第3話 デート

 あの後、俺はいったん家に帰ってから駅前で待ち合わせていた。近所だし、待ち合わせ何てしなくてもいいと思ったのだが、せっかくだからという渚の提案だ。あいつらしくない非効率的な行動だが、これも惚れ薬の効果を調べるのに必要なのかもしれない。


「やあ、待たせたね」

「え……渚なのか?」

「そうだよ、せっかくのデートだからね、お洒落をしてみたんだ。どうかな?」

「渚がまともな恰好をしているーーー!!」



 俺に声をかけてきたのは黒のワンピースにオレンジのニットを着ている渚だった。いつもは制服か、ジャージに白衣というクソダサい恰好しか知らない俺は思わず大声で叫んでしまう。

 いや、まじでそんな服持っていたのかよ。こうしてお洒落な恰好をして街にいると周りの男性たちが、目を向けるのもわかるというものだ。現にカップルの男子が、渚を凝視して、不機嫌そうな彼女に怒られている。



「フフフ、服装を変えるだけでこの反応……思っていたのとは違うが、ふむ……確かに興味深いね。それで、少しくらいは私にドキッとしてくれたかな?」



 クソみたいな反応をしてしまった俺を興味深そうに見つめながら彼女は面白そうに笑った。くっそドキッとするじゃねえかよ。本当に可愛いな。



「ああ、悪かった。その……可愛いと思う」

「ほう、それはよかった。それでいつもと何か変わったことはないかな? 例えば脳内麻薬のドーパミンが過剰に分泌されているとか……」

「いや、普通に考えて、ドーパミンがでてるとかわかるわけねーだろ……」

「ふむ、具体的に言うならば、動悸が激しくなったり、私とちゃんと喋れなくなったり、私の目をみれなくなったりとかは……なさそうだね……」

「まあ、付き合いが長いしな……」



 俺がいつものように彼女の目を見て、返事をすると、彼女はがっかりした顔をする。こいつは変な研究ばっかりしてたから覚えてないかもしれないけど、その症状は中学で経験済みなんだよ。もう、その段階は終わり、ちゃんと喋れるようになっているのだ。当時は本当にやばかったのだ。彼女を意識してしまい全然しゃべれなくなってしまったのだ。


 こいつの事を異性として意識したのは中学の修学旅行の夜がきっかけだった。修学旅行の夜に、部屋でふと好きな人の話題になった時に、誰かが俺と渚の事をいじってきて、その場ではそんなんじゃないといったものの周りからはそう見えるのか、と気づいたのがきっかけですっかり意識してしまったのだ。

 そこからはあっという間だった。なんか動悸が激しくなるし、目を見てしゃべったりできないし、ついつっけんどんな態度をとってしまい、それを認めるのがなんか恥ずかしくて、そして、ついには彼女を避けるようになってしまった。あの時は渚と喧嘩したのかと両親に心配されたものだ。まあ、それも時間が解決してくれたけれど、未だ恋心は健在である。



「そういう渚もそんな風にお洒落をしちゃって何か変化があるんじゃないのか? 例えば俺に惚れたりとか……?」

「はっはっはー何をわかりきったことをきいているんだい? いつも通りに決まっているじゃないか。私は常に自己分析をしているんだ。感情に変化があったらすぐにわかるさ。これはあくまで君の気持ちをのせるための行動にすぎないよ」



 俺の恐る恐るとした質問は鼻で笑われてしまった。なんてこった……この惚れ薬マジで効果ないんじゃないか? 実験失敗なんじゃないのか?



「まあ、いいさ。まだ変化がおきてないようだね、ならば、より変化がおきやすいようにするだけさ。さあ、行こう。この日のためにちょうどいい場所は調べてあるんだ」

「ちょうどいい場所ってどこだよ……」



 がっかりしたような安心したような複雑な気持ちになりながら、とりあえず俺は彼女についていくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る