傷心中
「幹彦なんかにやられてよー。優斗が居れば全部かっさらっていくのになぁ」
大学生らしく彼らはキャンパスライフを送っている。高校と比べ、自由な時間が多い生活。特に恋愛面で彼らの変化は大きかった。
「合コンはしばらく遠慮するよ」
(傷心中でそんな気分じゃないし)
「かぁーイケメン様は言うことが違うねぇー」
「おい誠也、あんまり合コンで連敗しているからって優斗に当たるなよ」
「はいはい、俺の八つ当たりだってわかってるよ」
同級生たちは昨日の合コンのことでわいわいと騒いでいる。
「おー君たち、僕の紹介した友達はどうだった?」
「女神さま!聞いてくださいよ~幹彦の野郎、結愛ちゃんと途中で合コン抜けたんっすよ」
「こいつはプレイボーイだからね」
「おい日菜子、死語で人聞きの悪いことを言うな」
「プレイボーイって雑誌は私の愛読書だぞ。まだまだ死語じゃないさ」
日菜子のように男子の輪に入って会話をする女子は、共学であれば一定数いる。彼女はメガネのせいで分かりづらいが美人と呼ばれるくらいに顔が整っている。
だがそれを忘れるほどに日菜子は友達として周りに馴染んでいた。そんな彼女は時々、合コンをセッティングすることがあり、女神と呼ぶ男子がいた。
「ところで君たち、女の子たちをもてなせなかったみたいだね?」
「うっ!それは女の子たちが幹彦狙いで、幹彦が抜けてテンションがあからさまに下がって……」
「それは全部持っていかれる君たちが情けないのではないのかね?」
「「くぅ~」」
「講義を始めてよろしいかね?」
「時間を取らせてすいません、教授」
講義は1、2分遅れたが無事始まった。
「今度の合コンお願いだから来てくれよぉ~優斗なら俺たちのことも立ててくれるだろ?」
「僕はしばらく無理だって言ってるよね?」
「そこをぜひ!金は出すからさぁ」
「こっちからも頼むよ。私の友達がさ、君に会いたいって言ってるんだよねー」
日菜子は友達の写真を見せてくる。彼女の友達は明るくてかわいい子が多いが、今回は日菜子に負けないほどのきれいな女子だった。
「なかなかレベル高いでしょ?優斗君いっちゃいなよ?」
「ホントにそんな気持ちになれないんだって」
「優斗くんが来てくれないと俺さみしーよー」
「誠也は連敗してるのにろくに反省してないでしょ?」
「反省してるんだけど合コンだとなかなか上手くいかないんだよぉ~。それに負けると分かっていても戦う瞬間が男にはある!」
「女の子に振り向いてもらえるように冷静になる努力をしようよ……」
「おー青春してるね、男の子」
「日菜子は煽らないで」
(今日、日菜子は僕に執着してない?)
優斗はとっとと帰ろうと席を立つがあちらの方が一枚上手だった。日菜子を避けたが別の友達に呼び止められてしまった。
「お疲れ、良樹に捕まっていたね」
「日菜子の計算通りか?」
「いやはや何のことだか?ところでお話よろしいかな?」
「……わかった。聞くよ、返事はNOだけどね」
「私が合コンに参加してほしいのは君のことを想ってのことだよ」
「余計なお世話だ」
「いやいや、同じサークルの先輩が君をフってそれだけ凹まれれば、そりゃあ気にするよ」
「…………」
優斗は無言でこの場を離れた。日菜子は空気を読める女子だ。普段ならばあんなことをズバズバと言わない。
(日菜子は別にからかっているわけではない。むしろ気を遣ってああいう風に断りやすいように悪者になってくれてるのだろう)
(気を使わせる自分にむかついた。僕は未だに元彼女に言われた言葉が刺さっている)
「優斗ちょっといいか?」
「すいません、達也先輩。お伝えした通りサークルには顔は出せません」
「いや、そうじゃない。こっちのことは気にしなくていい。ただある程度事情を知ってるだけに心配なんだ」
「……すいません」
「華織が暴走したのを無理やりにでも止めていればと今では後悔してる。だがお前が完全に被害者だとは思っていない」
「僕は華織先輩と納得して付き合いました、そのことに後悔はありません」
「なるほどな……。とにかく落ち着いたら顔を見せてくれ。誰かに相談してもそのことは聞き出さないようにみんなに言っておく」
「わかりました」
優斗たちが所属するサークルは4月中は学校掲示板でメンバーを募集している。今はちょうど新入生を受け入れる時期なのだが優斗は交際していた先輩と気まずくなり顔を出せないでいた。
とはいえそのサークルは、ただの旅行サークルであり大学から援助を受ける公式な団体ではない。達也もそのこともあり、サークルのことは気にするなと言った。
(本当に色々な人に心配をかけているな。今のところ先輩と付き合ったのを知っているのはサークル関係者だけだけど、気づいている人もいるかもしれない)
優斗はここ数日気が重かった。堂々巡りのように何十回も『もしこうだったら』とありえない過去を想像していた。
□ □ □
「吉岡君、体調でも悪いの?」
「す、すいません!」
「今日はボーとしているよ?」
「すいません……」
「う、うん。そういうこともあるけどね。君狙いのお客さんが今日も何組かいてね、僕が行ったらさっき睨まれちゃったよ……」
「うっ、すいません」
「君は真面目だからわざとじゃないのは知ってるから、だたし気をつけてね」
「はい、わかりました」
店長は笑顔で優斗にお客さんの方へ行くように言う。
「優斗君、珍しく店長に注意されてたね」
「うっ、すいません」
「いいよいいよ。優斗君が入る日は人数1人増やしてるし、たまにはそういうこともあるって」
「今日はなんだかいつもより大変だった気がします」
「あーそれって優斗君が関係したんじゃない?」
「えっ?」
「儚げな表情をしたり、テンパって慌てたり、いつもクールな優斗君の特別な表情が見れたから、ファンたちの目の色が変わったからじゃない?」
「…………」
「そりゃ本人には聞こえないようにしていたみたいだけど、あたし達にはヒソヒソ話していた内容がばっちり聞こえたからねー間違いないよー」
優斗がバイトを始めて3か月経った頃、優斗がシフトに入る時間帯の売り上げは大きく上がった。店はピークタイムの長時間滞る客に退店を促す方針を採った。しかし優斗狙いの客はデザートなどのオーダーを小出しに頼み、店に居座った。あきらめた店長は優斗狙いの客を優斗が対応しやすい席に固める方針に変えることにした。
「君がいない日は普通なんだけどね」
「そのようですね。前に何回か別の曜日に出たんですけど、ピーク中の待ちの組数が全然違いました」
「まあ、店の売り上げの為にも、これからもがんばって」
「……はい、がんばります」
「ところで君のファン以外に元気がない原因はなにかな?」
「すいません、今は言えません」
「経験豊富なおねーさんが今なら無料で相談に乗ってあげるけど?」
「いえ、すいません」
「まあいいけど。溜め込むんじゃなくてだれでもいいから話だけでもするんだよー。そうすると楽になるから」
「はい、そうします」
バイト先の先輩はもっとフランクに接していいと優斗に言うが優斗はなかなか態度を変えることができなかった。
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