第7話 片思いの幼馴染に惚れ薬を飲ませてみたがいつもと態度が変わらない件について

 クリスマスイブに彼を呼び出すと、めんどくさそうな顔をしつつも私の家に来てくれた。まったく、そんな風に付き合いがいいから私だって甘えてしまうんだよ。私が惚れ薬を作ったと言った時の彼の顔は傑作だった。それにしても、惚れ薬と聞いて一体誰と結ばれる姿を想像したやら……気になるものだね。やはり、百崎さんだろうか。私はズキリと胸が痛むのを無視して話を進める。

 最初は抵抗した彼だったが、私が他の人に実験を頼むか……というとあっさり折れてくれた。まったく私が巧の他の人間に大事な実験を頼むはずがないというのにね。しかし、あれである。私に惚れるという行動をあんなに嫌そうにされるのは心外だった。というか、結構傷ついた。やはり想い人でもいるのだろう。だけど、今日で最後だから許してほしい。

 私が電話がかかっていたフリをして部屋から出て、こっそりと覗いていると、彼は二つのビーカーをもって、なにやら悩んでいるようだった。どうやら、ビーカーを入れ替えようかと迷っているようだ。ただいざ、やろうとすると罪悪感がおきて、やめようと思ったのだろう。実にわかりやすい男だね。そして、そういうヘタレな所も嫌いではない。まあいい。これならプランBの方が進めやすいだろう。


 

「ごめんごめん、時間がかかってしまったね。何を固まっているんだい?」

「うおおおお」



 私が電話が終わったふりをして部屋に入ると彼は慌てた様子でビーカーを落としそうになる。そんな彼を見つめながら私は、最初に彼に渡したほうのビーカーを奪い取り、彼が止める前に口をつける。蜂蜜の匂いがする惚れ薬入りコーヒーを飲んで、彼を見てみるが私に変化はない。いつも通り動悸が激しくなっているだろうし、いつも通り私は彼に惚れているだろう。

 そして、私は何かを言いたそうにしている彼に気づかないふりをして、彼にもコーヒーを飲むように促す。そして、彼が私をみつめたのを確認する。どうだろう、彼は惚れてくれただろうか? 

 そう、実は両方のコーヒーに惚れ薬をいれておいたのだ。私はすでに彼に惚れているから効果はないからね、素直に彼が惚れ薬を飲んでくれればよし、抵抗するようだったら、私用のコーヒーだから安全だと思わせた惚れ薬入りコーヒーを飲んでくれればいいのだ。



「どうかな? 動悸が激しくなったり、私の事を好意的に見てしまったりしないかな?」

「いや……特に変化はないな」

「ふむ」



 変化なしか……彼が嘘をつく理由はないからね。どうやら、モルモットと体の大きさが違うからか、薬の周りが遅いのだろう。ああ、でも私がじっと見つめると少し顔が赤くなったな。徐々に効果がではじめているのかもしれない。

 とりあえず、私は適当な理由をつけてデートに誘う。着替えるからと彼を追い出した後に、私は母にデートするときに着なさいと言われ誕生日に無理やり押し付けられた服を取り出してみる。視覚効果でどれだけ魅力があがるかは謎だが試しても見てもいいだろう。 

 そして、最後に友人に「男なんて獣だからこれで迫れば一発」と言われ、ついつい買ってしまった。やたらとレースのついた下着を取り出した。まあ、念には念をというやつだ。最初で最後のデートになるかもしれないしね。



 待ち合わせをした私は、ちゃんとした格好をしている私に驚く彼を見て少し楽しい気分になる。やはり惚れ薬で無理やり作った状況とはいえ、私もワクワクしているのだろう。巧とは結構出かけているがデートという名目は初めてだ。言葉が違うだけでやっていることは同じなのになんだろうね、これは。だから人の感情というのは面白いと思う。あと、少し照れくさそうに可愛いって言ってくれたのは素直に嬉しいし、一生忘れることはないだろう。



「ほう、それはよかった。それでいつもと何か変わったことはないかな? 例えば脳内麻薬のドーパミンが分泌されているとか……」

「いや、普通に考えて、ドーパミンがでてるとかわかるわけねーだろ……」

「ふむ……具体的に言うならば、動悸が激しくなったり、私とちゃんと喋れなくなったり、私の目をみれなくなったりとかは……なさそうだね……」

「まあ、付き合いが長いしな……」



 そろそろ惚れ薬が効いたころだろうと思い彼を観察してみるが、変化はない。さすがに惚れ薬にかかれば、彼だって自分の変化に気づくはずである。この状況でわざわざ嘘をつく理由もないしね。ならば違う方面で感情に刺激を与えるアプローチをくわえたほうがいいだろう。私は今日のために考えた100通りのデートコースのうち一番刺激が強そうな場所を選ぶことにする。


 お化け屋敷に行って彼の感情を揺さぶったがいつもと変化はないようだ。試しに勇気を出して、手をつないでみると、少し顔が赤くなったので効果があったと思ったので聞いてみたが、私に対する感情に変化はないそうだ。どうやら異性と手をつなぐという行動が恥ずかしいらしい。まあ、わからないでもない……私の場合は嬉しさが勝るが恥ずかしさも感じているしね。


 惚れ薬の効果が出ないので、水族館でロマンチックな雰囲気とやらを狙って見たが、効果は薄かった。まあ、あんなところ、観賞用の魚が浮いているだけなので何が楽しいのかはわからないけど……ああ、でも、人ごみに囲まれた時に彼に引き寄せられた時はドキッとしてしまったな。当たり前のようにやるのだから、本当にずるいと思う。

 魚を見ていて空腹を感じたので、せっかくだから寿司でも食べようと言ったら信じられないといった顔をされてしまった。その後、ちょっとおしゃれなイタリアンで食事をして、何か変化がないのかと聞いてみたがやはり返事はノーだった。

 どうやら惚れ薬は効果を発揮していないようだ。ひょっとしたら男性には効かないのかもしれない。こんなことだったら父親にも試しておくべきだったなと後悔しつつも、私は食事を楽しむ。一応効果がない理由はもう一つ考えられるが普段の言動から望み薄だろう。それに……変に期待をして落胆するよりはましだ。

 私は最後の足搔きとばかりに、彼が家まで送ってくれる時にもう少し一緒に過ごさないか? と誘ってみた。もちろん、変な事をするつもりはない。ただ……こう、もう少し話したかったのだ。彼はあした違う人の彼氏になるのだから……だけど、彼の返事はつれなくて……私は虚しさと共にクリスマスを迎えるのだった。


 そんな私は何気なくアルバムを眺めている。そこには色々な思い出があった。両親と、そして巧と二人で並んでいる小学校の入学式の写真、巧の家族と私の家族と一緒にいった旅行の写真など色々とある。小学校高学年あたりから、巧が変な風に発光したりしている写真があるのは、彼が私の実験につきあってくれたからだ。

 中学校の時に、少しだけ疎遠になった時期の写真もあった。確か、巧は難色を示していたけれど、両親に言われていつものように一緒に写真を撮らされていたのだ。なぜか顔はこわばっており、私とも目をあわせずに、心なしか顔が赤い。はは、まるで恋でもしているみたいだね。



『渚、明日学校が終わったら部屋に遊びに行っていいか? 一人でクリスマスは嫌だろ。それに俺も渚と一緒に過ごしたいんだ』



 噂をすればなんとやら、巧から連絡がきたようだ。自分の胸が躍り、頬が紅潮していることだろう。だけど、明日君は告白されるんだ。そして、恋人ができる。そうすれば私は邪魔ものになってしまう。

 彼は優しいから彼女ができても私とこれまでのように接しようとするだろう。だけど、私と彼は異性だ。それを巧の彼女がどう思うかと考えると想像は容易い。そして、私は彼に幼馴染以上の感情を抱いてしまっている。だったらこの関係は終わりにすべきだろう。



『ひまといえばひまだけど、毎年一緒に過ごしているじゃないか、実験をしているから、何か予定があったらそちらを優先してくれて構わないよ」

『渚より大事な用事なんてないぞ。じゃあ、明日な』



 彼からの嬉しい内容のメッセージを私はスクショする。思い出くらいはとっておいても罰はあたらないだろう。今まで私のような変人に付き合ってくれてありがとう。みんなが距離をとる中私と仲良くしてくれて本当に嬉しかったよ。そうして、私はベットに入る。だけど……なぜか全然寝付けなかった。

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