エピソード5:まんじゅうはなぜ消えた!
「メラクル、ダラけ過ぎ」
「姫様も
それを言われてユリーナは目をぱちぱちさせて動揺しつつ俺を見る。
それはつまり俺と一緒にソファーでグデーンとするということだ。
なお、当たり前のことで誰も指摘しないが、ユリーナはずっと俺に抱き寄せられている。
えっ、道中?
俺がユリーナを手元から離すと思うのか?
俺は思わずメラクルに尋ねた。
「い、良いのか?」
なんの許可を求めているとか聞いてはいけない。
ほら、アレだ。
マナー的にな、うん。
「良いわよ〜」
「ちょ、ちょっと!?」
動転するユリーナを腕に抱え、俺は迷うことなくソファーに横になった。
グデ〜ンと、というわけにはいかないので優しく。
寝転んでいるのでそれほど高くない天井を見上げる形。
腕の中には真っ赤な顔をしたユリーナ。
「ちょっ、レッド!」
「ソファーにグデーンが至福なのよねぇ……」
慌てるユリーナにちょっと眠そうな声のメラクル。
「おお……、これが
「毎回思うけど、これ変じゃない!?」
俺の腕の中で真っ赤な顔をしたユリーナが訴える。
「なにが?」
「腕の中にメラクルがいてもいいでしょ!?
第2夫人なんだから」
ふむ、と俺は首を傾げる。
「ユリーナが左で、右にメラクルか?」
「それとも私が左で姫様が右? どっちでもこのソファーの幅では難しいよね?」
メラクルは目を閉じたまま、手でソファーの幅を示すように両手を開いて見せる。
「そうじゃなくて! 私の代わりにメラクルが腕の中で……」
パチッと目を開けたメラクルがこちらを向く。
俺とメラクルが顔を見合わせる。
「ないよね」
「ないな。2人同時ならあるが」
「2人に対する私の位置付けおかしくない!?」
いいや、なにも?
メラクルも俺と全く同じ思いだろう。
キョトンとした顔で首を傾げる。
「姫様いてこそのハバネロでしょ?」
「ユリーナがいてこその俺だな」
あまりに当然で必然だ。
「ハバネロと姫様はいつもそんなんだから見慣れちゃったわ。むしろ姫様抱きしめてないハバネロとか、どしたん!? ……という感じかなぁ」
「うむ、俺がユリーナを手放すわけがない」
「慣れないで……、みんなで慣れないで……」
それがあまりに当然過ぎて、多少イチャイチャしたところで誰1人指摘してこない。
公爵邸でも生温かい目で見守られるだけだ。
「忙しかったですから、こうしてのんびりするのもいいですねぇ」
今のコーデリアのように俺とユリーナのことには何一つ触れずに、メラクルの横でビスケットをかじりながら普通の顔で俺たちを眺めるだけだ。
「そりゃあ、私ぶっちゃけハバネロ好きだけど姫様も好きなのよ。それなのに姫様押しのけてとか……正直、無くない?」
メラクルは眉間にシワを寄せて首を傾げる。
心の底からそう思っているのがよくわかる。
「今更だよなぁ」
「ねぇ〜」
「変ですから!」
俺とメラクルが珍しく意気投合し、手足をバタバタさせながらユリーナが不満を訴える。
「ま、変な関係といえばそうかもねぇ〜」
「そうか? どうでもいい」
ユリーナの唇にキスをする。
「ど、どさくさに紛れて!?」
ユリーナはまだ顔を赤くしてジタバタ。
メラクルは目が覚めたらしく身体を起こし、優雅にお茶を飲む。
なお、種類によっては茶など特定の飲み物は妊婦の身体には良くないと言われているが、そこはちゃんと問題のない茶葉を使用している。
そうしてまたすぐに横になった。
妊婦なので無理して起きておけとは言わない。
そこへ……。
「あら、お客さん……?」
俺がその声に視線を向けると、そこにはメラクルを少し上品にして年齢を重ねたような綺麗な女性の姿。
成人した子供が2人もいるとは思えぬほどに若々しい。
家主が帰って来たのだ。
……やべっ。
「お帰り、マミー」
「お帰りなさい、お義母様」
「あら? 帰ってたの? コーデリアちゃんお帰り、メラクルは珍しいわね」
驚く貴婦人とソファーに寝転んでいる娘と隣に座る義娘。
その娘の対面のソファーに隠れるように寝転ぶ俺とユリーナ。
動揺するユリーナを気にすることなくメラクルは貴婦人に手を振りながら告げた。
「お土産に肉まん買ってきたけど……なくなったわ」
食ったからだろ。
「それは……事件ね?」
「うん、事件」
「いや、全員で食ったからだろ!?」
思わず、声をあげて指摘してしまった。
貴婦人がこちらに気づいた。
止まる時間。
いそいそと身体を起こす俺とユリーナ。
うん、どうしよう。
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