第6話 だから私は惚れ薬を飲ませることにした

 私は幼馴染の後姿を見ながらため息をつく。どうやら実験は失敗したらしい。肝心なところで期待通りにいかないものだ。失敗は成功の母とは言うけれど、今日という日にこそ成功させたかったんだけどね……

 自分で飲んで実験もしたのだけれど、やはり性別が違うと反応が違うようだ。ちなみに自分の時は猫を好きになってしまい苦労したものだ。

 しかし、最後のお誘いは彼には断られてしまった。まあ、デートをできただけでも、良しとするべきだろう。これで明日には彼は別の人の物になってしまうのだから……



「ああ、まったくもって感情というのはめんどくさいなぁ……」



 家に帰ってみる私の目は真っ赤になって、涙が溜まっている。これも全部巧のせいである。実のところ惚れ薬自体は中学の頃にはもう、完成していたのだ。だけど、なぜ今になってこんな手段をとったかというのには理由がある。



 あれは一昨日の金曜日の事である。私が何気なく図書館で資料を漁っていると、巧と同じクラスの女子達が話しているのが聞こえてしまったのだ。



「えー百崎さん、とうとう巧君に告白するの?」

「うん……クリスマスに告白しようと思うの……」

「でも、巧君って川瀬さんと仲が良いよね。付き合っているんじゃ……」



 盗み聞きはいけないだろうと、さっさと去ろうとした私だったが、巧と自分の名前が出たことで思わず聞き耳を立ててしまった。どうやら百崎さんとやらが巧のやつに告白をするらしい。

 百崎さんとやらは優しそうな顔の黒髪の良く似合う美少女である。俗に言う清楚系ってやつだね。クラスで一番ではないけれど、3、4番目人気くらいはありそうな少女だ。そんな子に告白されてしまえばずっと好きな人でもいたりしない限り大抵の男は断らないだろう。

 私は胸の中がざわつくのを自覚する。まったく感情とは煩わしいものだ。まあ、彼と一緒にいると幸せな気持ちになるので悪くはないものだとは思っているのだけれど……そんなことよりも彼は何と答えたのだろうか?



「違うんだって、私もそう思ってたから聞いたんだけど、ただの幼馴染だって。だから私頑張ってみようと思うの」



 その一言を聞いて私は彼女に敬意を表した。彼女がその一歩を踏み出すの相当勇気のいる事だっただろう。今の関係を壊して新しく進む。それはとても大変な事なのだ。それは何年も巧と幼馴染のままだった私にはすごいわかる。私なりに頑張ってはいたつもりだが、彼が百崎さんに答えた幼馴染だという答えが、結果を示している。


 彼女らにばれないように帰宅した私は惚れ薬の保管してある薬品棚を開けた。これを作ったのは中学の頃で、なぜか彼が私と話してくれなくなった時だった。それまでどんなに傍若無人な態度をとっていても一緒にいてくれた彼だったが、中学の修学旅行の少し後から避けるようになったのだ。私はそれがすごい悲しくて……また一緒にいたいなと思い無我夢中で惚れ薬を作ったのだけれど、これで惚れさせても一緒にいたところで意味がないことに気づき封印をしたのであった。ちなみに匂いが蜂蜜なのは彼が少しでも飲むときに苦しまないようにという親切心と、どうせなら美味しいと思って欲しい乙女心というやつだ。

 幸いにもうちの両親と巧の両親が何か話をしてくれたようで仲直りはできたものの、なんとなく捨てる気がおきずにとっておいたまま今に至る。

 だけどそれも終わりだ。彼は彼女が欲しいと言っていたし、百崎さんは可愛らしい女の子だ。悪い噂も聞かない。彼が断わる理由はないだろう。だけど……だけどせめて一日だけでも恋人気分を味わいたかった私は、強引な手段に出ることにしたのであった。

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