人生が変わるのは女性との出会いだ

みそカツぱん

第一章

告白されました

「優斗さん、大好きです!」

「ちょっと待って、僕は君のことを……」

「優斗はなぜ素直に喜ばないの?」

「姉さんは黙っててくれるかな?」


 家に帰って優斗の目の前に居るのは、姉の心晴と幼馴染の初音だった。初音は1つ年下で、心晴が妹のように昔から可愛がっていた。

 優斗が初音に告白されるのは初めてじゃない。小学生低学年まで毎日のように、初音は優斗に『将来わたしと結婚してね』と言っていた。幼かった優斗はその言葉にわずらわしさを感じた。しかし子どもながらにきっぱりと断るのは酷いと優斗は思った。彼は彼女に曖昧に微笑み、空っぽな関係を続けた。

 時が経ち、初音との距離に変化が生じた。学年の違う2人の接する時間は減り、中学に上がる頃には初音は優斗と完全に距離を空けるようになった。一方、心晴と初音は相変わらず交流を続けていた。


 優斗が初音と自然に会話をするようになったのは彼女が中2の時だった。姉を挟んで久しぶりに優斗と会話をした初音は年相応の常識的な振る舞いをしていた。時々会話をする仲になった優斗は初音のことを幼馴染で姉にとっての妹のような存在と位置づけるようになった。

 つまりただの幼馴染だ。むしろたまに連れてくる姉の同級生を恋愛対象として見ていた。


「あたし、優斗さんと同じ学部に進学したんです」

「えっ?」

「優斗さんを想って受験勉強をしました」


 現在、成長した初音は優斗に突然告白した。優斗は戸惑った、彼を追いかけて同じ大学、同じ学部に進んだというのだから無理もない。

 それに優斗は彼女を恋愛対象として見ていない。断ることが決定している告白の返事、彼は初音を傷付けない言葉を探していた。


(入学してから僕に告白したのは願掛けみたいなもの?)


 さらなる断りにくさに気づいてしまった。心晴の方をチラリと見ると初音を見守る優しい目を向けていた。

 優斗はため息をつき、背筋を伸ばして彼女の方を向く。


(こういうことははっきりと言った方がいい)

「残念だけど、その想いには応えられない。初音ちゃんのことは妹のようにしか見てないよ」

「はい、知ってます」

「ん!?じゃあなんでそんな思い詰めて告白したの?」

「あたし諦めません!優斗さんのことぜったいに振り向かせてみせます!」

(僕が彼女を恋愛対象として見ていないことを織り込み済みとはね)


 心晴はニコリと笑って優斗に囁く。


「恋する乙女は強い、覚悟することね」


 この初音の告白は心晴に相談して行われたものだった。


(僕は彼女のことを恋愛対象として見ていない。だけど姉さんは勝算があると見て彼女に協力している?)


「初音ちゃんにチャンスは必ず来るわ」

「はい!」

「ところでいい匂いがするんだけど気にならない?」

「うん、おいしそうな生姜焼きの匂いかな?」

「喜びなさい、かわいい初音ちゃんが料理を作ってくれたわよ」


 3人がダイニングに向かうとそこに何品もの料理が並べられていた。


「いつものうちの食卓よりかなり豪勢だね」

「私が手伝ったのよ、味は保証するわ。まあうちの夕飯と比べたらダメよ」

「一生懸命作りました、ぜひ食べてください」

「あったかいうちにいただくよ」

(告白は置いておいて、せっかく作ってくれた料理はいただかないとね)


「きんぴらごぼうはちゃんと味が染みているね」

「この和え物なんかは初音ちゃんが普段から料理をしていることが分かるわね」

「はい、2つともあたしが好きなのでお母さんに何度もコツを聞いて覚えました」

「実はいうと半分は初音ちゃんの家で作ったから私が手伝ったのはちょっとなの」

「姉さんはそんなに料理が得意じゃないからね」

「うるさいわよ」


 吉岡家の女性陣は料理が苦手だった。それに比べ優斗はレシピを見れば彼女たちよりもかなり手早く作れるほど要領が良かった。

 2人は初音の料理を堪能した。今日の料理はただ肉をふんだんに使って、男子が喜ぶものを詰め込んだラインナップではなかった。肉料理以外にも煮物、和え物、初音の家で漬け込んだ漬物などを並べた。バランスよく滋養のある、まさに料理上手といったメニューを初音は用意した。


「ではおやすみなさい」

「じゃあねー初音ちゃん」

「改めてごちそうさま、初音ちゃん」


 玄関まで姉弟は初音を見送った。とはいえ彼女の家は同じマンションだ。


「で、どういうこと?」

「どうって?私が初音ちゃんの恋を応援するってだけだけど」

「それがどういうことか分かっているのかって聞いてるんだけど?」


 心晴はニヤリと笑って答える。


「私としては勝算は50%ってところかな?それなら手を貸す意味もあるでしょ?」

「なっ!?」


 優斗はこの姉が何を言っているか分からなかった。恋愛対象として見れていない女子を優斗が好きになると言っているのだ。


「今の優斗には初音ちゃんのような娘が必要よ」

「どういう意味?」

「それは優斗が考えたほうがいいわ。でもヒントをあげる」

「言ってみてよ」

「優斗は初音ちゃんや私に似た子と付き合うのを避けてきたでしょ?」

「そうだね」

(僕は昔から初音ちゃんを知っている)


 心晴が言う通り、優斗は姉や初音と似たタイプの女子と付き合うのを避けてきた。


「それが何か悪いの?」

「悪くはないわよ。ただ優斗は狭い価値観しか持ってないと思うわ」

「馬鹿にしてるの?」

(少しイラついた。姉さんはこういう風にたまに挑発してくるようなことを僕に言う)


「例えばそうね……私達ってケンカってろくにしてこなかったじゃない?」

「そうだね」

(今みたいにケンカを売られても買わないからね)

「あなたって昔からあまり波風立てたくないってタイプでしょ?世の中にはケンカしたほうがいいこともあるわよ」

「争いなんてしないほうがよくない?」

(姉さんに限らず僕の常識とは違うことを言う人間はいる。結局何が言いたかったんだろう?)


「話はこれで終わりでいい?」

「いいわよ。優斗にもう聞く気はないでしょ?」

「洗いものはやっておくよ、お風呂は先に入ってね」

「ええ、先に入るわね」


(初音ちゃんには悪いけど、僕にはやっぱり恋愛対象に見れないと思うよ。恋なんて好きになろうと努力するものじゃないけど。しばらく納得するまで付き合うくらいのことはしよう。一応小さいころから知っている幼馴染だからね)

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