キングの身代金
☆STEP 1
87分署シリーズでおなじみのエド・マクベインです。ダイジェスト版が高校の英語の教材だったのですが、原題は知りません。なぜならばハヤカワ文庫で邦訳を読んでいて、教材になった英語のダイジェスト版のほうはまったく手をつけていないから。そういう不真面目な学生だったので、今にして無知をさらして恥をかいているわけです。
某有名邦画の原案となっているのもよく知られた話ですが、原作はやはり面白いです。ちょっとあらすじを紹介するのもはばかられるほど。とりあえず誘拐ものとだけ書いておきます。
では、英訳作業に入りましょう。
まず「キング」。これは人名ではなく、身代金を要求されるのが会社社長という言うならば一国一城の主、「王」という立場だからキングなのでしょう。【king】で決まりです。確か会社社長の性格設定が傲慢だったような気もするので、その点も含めて揶揄の意味合いでキングなのかもしれません。
問題は「身代金」。この企画でたびたび出てくる入試・ビジネス・旅行で使う機会のなさそうなミステリ英語です。なんかあったよなぁ、とランサンだかレンサンみたいな発音の言葉が、と脳味噌を刺激しているうちに、ふと「ランサムウェア」というワードがポコッと転がり出てきました。
確かコンピューターウイルスの一種みたいなもので、感染によって起きた不具合を解消したいならばお金を払いなさいと脅すソフトだか仕組みだったような。ワクチン売ってやるからお金払えよ、という脅しの道具だったはず。
きっと「身代金」の意味に違いないと判断して、スペルを考えます。
☆STEP 2
というわけで……
“The Ransum of King”
で、どうでしょうか?
☆STEP 3
正解は……
“King's Ransom”
でした。
ほう。確かにこのほうが、【of】を使わないほうが短くてシンプルでいい気がします。
スペルを間違えた【ransom】ですが、辞書にあたると「身代金」でした。
そして、勉強になったのは、これ。
cost [be worth]a king's ransom
この表現。これで……
(王の身代金、転じて)《やや古》[おおげさに]ものすごく価値のある
……という意味だそうです。
STEP1のあらすじのところで私が伏せた箇所にかかわるので、細かくは書けないのですが、確かに「ものすごく価値のある」ものに対して身代金が要求されるわけです。
☆おまけ
一般的な紹介では伏せられていないため、「某有名邦画」と「あらすじの伏せた部分」について書いておきたいと思います。情報を入れないほうが面白いというスタンスではありますが、気になるというかたもいらっしゃるでしょう。おそらく《キングの身代金》でネット検索やらガイドブックやらで調べると、すぐに出てくることなので書いておきます。
!!!!!!!注意!!!!!!!
この先、『キングの身代金』のあらすじについて少し詳しく言及します。結末には触れませんが、事前情報を少なくして楽しみたいというかたはここで読むのをおやめになることを推奨いたします。
(ここから詳しいあらすじと某有名邦画情報)
これはただの誘拐ものではなく、間違い誘拐を扱った物語なのです。誘拐されたのは会社社長の息子ではなく、社長の運転手の息子。犯人がターゲットを間違えたのです。
それでも身代金の要求先は当然、社長です。自分の息子ではないからと要求を突っぱねようとする社長に対し、憤りながらも立場もあり強く出られない運転手である父親。運転手にとって息子はking's ransom、ものすごく価値のある存在ですが、キングたる社長にはたかが運転手の息子。このあたりの葛藤やジレンマがジリジリと物語を盛り上げるのです。
黒澤明の「天国と地獄」は、マクベインの作品を参考にしています。個人的には「世界のクロサワ」というワードを頭の中から「漂白」したうえで、小説を先に読んでからの映画という流れをオススメします。もちろん、映画で筋をつかんで、たっぷり書き込まれた小説を味わうというのでもまったく問題はありません。
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