第5話 俺の気持ち
「いやぁそれにしても、あの時の顔は傑作だったな。思わず実験を忘れて君を助けてしまったよ」
「うるせー」
あの後、結局お化け屋敷で絶叫した俺を笑いながら引っ張っていた渚と水族館に行ったり、服を見に行ったり、食事をしたりとカップルっぽい事を色々とやってから帰路についていた。本当に楽しそうにいじってくる渚を俺は呻きながら文句を言う。
「だが、いつもの巧だったね……惚れ薬は効果を発揮しなかったようだ……まだ、改良の余地はあるようだ」
「そうだなー、そういう渚も服装とちょっとカップルっぽい事をする以外はいつも通りだったな」
「何を言っているんだ。私がいつも通りなのは当たり前じゃないか。ちなみにカップルぽい事をしたのは実験のためだからね、勘違いしない事だね」
「はいはい」
俺はそう言いながら彼女を家まで送る。結局多少言動はおかしかったものの態度などはいつもの彼女だった。確かに手をつないだり、デートみたいにカップルっぽい事をしてはいたけど、それも彼女のいうように実験なのだろう。
だけどさ、俺の気持ちはもうやばい。幼馴染だからと抑えていた気持ちが爆発してしまいそうになる。手を繋いだり、一緒にお化け屋敷にいったり、雰囲気のいいところでご飯を食べたりしてさ。好きな人とそんな事をやったら、収まらなくなるっての!!
「うーむ、しかしなんで失敗したんだろう。実験では成功していたんだよ。巧はどう思う?」
「んっ、ああ。失敗した理由か……なんでだろうな……実験の時に効かなかったケースとかないのか?」
「ああ、一つだけあったね……確か惚れ薬を飲ませる前から、すでに番だったモルモットには効果がなかったな。もっと情熱的になるかと思いきや、それまで通りイチャイチャしていたし、ドーパミンの分泌量に変化はなかった。この薬はあくまで惚れさせるだからね、すでに惚れてしまっている相手には効果はないんだろうね」
「え……?」
俺は何気ない感じで言った彼女の言葉に思考が固まる。つがいっていうのはカップルだろう。そして、モルモットにどこまで感情があるかはわからないが、相手の事を好きだったら惚れ薬は効かないということなのだ。
となると惚れ薬を飲んだこいつの態度がいつもと変わらない理由として考えられるのはパターンは二つだ。
一つはこいつが仮に惚れたとしても態度が変わらないパターンだ。今日のデートのような行動は実は照れ隠しというパターン。しかし、その可能性は少ない。なぜならこいつは馬鹿じゃない。自分の感情に急激な変化があったら、すぐに惚れ薬を飲んだことに気づいて、「じゃあ、私で実験をしよう。普段との私との違いをレポートにまとめておいてくれたまえ」とか言い出すに違いない。
そうなると、もう一つのパターンだ。こいつが実は俺に惚れているというパターンである。いやいや、まじか? まじか? こいつ俺の事好きなのか。確かにずっと一緒にいるけどさ。こいつの感情はてっきり家族のようなものだと思ったのだ。
「ああ、ついたようだね。よかったらうちに寄っていくかい?」
「え……ああ、どうするかな……」
彼女の言葉で俺の思考が戻る。夜で周りは暗くて本当によかった。今の俺は顔を真っ赤にしているだろう。そして、彼女の家は真っ暗だ。
「あれ、両親はどうしたんだ?」
「ああ、二人は今頃クリスマスを楽しんでいるんじゃないかな? 私も巧と一緒だといったら夜まで楽しんできなさいと言われてしまったよ。もしかしたら、妹か弟ができるかもしれないね。はっはっは、仲が良いのは良い事さ」
さらりと家に誘ってくる渚だったが、つまりクリスマスイブに二人っきりだという事である。いやいや、まずいだろ。特に今日のデートで俺の気持ちが高ぶっているうえに、もしかして、こいつも俺の事を好きなのかもと思ってしまっている今だからこそ余計まずい。理性の抑えが効かなくなるかもしれない。
「いや、ちょっとはしゃぎすぎて疲れたから今日は帰るよ。代わりに明日の夜ご飯を食べようぜ。チキンを買っていくわ」
「そうかい、まあ、なら仕方ないな。実験は失敗だったようだね。ではまた明日」
そういって俺達は別れた。名残惜しい思いもあるが、俺はこれでいいと思う。このままじゃ自分でも何をするかわからないし、告白しても「実験は成功したようだね」と本気にされなそうだからだ。
そして、色々と自分の気持ちを整理して、明日、ちゃんと告白をしよう。そしてその時に実は渚が惚れ薬をのんでいたという事もつげるのだ。だって、そうしなきゃフェアじゃないからな。俺は気持ちを固めながら帰路に立つのだった。
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