モテる男
「優斗さ、どうしたらそこまでモテるの?」
「なに?藪から棒に?」
(僕がちょっと嫌そうな顔をしてることに気づいてよ)
優斗の胸中とは裏腹に男子が集まってきた。
「優斗先生のモテ術?聞きたいわー」
「おう、男子諸君面白そうな話しているねー」
「うわっ、日菜子!?話を盛り上げようとしないで」
「うん、ここはクイズ形式でいこう。私が出題するから男子諸君は答えたまえ」
「「よっしゃやったるぞー」」
(なんか本当に盛り上がってきてしまった。しょうがない付き合うか)
「第1問!今日のファッションのポイントは!?女子目線でいくつかポイント高いところがあるよー」
「「うーん」」
(別にいつも通りの格好なんだけどな……)
「はい!ジャケットが高級ブランド!」
「そこじゃないかな~。ちなみにジャケットは高いやつ?」
「違うよ。量販店のセール品で8000円ってところだね」
「ざんね~ん。別に服が高いとかそういうところじゃないね」
「もしかして、清潔感ってやつ?でも具体的にどこかってのがわかんねー」
「清潔感!いい感じに答えに近づいてきたね。清潔感のポイントはどこかな?」
(僕をクイズにされても全く楽しくないよ)
優斗はいつも姉の心晴に服装をダメ出しされている。心晴は家の中でも『Tシャツとジーンズよりラフな服装はダメ』と言う。ジャージを部屋着にするなんて問題外、中学高校のジャージは捨てられた。
優斗が遅刻しそうな時でもダメなコーディネートは替えさせられる。さすがに優斗も学習したが、季節が変わると姉のNGパターンも変わってしまう。結局優斗は姉と共に買い物に行き、コーディネートの勉強をすることになった。
クイズの時間は続くが時間は有限だ。
「ひなこー、食堂行くから俺たち抜けていいか?」
「そうか、もうそんな時間か。私はもう少し大丈夫やれるけど抜けてもらっても構わないよ」
「じゃあ僕も……」
「「優斗はダメ」」
「お前が弁当なことは俺たちが知ってるぞ」
「昼ご飯はゆっくり食べたいのに」
(日菜子を含め、みんないい性格してるよ)
『モテる』ことに関して優斗は努力をしていた。身だしなみは姉の影響がかなり強く、会話術は書物を読み込んだ。ブランドやアクセサリー、流行りのコンテンツなどの定番の話題を調べることは習慣になっている。変わったものだと手品をいくつか覚え、異性に対する飛び道具まで持っている。
優斗がこんなことを始めたのには理由がある。それは付き合った彼女と長続きしないことからだ。交際の初めはお互いに『好き』でスタートする。しかし優斗の交際を続けたいという意思に反し破局を迎えてしまう。時には別の性格の違う女性とも付き合ってみた。しかし進学先が分かれるなどの事情もあったが、優斗は女性と1年以上付き合ったことがない。
□ □ □
「優斗さんはどんな髪型が好みですか?今日はちょっと大人っぽくしてみました」
「かなり印象変わるね、いいと思うよ」
「優斗、ちゃんと答えてあげなさい。セミロングが好きってことはわかっているのよ」
「……初音ちゃんは元気な印象があるから、いつもの髪型の方がらしくはあるね。ただ今日の髪型もいつもと印象が変わって、初音ちゃんの違った魅力が引き出されてると思うよ」
「魅力感じてくれてるんだ、ふふっ」
「あらあら、照れちゃってかわいい」
心晴は褒められてうれしそうな初音を見て満足した様子だ。初音が吉岡家にいることはかなり多くなった。それは姉の心晴が協力的だったからだ。
優斗は姉にこっそり耳打ちをする。
「あの格好は露出が高すぎない?」
「エプロンにミニスカート、欲望が刺激されるでしょ?」
「姉さん何やらせてるの!?」
「押し倒すよう言った方が良かったかしら?」
「違う!なんてことさせてるんだ!?なんで親の顔も知っている幼馴染に恥ずかしがることさせてるんだって言ってるんだよ!?」
「じゃあどういう風にあなたにアプローチすればいいのよ?刺激が少ないと反応しないじゃない?」
「うっ、それは……」
今日も初音は優斗のために夕飯を作りにきていた。だが優斗を料理で満足させても、彼女をより家族のような存在と思うようになるだけだ。かといって強引に初音に迫られれば優斗は彼女を拒否するだろう。姉の入れ知恵したアピールはある意味では優斗に刺さっていた。
「ごちそうさま、今日もおいしかったよ」
「お粗末様です」
「ちゃんと具体的に褒めなさい。テレビの食レポ並みに褒めるのよ」
優斗は普段使わない脳の領域を使い言葉を捻りだした。途中引きつりそうな顔で姉を睨んだが逆に姉は楽しそうにニヤつく。
「優斗さん、ところで勉強を教えて貰いたいのですがいいですか?」
「いつもごちそうになってるから、そのくらいは」
「もうちょっと笑顔で返事しなさい」
(お前が言うな)
初音は今日、優斗の前にミニスカートで現れた時、顔が赤く表情も硬かった。今ではそんなことは忘れ、優斗と話すのを楽しそうにしている。付き合いたいという話さえなければ優斗は初音と姉と共に過ごす時間に居心地の良さを感じていた。
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