると撫でてみたくなるじゃん」
「…………」
「顔真っ赤になって優斗くんかわいいー」
「からかうなよ」
「ごめんごめん」
(確かに僕は彼女に甘えることはなかった。こういう風に知らない自分を出せたら、今でも付き合っていた彼女がいたかもしれない。ついそういう風に考えてしまう)
「その初音ってコとさ、そういう気持ちになれないって言っていたよね?」
「そうなんだよね」
「じゃあ、正面に立って両手を握って目を見つめてみたら?」
「えっ?」
「手は繋いでも何ともなかったんでしょ?それでも何も感じないんだったらそれを理由に断ればいいんじゃない?」
「……うん、そうだね」
(頼むのは気が引けるけど、このままダラダラと引きずることはできないし、やってみよう)
「今日は助かったよ」
「男子三日会わざれば刮目して見よ」
「は?」
「顔つきが見違えたってことさ」
「最高の誉め言葉だと思っておくよ」
優斗は気づかなかった。本当の意味で日菜子の優斗の見る目が変わっていたことに。
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