エピソード3:まんじゅうの香りに誘われて3

 これで見た目はいいからタチが悪い。

 肉まん屋の前で美女集団がたむろしているせいで、一気に注目を浴びてしまう。


 果たして、こんな調子で目的地であるメラクルの実家に辿り着けるのだろうか。

 そこはかとなく不安になった。


 そこにガタイの良い護衛兵士のカンパーニがヌッと人々の視界と俺たちの間に割って入る。

 黒服が似合いそうな身体つきだが心は誰よりも優しい。


 人々の前で無言で立ち塞がる頼り甲斐のある姿には惚れてしまいそうだ。


「あ、カンパーニさん」

 ソフィアが嬉しそうにカンパーニに声をかける。


 並ぶと美女と野獣のビジュアルだが、なんとこの2人は付き合っており、むしろ美女であるソフィアの方がご執心だとか。


「ぐぬぬ……、仕事中にイチャつくなんてー」

 サリーが悔しそうにハンカチを噛み締める。

 全くもってその通りなんだが、おまえが言うのはなんか違う。


「羨ましい!」

 残念美人というやつだ。


「サリーのやつはまだ出会いがないのか?」

 キャリアにこっそりと尋ねる。

「ハハハ……、私たち見て理想が高くなっちゃったみたいで……」

 ポンコツ隊はサリーを除き、特定の相手がいる。


 キャリアも仲の良い従弟ダート君とそういう関係になって仲睦まじくやっているらしい。


 血筋や関係が近い相手とそういう関係になるということは、それはすでに結婚を前提にしたものにしかなり得ない。


 相手と付き合いの長さが1番長いクーデルは別れることがあったら死ぬ、むしろ一緒に死ぬとまで豪語しているし、いまそこでイチャイチャしているソフィアは言うまでもなく。


 とっくの昔に付き合う付き合わないとかいうレベルの関係ではないので、ポンコツ隊の結婚ラッシュもタイミングだけの問題だ。


 その中でサリーだけはそういう相手と巡り合っていない。

 少し前まではメラクル共々、全員合コンを駆け巡る猛者だったというのに……。


「公爵様! 紹介を! イイ男を紹介してくれるって言ったじゃないですか!」

 ギョロッとした目でサリーがこちらを向いて、ゾンビのようにすがりついてくる。


「うるせぇ、おまえらが騒がしいせいでユリーナが空気になってるじゃねぇか」


 サリーの手を避けて、俺はここぞとばかりにユリーナを腕の中に閉じ込める。


「レッド。それを口実にいきなり抱き締めるのをやめて……」

「えっ、やだ」


 諦めたように俺の腕の中でため息を吐くユリーナを愛でつつ、俺はサリーをジロッと見てさらに指摘する。


「だいたいおまえは、この間紹介した男とのデート中に絡んできた酔っ払いのチンピラどもを投げ飛ばしたらしいな。それも10人以上を無傷で大暴れ」

「うぐっ!?」

 そう、俺はちゃんと約束通りサリーに男を紹介した。


 男爵家の次男。

 公爵家の内政官の1人で自己主張するタイプではないが、堅実に仕事もこなし性格面も評判は良い。


 そいつはそのデートの後、あの方は僕のような者にはもったいない、とか遠い目で俺に断りを入れてきた。


「いやぁ〜、私がその投げ飛ばした男たちを説教したあと、色々とそいつらの身の上話を聞いてあげてたら、そいつら男泣きし出して……。仕方ないから酒飲ませて愚痴聞いてたら、いつのまにか男爵家の次男さんが居なくなってて……」


 なお、その店で盛大な酒盛りが開かれて、妊娠中で酒も飲めないのにメラクルも途中参加して、なぜか最終的にその酒代を全額、俺が支払った。


 悪いことではない。

 悪いことではないが、デート相手ほったらかして喧嘩して、その相手と酒を飲み交わしてたら、そりゃ相手も帰るわ。


 うん、やっぱ悪いわ。


 そのサリーをソフィアが優しくたしなめる。

「サリー、隊長を見本にしたらダメだよ?」

「ふぁによ?(なによ?)」

 とりあえずメラクル、口の中の肉まん食ってからしゃべれ。


「たしかにメラクルがしそうな行動だな。しかし目の前で10人以上を投げ飛ばしたか……」

「それは普通の人にはキツいですよねぇ」

 キャリアが苦笑まじりにメラクル化しかけているサリーを見る。


 普通の人はそんな力はない。

 しかしサリーも含め、ポンコツ隊は魔剣の変わりとなる金属片を支給している。

 これは一般にはまだ出回っていない。


 ゆえにその存在を知らない一般の人からすれば、魔剣もないのに人外の力を発揮したように見えたはずだ。


 男爵家の次男も優秀だけど、内政官だし中枢には関わってなかったから知らなかったんだろうなぁ。


 ソフィアもまた、困った子を見るような目でサリーを見て苦笑し、ガタイの良いカンパーニは同意するように無言で頷く。


「なにさ! 貴女たちも同じことできるでしょ!」

 残念な子をみるような目で見られて、サリーが食ってかかる。


「サリー? これでも私たちはタイチョーと世界を駆け抜けた精鋭なんだよ。もう並の騎士が敵わないぐらい」


 キャリアの言葉にクーデルも頷き、言葉を続ける。

「隊長なんてドラゴン型を吹っ飛ばす人外だもんね」


 そうなのだ。


 ポンコツどものくせに、アークマシーンとの戦いもメラクルに引っ付いて最前線で戦い続けたこいつらは、すでに上から数えた方が早いほどの実力だ。


 ポンコツだけど美女で強くて公爵夫人の側付き。

 ポンコツ隊は属性だけなら、とんでもない高嶺の花なのだ。

 ポンコツだけど。

 ポンコツだけど!!


「いいもん! 私いつか白馬に乗った王子様をゲットするんだから。見てろよ!」

 そう言ってビシッと俺たちに指を突きつけるサリー。


「ゲットとか、相手を物扱いしてる時点でちょっと無理じゃないかなぁ……」

 ボソッとクーデルが呟く。

 かなりの毒舌だ。

「もっともなことを!?」

 嘆くサリー。


 そうして、しばらくのち。

 残念娘サリーは宣言通りとある王子様と恋仲になる。

 乗っているものは白馬ではなかったが。


 それはまた、別のお話。

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